表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
8/43

EP.7 ほら……ね?

 授業を終えた私達はまっすぐセレナーデへと向かい、双葉を先頭にセレナーデの扉を潜る。

 

「お姉、お客さーん」

「ん? おっ、一人友達が増えてるな。奇跡か?」

「お姉ぇ……」

「こんにちは」

「どうもです」

「おう、好きな席に座りな」

 

 私達はお姉さんに促されるまま、窓際の席に座る。

 他にお客さんの姿はなく、貸切のような状態に少し気分を良くしつつ、私と渚は水を持ってきてくれた双葉にお礼を言って、喉を潤す。

 

「疲れたぁ〜」

 

 双葉がテーブルに突っし、気の抜けた表情になる。

 

「通常授業の初日は疲れるよね」

「もうずっと春休みがいいわ」

 

 渚と一緒にそうぼやく。

 春休みは通学中とは違う生活リズムで過ごしていたから、慣れるまでキツい。それに環境の変化で、いつも以上に疲労感を感じるのだ。肉体的というより精神的なものだけど。

 

「だらしないな」

「うるさいなぁ」

「姉に向かってうるさいとはなんだ」


 双葉のお姉さんが注文していた料理を持ってやってくる。


「はい、おまちどうさま」

「うわ、うまそー!」

「ありがとうございます」

「早速ご贔屓にしてもらってありがとうな、瑠璃ちゃん。新しい友達も、うちのと仲良くしてくれてありがとう」

「もう、やめてよお姉」

「貴重な友達なんだから大事にしないとな?」

「そんなこと言うのやめてよね⁉︎」

「いや、アタシもほんと、友達になってもらって、なんていうか、その……嬉しいんで」


 照れてながらそう言った渚はやっぱり可愛い。

 それを見たお姉さんも同じことを思ったのか、


「なんだこの可愛い生き物は」


 と、内心に留めることなく口にした。

 

「渚はこの中で一番女の子らしいんです」

「なるほど。よく覚えとくよ」

「女の子らしいとか初めて言われた……てか、別にそんなことないけどな」

 

 そう言いつつ髪を指先で弄ぶ渚。

 その仕草が可愛いし、多分だけど女子力も高いとお見受けする。

 自分の部屋がぬいぐるみでいっぱいになってそうだ。

 双葉が紅茶を飲みながら渚に尋ねる。

 

「渚って普段料理とかするの?」

「アタシは人並みかな。双葉はするのか?」

「私はほら……ね?」

「ね、ってなんだよ」

「こいつは食べるの専門だから」

「だからお姉は余計なこと言うな!」

「瑠璃ちゃんはどうなんだ?」

「私は適当なものなら。お姉さんみたいに、ちゃんとしたものは作れないですね」

「そうなの? じゃあ、ちゃんとしたものが食いたかったらいつでもおいで。渚ちゃんもな」


 ありがとうございます、と。私と渚は返事をして料理を口に運ぶ。

 やっぱり美味しい。

 これなら毎日でも通いたいくらいだ。

 

「あ、そうだ」

 

 そこでふと思い出したことを、近くの椅子に座ってテレビを見始めたお姉さんに尋ねる。

 

「そういえばお姉さんって名前なんて言うんですか?」

「んあ、そう言えば言ってなかったっけ。私は一葉かずはって言うんだ」

「一葉さんですか」

「ああ。まあ、店長でもお姉さんでも一葉でも、好きなように呼んでよ」

 

 それに頷いて、私は再び料理を口にする。

 なんとはなしに隣に座る渚を見ると、彼女はちまちまとご飯を食べていた。なんと女の子らしい食べ方だろうか。一口が小さいのか、器の中の料理が減るスピードは私より遅い。

 そして、目の前に座る双葉をみる。

 豪快だ。

 見た目は小さくて可愛らしいのに、食べっぷりはまるで大食漢。見ていて気持ちのいい漢らしい食いっぷりだ。言ったら赤くなりそうだから言わないでおこう。

 

「そういえばさ」

 

 渚が料理を食べ終わった頃、お茶を飲んでいた私たちにある話題を切り出してきた。

 その視線は店内のある方向をじっと見つめている。なんだろう?

 

「あれってなに?」

 

 渚が指差した先にあるのは……なんだろう、何かの機材だ。

 けどなんとなく見たことがある気がするそれらは、確か——

 

「あ、カラオケとアンプか」

 

 良くカラオケにあるカラオケの機材。そしてギターの音を発するスピーカー的なやつ、名前はアンプ。

 父が使っていたからうちにもあるけど、ここにあるやつの方が大きくて、しっかりしているように見えた。

 

「ああ、あれね。うちのお父さんがここの切り盛りしてた時はジャズバーだったから、その名残だよ。まあ、今は私が練習に使ってるんだけど」

「へー! なんかいいな。双葉はギター弾けるんだろ?」

「ん、まあ、ね」

「学校にギター持ってきてるもんね。今日も背負ってたし」

「家は別であるから、帰りにここで練習してるんだよ。今の家は賃貸だからあまり音出せなくって」

「なるほど」

「楽器とかできないから凄いって思うわ」

「私も。ギターは弾いたことあるけど、ドラムとか意味わかんない」

「めっちゃ分かるわ。全部の手足バラバラに動かすとか、宇宙人みたいだよな」

 

 宇宙人て。

 渚、独特な感性だね。

 

「双葉?」

 

 私は双葉の様子が可笑しいことに気づく。やけに多くなった瞬きと、テーブルに置いてある水が、波紋を浮かべる程度の振動は、テーブルの下で彼女が貧乏ゆすりでもしているからか。何か言いたそうに、けど、言うべきか迷っているようだ。

 今の彼女の色は緑色。一体、双葉は何に対して、そんな不安を抱いているんだろう……。

 

「双葉?」

 

 私は双葉の次の言葉を待つ。

 

「あ、あのさ」


 私達は彼女と目を合わせ、続きを促す。

 

「その……昨日、瑠璃には言おうとしたことなんだけど」

「うん」

「もし、もしね……二人がよかったらなんだけど」

 

 一呼吸おいて、双葉は意思のこもった強い眼差しで言った。

 

「私と————バンド組まない⁉︎」

 

 唐突なその言葉に、私と渚は顔を見合わせ、同時に——驚愕の声を上げた。

 店内に良く通る女子二人の悲鳴に、一葉さんの雷が双葉に落ちたのは、言うまでもない。

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