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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
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EP.4 ナンデスカ

 

 私は見慣れた街道をぼんやり歩く。

 とりあえず、お昼ご飯と暇つぶしを兼ねて、通い慣れたショッピングモールに向かう。

 ショッピングモールは私が生まれる前からある年季の入った外観の、その手の建物にしては小さめなものだ。

 ただ、最近は改装工事が終わり、見た目も中身も現代に合わせたものへと様変わりし、周辺の中高生の姿をよく見るようになった。

 今日はどこも始業式だから、もしかしたら学生で賑わっているかもしれない。

 あまり人が多いと嫌だ。できれば人が少ないと嬉しいんだけど。

 

「——あれ、今の」

 

 そんなことを思っていると、視界の隅に入った人影に目がいった。

 特に理由はないけど、なぜか気になり目で追う。

 

 ギターの入った黒いギグバッグを背負った、女子高生の後ろ姿。

 

 私は立ち止まる。

 先ほど学校でトラブルになったばかりの人物。

 あれは、そう、速水双葉だ。

 

「どこ行くんだろ」

 

 商店街の一角。

 今では廃れてしまった繁華街の路地を曲がって、姿を消した彼女。私はなにを思ったのか、気づけばその後を追っていた。

 

「確か、この辺に——」

 

 裏路地に入っていく。

 あまり女子高生が一人でくるような雰囲気の場所ではない。

 もしかして速水さん、何か危ないバイトでもしてるんじゃ……。

 

「————もう、やればいいんでしょ、やれば」

 

 邪推をしていた私の耳に、聞き覚えのある声が届く。

 今の声……速水さん、だよね。

 声のした方へ向かう。

 すると、開け放たれた店の扉が目に入った。重厚感のある木の扉だ。その扉がよく合う白と茶色の外観の……おそらく飲食店であろう店を見る。

 開け放たれた扉から漏れている音楽が耳に入り、そのメロディに意識を持っていかれた。店内から聞こえる音楽に聞き覚えがある。確か、父がよく好きで聞いていたアーティストの曲だったはず。

 懐かしいなと思っていると、店の中から黒いエプロンをした速水さんが箒と塵取りを持って出てきた。

 

「もう、人使いが荒いんだから!」

 

 そして、私と目が合う。

 

「あ」

 

 速水さんは目を見開き私を見る。

 

 彼女の感情の色は驚きを現す、水色だった。

 当然だ。問題を起こした相手が、突然目の前に現れたんだから当然の反応だと思う。けど、その色もすぐに薄い赤色へ変わる。

 ……まだ怒っているみたいだ。

 私の方から興味本位でここまで来てしまった訳だけど。

 今ここであの時のことを掘り返しても言い訳っぽいし、逆にまた怒らせてしまうかもしれない。

 なので、私は軽く会釈をして彼女の横を通り過ぎる。

 

「……ちょっと待って」

 

 が、なぜか呼び止められてしまった。

 私は恐る恐る振り返り尋ねる。

 

「ナンデスカ」

「……なんでカタコトなの」

「気のせい」

 

 いけない、緊張して変な返しになってしまった。

 普通に話してくれているけど、彼女の周囲はやはり赤い。

 とりあえず私は平静を装ってはいても、怒ってる人の近くにはいたくないので、早く逃げたいんだけど……少しだけ、彼女の周囲の色に淡い青紫色が混じっているのが見えた。

 あの色は……。

 

「……さっきはその、強く言いすぎた、から。ごめん」

「え?」

 

 速水さんは視線を下に向けたまま、もじもじと、落ち着かない様子で言う。

 つい、呆気にとられてしまった。

 今の色は多分、後悔してるときの色。

 ……後悔?

 ということは、今の発言的に、私への行動を後悔しているってことだと思うんだけど。

 

「あ……それだけ」

「あぁ、うん」

 

 すると速水さんは掃除道具を手に店の中に戻って行ってしまった。

 この雰囲気がいたたまれず、戻って行ったのだろう。

 でも、怒るほどのことをした相手……まあ、濡れ衣だけど。そんな相手に対しても謝れる彼女はきっといい子だ。

 

「速水さんとも友達になれるかな……」

 

 私はそう思ってから店を見上げる。

 店の名前は「セレナーデ」と言うらしい。

 立て看板を見てみれば美味しそうなメニューが色々と書いてある。ポテトやお肉、野菜料理も色々あるようだ。

 イタリアン……ではないよね。ああ、ドイツ料理って書いてある。ドイツ料理って、あんまりイメージできない。けど、とても魅力的に思う。その証拠に、

 

 ——ぐうぅ。

 

 と、お腹の虫が主張を始めてしまった。

 でも今、明らかに別れる雰囲気だったし、ここで店に入ったら、空気読めない奴だと思われてしまうのでは?

 入店すれば気まずくなるのは必至。

 向こうはこっちのことを良く思ってないから、流石に別の店にした方が——と、そこまで考えて思う。誤解を解くなら今じゃないかと。

 店の中なら公共の場だし、他のお客さんとか店員さんもいるだろう。

 だから、直情的になったりしないはずだ。

 嘘をつくようなことをして申し訳なかったと謝りつつ、しっかり事情を話せば……ワンチャン友達になれるかもしれない。

 

「多分イケる」

 

 そう思ったら即実行。

 店の開店時間が過ぎていることを確認した後、入店する。

 

「いらっしゃいま、せ⁉︎」

「一人です」

「……なんで」

「え……友達とかいないので?」

 

 いや、今日できたけどね一人。

 だから一人はいるんだけど、一緒ではないという意味だから。

 

「いや、一人の理由を訊いた訳じゃ……はぁ。どうぞ、こちらの席へ」

「はい」

 

 私は席に案内され座る。

 決して広くはないけど綺麗な店内だ。

 落ち着いた雰囲気と、暖色の照明が合っていてとてもいい。趣がある。

 随所にある色の濃い木の温かみが、更に雰囲気を持たせるアクセントになっていて、居るだけで安らぐ気がする。

 ヤバい、気に入ってしまったかも。

 これで料理も美味しかったら……今度、渚も連れて来よう。

 

「水です」

「あ、どうも」

「おしぼりです」

「ども」

「こちらメニューです」

「はい」

「……あのさ」

「はい?」

「あなた、よく空気が読めないって言われない?」

「言われないよ。友達いなかったからね」

「あ、ごめんなさい……」

「今のグサッときた」

「本当にごめんなさい」

「惨めになるから謝るのやめて?」

 

 私のライフポイントがゴリゴリ削れていく音がした。

 

 

 


 

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