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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
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EP.8 メイド?

 双葉の言葉に私は、なんて返したらいいか分からなかった。

 バンドを組むなんて考えたこともないし、楽器も素人。

 突然そんなことを言われて、頷けるような内容ではない。

 ……楽器は難しい。

 というか、音楽自体、ハードルが高いと思う。

 一人で楽しむのならいいけど、バンドとして人に聴かせるというのなら、そのハードルは格段に上がる。

 一体どれだけの努力と忍耐、根性と、それに費やす時間が必要か——と、そこまで考えて気づく。

 私にはもう、いくらでも時間があると。

 努力についてはさておき、忍耐も根性も人並み以上のものは持っているつもりだ。

 チラッと、目の前の双葉に目をやる。

 ——とても緊張した様子で目を伏せていた。

 友達になったばかりとはいえ、数少ない友達が勇気を出して誘ってくれた。そして、私と渚に声をかけてくれた。選んでくれたのだ。

 期待と不安と信頼の色が、私に彼女の真剣さを教えてくれる。

 ……この気持ちに、私は応えてあげたいと、そう思った。

 

「……やるとしたら、双葉はギター?」

「う、うん。私はギターしかできないから……あ、少しならベースもできるけど、本職にはぜんぜん敵わないかな」

「もし私がやるならギターだけど、二人いてもいいの?」

「えっ——も、もちろんだよ!」

 

 まさか私がこんな即答するとは思ってもいなかったのか、キョトンとした表情の後、弾んだ声をあげてピョンっと立ち上がり、双葉はガッツポーズを取る。

 横に座っていた渚は私を見て、口が半開きになっていた。

 

「じゃあ、ギター担当の瑠璃です、よろしく」

「私はリードギターの双葉です、よろしく!」

 

 私たちは握手をして、改まって挨拶を交わす。

 

「いや、ずいぶん即答だな、瑠璃」

「いいキッカケだと思って」

「キッカケ?」

「うん。もっと仲良くなりたいから。たくさん遊びたいでしょ?」

 

 私の言葉を聞いて微笑ましげに笑う渚に、私は問いかける。


「渚はどうする?」

「アタシは……」

 

 より期待の色が濃くなった双葉だが、その期待に渚は——

 

「……悪いけど、アタシはやめとくわ」

 

 少し眉根を寄せながら、なんとなく苦しそうに答えた。

 

「そ、そっか、そうだよね。突然こんなこと言われてもね! あっ、ちなみにどうしてか訊いてもいい?」

「んー……まあ、ほら、楽器できないし」

「教えるよ!」

「い、いや、時間かかるだろ? それならできる人を入れた方がいいじゃん」

「瑠璃もそうだよ!」

「うぐっ! ……まあ、な。正直いうと、音楽はそんなに興味ないんだ、アタシ」

「あっ、そ、そっか。あはははっ! やだなぁ、私。ちょっと強引すぎたよね、ごめん!」

「いや、こっちこそごめんな。誤魔化したりして」

「いいのいいの、全員が音楽好きなわけでもないしね!」

 

 取り繕うようにそう言う双葉は、少し気にしているようだが、それ以上、食い下がることはなかった。

 無理強いはしない姿勢は控えめで、きっとそれが彼女らしさなのだろう。

 

「でも、瑠璃も本当にいいの?」

「うん。私も高校生になったし、何か始めたいって思ってたから」

「そうなんだ! じゃあ、私、頑張って教えるよ!」

「よろしく双葉先生」

「先生? いやぁ、なんか照れるなぁ」

 

 頭をかきながらそう言って、双葉はまんざらでもない様子だ。

 

「バンドってことは、ライブとかしたりすんの?」


 渚の言葉に、双葉はボケッとした表情になる。

 

「……ライブ?」

「ライブ。えっ、しないのか?」

「……何も考えてなかった」

「はあ?」

 

 まさかの言葉に呆気にとられる。

 バンドを組むのにライブをしないのなら、一体何の為に組むのか……趣味とか、同好会みたいな、お楽しみ会でいいのだろうか。

 それはそれで楽しそうだし、私はいいけど。

 

「ライブって……緊張するよね」

「そりゃするでしょ」

「言い出しておいてあれだけど……私、あがり症で、ライブとか……できる気がしない」

 

 思ってもなかった返答に言葉を失った渚は少しして、堪えきれずに笑い出す。

 

「双葉、面白すぎっ」

「い、いーじゃん別に! ライブしないバンドだってあるよきっと! それにいつかは、そう、いつかはやるよ!」

「いつになることやら」

「瑠璃まで⁉︎」

 

 あがり症を克服できた時にでもやればいいんじゃないかな。

 ストン、と。双葉が椅子に座り、私は一葉さんに飲み物のおかわりを貰いにカウンターへ。

 和葉さんはすぐに私の好きなジンジャエールを持って来てくれた。

 

「はい、瑠璃ちゃん」

「ありがとうございます」

「けどいいのか? うちのとバンドなんて組んで」

「別にやることもないですし、双葉が私を選んでくれたので」

「まあ、瑠璃ちゃんがいいならいいんだけど……おい、双葉」

 

 少しだけ声色が変わった一葉さんが、席に座っている双葉に言う。

 

「やるからには、楽しんでやれよ」

「——! うん、ちゃんとやる、めっちゃやる!」

 

 そんな双葉の言葉に、一葉さんはなぜか、その身に淡い青紫色を纏わせていた。

 この色は……後悔だったはず。

 なんでこのタイミングでこんな感情を……普通なら喜ぶとか、そういう感情が出ると思うんだけど。

 私にはそんな感情を抱く彼女の内心まで、推し量ることはできなかった。

 

「瑠璃ちゃん、何かあったら遠慮なく私に言ってくれ」

「お姉、ちょっとそれどういう意味」

「さあな」

 

 一葉さんはテーブルから去っていく。

 双葉はいつもの調子で一葉さんに文句を言うが……私に言った時の表情は真面目なものだった。

 姉としての二面性を垣間見た私は、なぜか少しだけ、寂しい気持ちになった。


「あ、やべ。そろそろ帰らないと」

「渚、用事?」

「ああ、履歴書買って帰って、今日中に書いちゃわないと。明日の放課後に面接なんだよ」

 

 渚の言葉に私は、思考を切り替える。

 へぇ……何のバイトをするんだろう。

 少し考えて、渚に向いていそうなバイトをピックアップして言ってみる。

 

「メイド?」

「なんでだよ、喫茶店だよ」

「メイド喫茶?」

「合体させんな! 普通の喫茶店だから」

「いや、そもそもなんで最初に瑠璃はメイドだと思ったの?」

「渚をメイドとして雇いたいと思ったから」

 

 意味がわからないとでも言いたそうな二人を無視して、私は顎に手を当て真剣に二人を見る。

 

「友達をメイドとして雇うのもアリ、かな」

「ナシだろ」

「流石に意味がわからない……」

 

 そうかな。

 結構楽しそうだけど。

 

「じゃあ、私は行くわ。また明日な」

「また明日ー」

「じゃあね渚」

 

 渚を見送って、私たちは顔を見合わせる。

 

「瑠璃はどうするの?」

「このままご飯食べてく」

「そっか! じゃあ、これからのことを話さない? バンド結成のための作戦会議をしよう!」


 今日もまたセレナーデでの料理を楽しみつつ、今後のことを語り合うのだった。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

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