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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
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EP.6 可愛すぎるよ

「おはよう」

 

 私は先に教室についていた渚に向かって挨拶をする。

 両耳にしていたイヤホンを外した彼女は、とても良い微笑みで片手をあげて応えてくれた。

 

「ああ、瑠璃。おはよう」

「今日も可愛いね渚」

「は、はあ⁉︎ お前なに言って——っ」

「揶揄っただけ。渚って反応が面白いよね」

「お前なぁ!」

 

 朝からふざけてそんなやりとりをしていると、私は教室の後ろのドアから入ってきた速水さんと目が合う。

 すると彼女はパアッと笑顔になって、私の元へやって来た……んだけど。

 

「なんだよ、なんの用だ?」

 

 私と速水さんの間に渚が割って入る。

 明らかな威圧。

 目つきと雰囲気が鋭くなってるせいで速水さんが萎縮してしまっている。まるで大型犬と対峙したチワワのよう……あれ? デジャヴ?

 

「わ、わたたたっ、私っ!」

「あぁ?」

「ヒィッ⁉︎」

 

 鋭い眼光にプルプルと震える速水さん。私はもう少しだけそんな彼女を見ていたい気分を抑え込む。流石にそろそろ止めないと、後で彼女に嫌われてしまう。

 渚は私を守ろうとしてくれて嬉しいんだけど。

 まずは誤解を解かないといけない。

 

「渚、あのね——」

 

 私は昨日あったことを、速水さんと和解したという事実を、渚に伝える。

 

「……なんだよ、そうなのか」

 

 昨日の放課後にあったことを説明すると、渚はすぐに警戒心を解き速水さんに謝った。

 

「悪いな、睨んだりして」

「いやっ、私こそ……その、早とちりしてたから」


 渚は普通だけど、速水さんは少し緑色で……やや渚と距離がある。私を盾にするようにする姿は、かなり及び腰だ。物理的な距離は心の距離の表れか。

 ……そんな怖がる必要はないんだけどね。

 渚の中身が結構可愛くて女の子らしいことは、会って二日目の私でもよく分かるけど、これは色として見えているからこそだろう。

 普通なら彼女の見た目から、勘違いしても仕方ないのかもしれない。

 

「速水さん」

「な、なに?」


 私は渚から少し離れて、彼女に聴こえないように小声で伝える。

 

「あまり先入観を持たずに接してあげて」

「え?」

「本当は臆病で可愛い子なんだ。見た目に騙されず、彼女をよく見て欲しい。きっと仲良くなれるから」

「そ、そうなの? ……如月さんがそう言うなら、分かった。頑張ってみる」

「うん。ありがとう」

 

 私達は渚の元に戻る……が。なぜか渚は眉を顰めて、暗い表情になっていた

 速水さんは『やっぱり怒ってない⁉︎』と小声で訴えてくるが、私には、彼女の浮かべる色である程度、その心情を察することができた。

 青色だ。

 きっと私達が内緒話していたのが、仲間外れにされたみたいで悲しかったんだと思う。ほんと、可愛いよね。

 すぐに私はフォローする。

 

「渚、違うよ」

「……なにがだよ」

「速水さん、見て。いま渚は、私たちが内緒話していたのが仲間外れにされたみたいで、悲しいと思ってる。でも表面に出ないように我慢して、余計に勘違いされちゃう、とても不器用な子なんだ。本当は自分も仲間にして欲しいって、こっちを見てたんだよ。可愛いでしょ」

「可愛すぎるよ、栗花落さん」

「お、お、おおお前っ! なにをっ————ってああ、そうだった! それずるいぞ、超能力かよ!」

「なんとでも言うといい。なんと言われようと、私は渚の可愛さを見抜く」

「か、可愛いとか言うなよな!」


 頬を赤くしながら狼狽えた声で渚は抗議してくる。

 そして、そんな彼女を見て暖かい眼差しをおくる速水さん。

 うん、どうやら問題なく仲良くなれそうだ。

 

「あ、そういえばさ。さっき栗花落さんが言ってたのってどういうこと? なんか超能力がどうとかって」


 速水さんが訊いてくる。

 それは……まあ、言っておこう。

 私は自分の持つ共感覚について説明する。

 

「——って訳で、感情が見えるから、さっきは渚のことを見抜けた」

「なにそれ凄すぎ……」

「いいことばかりでもないんだけどね。私的には便利だよ」


 そう言ったところで朝の予鈴が鳴る。

 そこで私はあることを思い出し二人に言う。昨日、渚に聞こうと思っていたことだ。 

 

「そうだ、よかったら二人とも連絡先交換しない?」

「お、いいぞ」

「もちろんいいよ」

 

 快諾してくれた二人とすぐに交換を済ませ、全員がお互いの連絡先を交換したところで席に着く。

 ホームルームが始まるが私は気にすることなく、机の下で早速二人をグループに招待し、メッセージを送る。

 

『交換ありがとう』

 

 するとすぐ返信があった。

 

『瑠璃、ホームルーム中だぞ』

『渚ってば真面目』

『良くないけどちょっとスリルがあって楽しいよね』

『速水さん分かってるね』

『あのさ、さっきは言えなかったんだけど。よかったら二人とも、私のこと双葉って呼んでくれない?』

『了解、双葉』

『別にいいぞ双葉。なんか仲間外れみたいだもんな』

『さっきそれで悲しくなってた人がいるからね』

『瑠璃、後で覚えとけよ』

『こわーい』

『ついでに私もこわーい』

『悪ノリするなら双葉も同罪だから』

『ごめんなさいもうしません』

『分かればいい』

 

 デフォルメされた可愛いネコが、太々しくふんぞり返って『くるしゅうない』と言っているスタンプが送られてくる。

 それにクスッと笑ってしまいながら、私はある提案を二人に送った。

 

『今日の放課後さ、双葉の店行かない? お茶しよう』

『双葉の家って、なんか店やってるのか?』

『私は構わないけど。うちのお父さんが飲食店の経営してて、今は色々あってお姉が代理店長してるんだよね。たまに私も手伝ってる』

『へえ、なんかいいな、そういうの』

『ご飯も美味しいんだよ。じゃあ、今日はセレナーデでご飯ね』

『セレナーデって言うのか。了解』

『分かった。お姉ちゃんにも伝えとくね』

『うん』

 

 私たちは放課後の予定を決め、高校生活二日目の通常授業を終えると、すぐに双葉のお姉さんが営む料理店、セレナーデに向かったのだった。

 

 

 

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