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プロローグ


「見ーつけたぁ♪」

 俺が張り込んで数時間、賞金首のお出ましだ。

「誰だ!」

 賞金首が言い放つ。

「賞金稼ぎだぞ♪」

 俺がニヤニヤしながら言うと賞金首がビルの間を走って逃げて行く。

 今月はこれで飯が食えるなと、るんるん気分で賞金首を追いかける。十字路を曲がり裏通りの商店街を駆け抜け、一瞬で距離を縮めて賞金首の手首を掴もうとしたその時……

「その賞金首、私のだから!」

 横から飛び込んで来た金髪の少女が賞金首と俺の間に割って入る。

 長く美しい金髪は青いリボンで纏められ、少し吊り上がった大きな瞳にこぶりな鼻梁、……可愛い……じゃねぇ!

 美少女の形の良い瑞々しい唇から

「おじさん邪魔!」

 と、美少女が言い放つ。

「危ないから邪魔しないでお嬢ちゃん!」

 俺は、美少女に優しく紳士的に言い返し華麗なジャンプで美少女の頭上を越え……

 バタン!と顔面から路面に倒れ込む。美少女に足を引っ張られたようだ。

「ぐえぇぇ!」

「ごめんね、おじさん!」

 その瞬間に賞金首との距離が開く。美少女は賞金首を追いかけて行く。

 ソイツは今月の飯の種なんだよ!

 俺も立ち上がり鼻の痛みを我慢して賞金首と美少女を追いかける。

 賞金首が商店街の中程の路地を曲がって大通りに飛び出て振向く。

……ファイアーボール!……

 ゴオォ!っと大音量を発して魔法の火球が3つこちらに放たれる。

 ……街中でソイツはダメでしょ!……

 美少女が回転ジャンプで火球を躱すその瞬間、火球の1つを剣で切り裂き、打ち消して賞金首を追いかける。

「おじさん!あと2つ処理してね!」

「マジかぁ!」

 言い返しながらも俺はコートの内側にあるホルスターから魔法銃を抜き、街中での火災被害を防ぐために残り2つの火球へ、

「バン、バン!」

 魔導銃の弾丸が火球を相殺する。

「おじさん中々やるじゃん♪」

 美少女のニコッとした顔についデレてしまった……

 いかんいかん!飯の種を追いかけねば!

 消火を確認して大通りに入ると人通りの多い中を美少女が金髪を揺らして賞金首を追いかけている。随分と距離が空いてしまったが俺も揺れる金髪を追いかける。道行く人の悲鳴や怒号を聞きながら追跡していると前方に大きな火炎の壁が急激に立ち上がる。

「ファイアーウォールか!」

 大通りのあちこちから悲鳴と怒号が飛び交う!

 が、間をおかず

「アイスウォール!」

 炎の壁を全て覆うように美少女の放った氷の壁が立ち上がり炎を呑み込む。

 だが、氷の壁に阻まれて賞金首を見失う。

「これ以上は無理かぁ……」

 と美少女が言うと彼女は周りを見渡し怪我人を見つけて介抱して行く。俺も突き飛ばされコケた通行人を起こしながら氷の壁に近づいて行く。

 この規模の氷の魔法壁を一瞬で……と見上げていると美少女が近づいてきて

「レジスト!」

 と、美少女が氷の壁を解除する。そしてコッチを向き

「賞金首に逃げられちゃった♪」

 と、首を傾けてベロを出す。

 ……可愛いじゃないか……って違う!文句を言わねば!

 俺はなるべく優しく紳士的に、

「お嬢ちゃん、追跡の邪魔しちゃダメだよね?」

「え?アレは私の獲物だよ。おじさんこそ邪魔しないでよね!」

「イヤイヤ、捕まえる寸前で割って入ったのはお嬢ちゃんでしょ?」

「違いますぅぅ!私はあそこで待ち伏せしてたんですぅぅ!」

「イヤイヤ、そもそも賞金首がビルに入って行く所を待ち伏せして声を掛けたの俺だから!」

「違いますぅぅ!」

「違わない!」

「違いますぅぅぅ……」

「違わない!!」

 ……少し声が大きかったかな?

 美少女が下を向き唇を噛み、両手をこぶしにしてワナワナしたかと思うと、

「……おじさんがイジメるぅぅぅ!!!」

 美少女はワァーンと泣き出し、顔に両手を当てしゃがみ込み泣き出す。

 昼間の大通りの真ん中でオッさんが美少女を泣かせている…………この絵面はマズイ…………通行人かザワザワしてきた…………あっ!オバチャン2人が口に手を当て何か言ってる…………ザヮザヮ…………やばい、子供に指を刺されている…………ザヮザヮ…………遠くから警察車輌のサイレン聞こえるし…………マテマテ、誤解を解いて泣き止ませて説明せねば…………社会から抹殺されてしまう!

