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3 冒険者ギルド


「シド。」

 ギルドに入って来た俺に美女が声をかける。ざわついていたギルド内の冒険者達が一斉にコチラへ視線を集める。美女が小走りで近づいてきて俺の腕に自身の腕を巻き付け胸をムニュッと押し付けてくる。そのままギルドの奥に俺を引っ張って行く。

「フレイ、引っ張るな。」

 と、声を上げるとギルド内の冒険者達の目が大きく見開き、口をぽかんと開けてコチラを呆然と見ている。俺はそのままギルドの応接室に連れて行かれた。


 冒険者ギルドは残っている文献によると2000年前から存在し世界中にあった世界最大の組織だ。世界規模になったのは200年前ほどだ。それまでは各地域で独立して運営していた。200年前の世界を巻き込む大規模なスタンピートが発生した際、世界中の国々が協力しスタンピートに対処する為に冒険者ギルドが統合したのだ。本部はスタンピート時に最前線となった中立王国にあり各国に支部がある。ギルド本部長は当時最前線で戦った冒険者ギルド長が選任された。現在は各国のギルド副長の中からギルド内選挙で選ばれている。支部ギルド長は各国の要人が選任され現在では天下りと揶揄されている。各支部副長はギルド本部が世界中の優秀な冒険者の中から選んでおり、国とギルドを相互監視するよう設立時に当時の冒険者ギルドと各国で取り決めた。業務としては多岐にわたるが、周辺地域の調査や魔獣討伐、護衛、最近では各国の犯罪取締り業務や民間企業からの各種依頼も行う。基本なんでも屋なのは昔から変わらない。

 

 俺は応接室にノックして入るとギルド副長が正面の椅子に座っている。俺は軽くアゴを下げ挨拶すると副長が座れと3人掛けのソファへ俺を促す。俺がソファに座るとフレイも腕を組んだままソファに座る。副長が呆れた視線を俺に向けて、

「シド、フレイに何をしたんだい?」

「知らん。今日突然こうなったんだ。」

「はあぁ……。突然と言ってもこれだけ変われば何かあったとしか思えんだろう。」

 俺もわからないのだ。変わったと言われれば見ればわかる。昨夜もいつもと変わらず一夜を過ごした。朝起きてだろう。フレイが今日は昨日の件があるから朝一でギルドに来て欲しいと。了解の返事をすると、どうせだから一緒にギルドに行こうと言われて、まあ良いかと了承する。すると彼女は今まで見たことがないバッチリメイクで髪も綺麗にセットして朝食を共にする。彼女のバッチリメイクは初めて見るので朝はめちゃめちゃドキドキした。美女なのは知っていたがこれほどとは思っていなかった。そのまま一緒にギルドに出勤したが、道行く全ての視線が彼女に向いているのがわかる。彼女は俺の腕に巻きつきソレを離さず見せつけるように歩く。ギルドに入るとギルドの朝礼ギリギリに来たので全職員がコッチを向く。ほぼ全員がフレイに気づいていないのがわかるが猫獣人の受付嬢が

「フレイさん。おはようございますにゃ。」

 と言うと全員目を見開き口をぽかんと開けている。俺は苦笑しながら彼女の腕を外し、朝礼をするんだろ?とギルド長に声を掛けると、ギルド長がコホンと咳をして朝礼を始めた。朝礼が終わるとギルド長から声を掛けられ昨日の件を説明する。今日か明日の夕方にアルマをギルドに呼び謝罪させると言うので、決まったら連絡しろと伝えギルドを出る。昼過ぎに連絡があり今日の夕方ギルドに来ると、フレイは朝から変わらずこの状態だ。副長が俺に聞く。

「プロポーズでもしたのかい?」

 していないと手と首を振る。その時コンコンとドアがノックされた。副長が、

「どうぞ。入りなさい。」

 と返事をすると、

「アルマ・アトカーシャです。入ります。」

 と、昨日の美少女が入室して来た。

 


「アルマ・アトカーシャです。入ります。」

 私は入室すると正面の副長に軽く会釈し横のソファを見て唖然とする。おじさんとフレイさんがべったりくっついて腕を組みおじさんの肩に頭を乗せている。フレイさんは見たことのない笑顔でニコニコしている。おじさんは戸惑っているように見える。副長が苦笑しながら、席に座れと彼等の対面のソファへ私を促す。私がソファに座ると副長が話し始める。

