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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
32/43

EP.31 やってやる

 私達三人は結局、それ以上なにも言うことができずに帰宅した。

 私は帰ってきた自宅の、すでに自分の自室のようになったその部屋で、愛用のチェアに深く身体を預けながら考える。

 

 ……私は、渚になんて言えばよかったんだろう。

 

 バンドに引き込みたい。そんな考えは当然あるけど、それ以上に思うのは、渚を救ってあげたいということ。

 きっと、その為に出来ることはある。

 こうして冷静に落ち着いて考えれば、いくつかの解決策は浮かんでくるけど、なんとなく、私の言葉や行動で『助ける』というのは違う気がする。

 よく言葉には出来ないけど、これは渚が自分自身と向き合って、よく考えた末に、彼女なりの答えを出さないといけない気がするのだ。

 

 ……嫌な現実と向き合うのことの辛さを、私は知っている。

 

 でも、目を背けてばかりいても駄目なんだ。

 結局、自分を助けられるのは自分だけ。

 私が助けても、他の誰かが助けても、渚に限らず人というのは、その後、助けを求めるようになってしまう。立ち向かえなくなってしまう。自分の脚で立って、自立し、何かを成すのは大変で、苦しみや恐怖を伴う。

 

 それでも私は、渚にそうあって欲しい。

 

 立ち向かえる強さを持っていて欲しい。

 勝手なエゴであろうと、自分勝手な想いであっても、私は彼女にそれを求める。

 

 私はそんな渚の方が好きだから。

 

「……どんな色になるんだろう」

 

 ふと、私の口から出た言葉は無意識のもので、自分でもなんでそんなセリフが出たのか分からなかった。

 どんな色になる?

 

 ……もし、このまま渚が変わらなかったら、きっと彼女の浮かべる色は、その感情はきっと、汚れていくだろう。

 私はこの短い人生経験の中で何度も見てきた。自分に嘘をついて、自身の感情を蔑ろにして、そうやって……汚れていく色を。

 渚もそうなるのは本当に嫌で、汚れて欲しくないと心から思う。

 

 そして逆に、もし彼女が過去に立ち向い、その感情を曝け出したのなら。

 きっとその感情が発する色は——

 

「綺麗、なんだろうな……」

 

 私はそんな光景を思い浮かべて笑みを浮かべる。

 本当になぜかは分からないけど、私はなぜかそのまだ見ぬ色に、見てみたいという強い願望を抱いた。


「……何か、出来ることはないかな」

 

 直接なにかしなくても、出来ることはきっとある。

 今、私にあるものは何か。

 そう考えて真っ先に思い浮かぶのは……。

 

 ……仲間となった二人の顔だ。

 

 二人の顔を真っ先に思い浮かべた私は、そこであることを思いつく。

 ああ、なんでこんな簡単なことを思いつかなかったんだろう。

 

「そうだ、そうだった。バカか私」

 

 今の私には頼りになる友達がいて、そんな私達には強力な武器があるのだ。何かを届けたい、伝えたいと思う私達にはこの上なく強い、最高の武器が。

 

「——あ、もしもし」

 

 私はすぐに、二人に電話した。

 これからやるべきことを二人と話し合う為に、明日の放課後に集まって話をすることが決まった。


「うん、それじゃ、また明日——」

  

 電話を終えて、私はすぐにギターを手に取る。

 そして、いつものようにPCを立ち上げて、父の動画を再生する。やっていることはいつもと同じ。だけど、いつも以上にやる気が漲っているのを感じる。

 明確な目標とやるべきことが分かっているからか、私の熱意と意欲はこれまでにないほどの昂りをみせている。

 

「やるぞ」


 私はちょうど初級の講座を昨日終えたところだった。ので、次の『大好きなパパと一緒に弾くギター中級講座』を開く。

 その一つ目の動画を再生して、次のステップへと移る。

 私の気持ちに連動するように、父の厳しいレッスンはさらにもう一段階、辛く険しいものになっていくが、決して私が折れる事はない。


「やってやる」

 

 轟々とした熱意が私の心を燃え上がらせ、私は必死に弦を掻き鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「——ってことで、大丈夫そう?」

 

 セレナーデで一通り話し合いをして一まとめにしたところで、私はテーブルに置いていた飲み物をあおる。グビグビと勢いよく飲み干し、ぷはあっと空気を吸い込む。

 学校を終えてすでに一時間ほどは話しただろう。

 結局、今日も渚はバイトで一緒に帰宅することはなかったけど、普通にこれまで通り話してくれた。関係は問題なく、以前のように良好なものになっただろう。

 でも、私はそれでは満足できない。

 だからこうして、私は自分の考えを二人に話し、意見を仰いだのだ。

 

 私一人では決められない。

 私一人では出来ない。

 私達じゃないと意味がない。

 私達にしか出来ない。

 

 二人が応えてくれるかは……はっきり言って、相談する前から分かり切っていた。

 

「……面白そうです! 私はやりますよ! 頑張りましょう、速水さん!」

「え⁉︎ あ、うん……ちなみに、それしかない?」

「双葉」

「なに?」

「気合いと根性。今こそ双葉の漢気を見せる時」

「期待してます、速水さん!」

「私に漢気なんてないよおおおおおおおっ!」

 

 そう嫌がりつつも、覚悟した表情を浮かべた双葉と、やる気に満ちた芽衣と共に、私は席を立ち上がり宣言する。

 

「————やろう、ライブ」

 

 そして、私達の初ライブが決まった。

 

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