 俺は美少女に優しい声で

「お嬢ちゃん、まず泣き止もうか?」

 美少女が上を向いて指の間からチラっとコッチを見て再度ワァーンと泣く。

 ……コイツ嘘泣きじゃねぇか!口元笑ってるじゃねぇか!

 サイレンが近づき警官の怒号が響く。

「貴様!何をした!」

 俺はフルフルと首を振り両手を上げ、何もしてないアピールをするも警官が近づいてきて再度、

「何をしたと聞いている!」

 と、問いただされる。

 ……落ち着け俺。大丈夫。俺は悪くない。と、心を落ち着け警官に経緯を説明する。

「賞金首を追いかけてまして、魔法を使って来たんで対処したんだけど、その隙に賞金首に逃げられまして……」

 説明している間もサイレンが鳴り警察車輌が増えてくる。多数の警官が通行人に聞き込みをしている。

「あ、ファイアウォールを使ったのは賞金首で、アイスウォールはこの少女…………」

 振向くとソコに少女はおらず、

 …………あのガキィ!逃げやがったなぁ!

 と、思っていると警官が胡散臭そうに俺に言う。

「とりあえず、署まで同行して貰おうか?」

 …………めんどくせぇぇぇ!と、思いつつ肩を落とし、俺は大人しく警察車輌に乗り込む事にした。

 …………今日は厄日だぁ…………


「シド・ハイラル」

 取調べをしていた警官が俺の名前を呼ぶ。

「お迎えが来たから帰っていぞ。」

 警官が席を立ち部屋のドアを開ける。俺も席を立ち部屋を出て警官の後をついて行く。カウンター越しの女性警官から

「お預かりしたコートと武器を、お返ししますね。」

 返却された魔導銃をホルスターに収めコートを羽織る。女性警官に

「ありがとうございます。」

 と、伝えて入口に向かうと長椅子に座っている男が手を上げて俺に声をかける。

「釈放に時間が掛かってすまなかったな。」

 高級なスーツを纏い、申し訳なさそうに話しかけてくる男は、まあまあ付き合いの長い弁護士だ。

「ありがとうオーラン。今日はココで寝ずに済むから助かった。」

 俺は彼に感謝を伝える。彼が迅速に対応してくれたのですぐに釈放されたのだ。たった半日で釈放されたのだからもっと恩着せがましく言ってきても良いのだが、彼はそう言わない良い奴なのだ。

 並んで警察署を出ると、オーランが話しかけてくる。

「それにしても今日は災難だったな。」

「災難だったわぁ。賞金首には逃げられ、小娘にもコケにされた挙句、警察に連行されて半日も事情聴取って……はぁぁ……疲れたわぁ……。」

 俺は今日の出来事を思い出して肩を落としうなだれてしまう。そんな俺にニヤッとオーランが話しかける。

「災難だったな。しかしあの子、美少女だったな。」

「めずらしいな、おまえがそんなこと言うなんて。」

 オーランは既婚者で年上の奥さんと娘がいるのだ。

「いや、娘と同じ歳ぐらいの子がアクション映画みたいに剣を振り魔法を使ってるのを見るとな。」

「映像があるのか?」

「ああ。大通りだからあちこちに監視カメラがあるから。」

 そうか。映像があるから早く釈放されたのかと俺は納得する。さすがやり手の弁護士。俺は気になって彼に聞く。

「彼女の身元って分かるのか?」

 オーランがニヤッとして俺に言う。

「なんだ?惚れたのか?」

「そんなんじゃねえよ。ただな、仕事の邪魔されたんだ。文句を言って謝罪させるのも大人の仕事だろ?」

 オーランはクスクス笑いながら、

「俺も弁護士だ。名前や身元は個人情報だから教えられないが、まあ賞金首を追うくらいだから彼女は冒険者だろ。画像は送ってやるから後は自分で調べるんだな。」

「わかった。」

 オーランは俺の返事を聞くと腕時計を見て、

「じゃあ俺は行くぞ。今から家族と外食なんだ。」

「ああ。今日は助かったわ。」

 俺は再度感謝を伝える。オーランは去り際に、

「請求書をギルド宛てに送っておく。ゲルモニークを使ったから費用は高いぞ?」

 オーランは微笑んで去っていく。

 ゲルモニークは情報屋だ。しかも超一流の。

 ……今日は徒歩で帰ろう……

 ……いくら請求されるんだろう……

 帰り道の足取りは重かった。

 

 

 

 


 

 

 


 

 

 


 


 

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