「さて。昨日の賞金首追跡の件だが2人から何か言いたいこと、聞きたいことはあるか?」

 おじさんは特にないというふうに首を振る。……私を責めないんだ……優しいなぁ……と思うが、2人がベタベタしているのを見ると、何故かムカムカしてくる。

「おじさんとフレイさんは何でベタベタしてるんですか?」

 私はイラついた気持ちで聞いてしまった。

「今私達がベタベタしてるのは関係ないよね?」

 フレイさんがニコニコしながら言う。

「関係ないならベタベタしないでください。」

 私は何故こんなにイラついているのだろう。

「アルマちゃん。昨日の賞金首追跡の件でシドに言うことがあるんじゃない?」

 あるけど今はなんかイヤだ。

「おじさんもベタベタしないでください。」

 おじさんにもイラついて言ってしまった。おじさんはフレイさんを引き剥がそうとするがフレイさんは離さない。

「アルマちゃん。シドに謝罪するって言ったよね?」

 イライラで感情的になっている私は何故か謝罪する気持ちになれない。

「おじさん。こんな所でベタベタして大人として恥ずかしくないんですか?」

 おじさんが尚もフレイさんを引き剥がそうとするがフレイさんは離さない。

「アルマちゃん!」

 フレイさんが少し怒った感じで私に謝罪を促してくる。

「おじさん!」

 おじさんはオロオロと動揺して、副長に助けてくれと目で訴えている。

 副長が呆れた感じで話す。

「2人共落ち着け。」

 落ち着けと言われてもイライラは治らないが、口を閉じ、口が開かないよう奥歯に力を入れてグッと耐える。フレイさんは、フンッて感じで私を目で射し、おじさんの腕をガッチリ捕まえている。

「フレイもいい加減にしろ。朝からおかしいぞ。シドも困っている。彼を困らせたいのか?」

 副長が言うとフレイさんは渋々おじさんから体を離す。

「アルマ。賞金首はCランクからでないと受注出来ないことは理解しているな?」

 副長に言われ私はコクンと頷く。副長もヨシと頷き、

「アルマにはランクアップ試験を受けてもらう。試験内容は逃がした賞金首を捕らえることだ。」

「待て。賞金首はBランクで彼女はDランクだぞ。Dランクの試験なのに賞金首を追わせるのは無茶だ!」

 おじさんが私を心配してくれてる。……優しい……嬉しい……。

「アルマには今回の試験ではチームを組んでもらう。君の依頼状況を確認したがレイド以外でチームを組んだことがないだろう?」

 私はレイド以外でチームを組んだことがない。あるんだけどギルドには言えない。

「チームメンバーはシドだ。試験官を兼務させる。」

 私は何故かわからないが、さっきまでイラついていたのが嘘のように嬉しい気持ちになった。おじさんを見ると、え?聞いないよ?って顔をしていた。

「昨日の賞金首の捕縛失敗はギルドの失態だ。2人共、失敗は許されない。」

 副長はおじさんに話しがあるから残れと言い、フレイさんには退室を、私にはギルドのラウンジで待つように言われて応接室を出た。フレイさんを見ると納得していなさそうな顔をしていた。



「シド。」

 俺は美女と美少女の居なくなったこの部屋で安堵していた。副長が苦笑しながら俺に話し掛ける。

「試験官の件は頼むぞ。報酬も別に出す。」

「ああ、了解した。」

「アルマをラウンジに待たせているから今後の打ち合わせをしておけ。」

「分かった。そうだアルマのことを簡単に教えてくれ。」

「本人に聞け。個人情報に厳しい時代なんだ。」

「そうだな。本人に聞くよ。」

「それにしてもフレイにアルマか、モテる男は大変だな。」

 ニヤニヤしながら言ってくる。俺は、

「フレイはそうかも知れないがアルマは違うだろ?」

 アルマは昨日初めて会った。恋愛感情なんてないだろう。

「私も女だ。お前よりは女の気持ちがわかるぞ。」

 ……そうだ。コイツも女だ。

「女がお前を好きになる気持ちは良くわかる。」

 ……それ以上はやめてくれ。

「昔の女以上に誰か1人を愛することは出来ないのか?」

 ……1人を愛している。ずっと……ずっと昔から……。

 きっとろくでもない表情をしている俺を見て、悲しそうな表情の副長が言う。

「何度も話したことだ。この話しは辞めよう。」

「ありがとう……。」

 ……すまない。……副長は優しい女だ。今でも俺を気遣ってくれる。

「フレイは気づいている。理由はわからないがフレイがアルマに嫉妬と敵対心を持っているのは間違いない。まぁ理由はお前なんだろうがな。」

「俺が理由?たった1日でフレイがアルマに嫉妬や敵対心を持つことを俺がしたのか?」

 ……アルマが俺に好意を?……

「お前は、誰にでも優しいズルくて悪い男だ。認めろ。」

「認めているさ。」

「ならば今の状況と今後の結末も受け入れろ。」

「分かってるさ。」

 ……きっとろくな結末じゃないんだろうけどな……



「アルマ。」

 ラウンジで待っているとおじさんが話し掛けてくる。

「副長が今後の打ち合わせをしとけってさ。」

 そうだ。おじさんがチームメンバーなんだ。人とチームなんてレイド以外は初めてだ。

「打ち合わせって何するの?」

 初めてのチームだ。素直に教えてもらおう。

「そうだな。まずは飯だ。」

 おじさんは行くぞと私を促す。私はおじさんの後をついて行く。カウンターの前を通るとフレイさんがおじさんに手を上げ、

「シド♪後で連絡する♪」

 と、ニコニコしながら上げた手を可愛らしく振る。あざとい。少しイラっとしながらおじさんの後をついて行く。何故かおじさんは殺気を放つ冒険者達から睨まれている。ギルドを出ると夕陽が沈み掛け空を見上げると星がキラキラしている。おじさんの背中を見て思う。

 

 ……恋ってどんな感じなんだろう……

 

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