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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
31/43

EP.30 それ反則だぞ

「本当、それ反則だぞ」

 

 家の中に通された私達三人はリビングの四人掛けのテーブルに座って渚と話す。

 渚は私の共感覚に対して文句を言ってくるが、こればかりは仕方ない。常時発動かつ解除不可の特殊スキルだ。こう言うと、ちょっとかっこいい。そんなに良いもんじゃないけど。

 

「私も改めてすごいなって思った」

「わたしは初耳です」

「まあ、私のコレについては別にいいから。そんなことより、渚のこと」

 

 私の言葉に渚の肩が飛び跳ねた。

 

「なんで渚はあそこまで私達を拒絶したの。そこまでして話したくないことって、なに?」

「それは……」

 

 聞くつもりはなかったその答えを、今度は遠慮なく訊く。

 しかし渚は黙り込んで話そうとはしない。

 ……仕方ない。

 

「芽衣は知ってるんでしょ?」

「そ、それは」

「……はい、知ってます」

「っ」

 

 まさか芽衣がそんな返答をするとは思ってなかったのか、渚は辛そうな表情で芽衣を見た。

 

「渚、勘違いしないで」

「……何を」

「芽衣は渚のこと何も話してないし、さっきまで絶対に話さない姿勢だった。芽衣が今の返答をしたのは私が指示したから」

「瑠璃さん……」

「だから、芽衣が何を言っても悪いのは私。さあ、瑠璃。渚は教えてくれないからあなたが教え——」

「——分かったよ」

 

 渚は意を決した表情で、私と目を合わせる。

 そして少し逡巡した様子のあと、頬を少しだけ赤らめて、言った。

 

「言うよ、言えばいいんだろ。その、だな。恥ずかしいから真面目に聞いて欲しくないんだけど……その、な?」

 

 勿体ぶるように迷いながらも、最後には意を決して口にする。

 

「アタシ——アイドルをやってたんだっ!」

「は?」

「へ?」

 

 私と双葉の言葉が重なり、

 

「アイドル?」

「歌って踊る?」

「そうだ……笑いたきゃ笑え」

 

 顔を真っ赤にした渚がテーブルに突っ伏して、そんな彼女の背を芽衣が横から摩る。

 

「すみません、ずっと渚リーダーに口止めされてて言えず……」

「あ、うん……え?」

「ちょっと待って、えと、ん? じゃあ、それがバレたくなくてあんな必死に?」

「なんかおかしいかよ……」

「えぇ……え、じゃあ、芽衣ちゃんのその、渚リーダーって呼び方も関係あるの?」

「あ、この呼び方は、グループ内で渚先輩がリーダーだったからですね」

「渚が、リーダー……!」

「歌って、踊ってた……!」

「だあああああ! 笑いたきゃ笑えってもおおおおおっ‼︎」

 

 というか芽衣までそうだったことに遅れて気付いた私達はさらに驚かされる。

 

「だあああああ! 笑いたきゃ笑えってもおおおおおっ‼︎」

 

 渚はテーブルから離れたところにあるソファーに滑り込むようにダイブして逃げた。

 

「いや、すごいと思うけど。なんでそんなに恥ずかしがるの」

「そうだよ、すごいし、しかもリーダーなんだから実力だって認められてたんじゃん! すごいよ渚!」

「確かに、渚リーダーは恥ずかしがる必要ないです。今も以前も、わたしの憧れです! でも……」


 芽衣は表情を暗いものに変えて続きを話す。

 

「……でも、アイドルだからって、勝手なことを言う人も居ます。わたしも周囲から馬鹿にされたりして、近しい人に言えない気持ち……分かります」

「そっか……そうだよね、やってる人にはその人達にしか分からないこともある、よね」


 それで渚は言えなかったのか……確かに、渚の雰囲気やキャラクター的に、その本性を知っている人でなければ、なんとも似合わない職業だと思うことだろう。

 そう考えれば、自然と言いたくないというのは分かる。

 

 だがしかし。

 

「友達を辞めようとしてまで隠すほどのことだった?」


 私は渚に向けて言う。

 

「そんなに私達は信用なかっ——」

「違う‼︎」

 

 勢いよく起き上がり、私の目をまっすぐ見てくる彼女……その目には涙が浮かんでいる。

 立ち上がって、渚は話す。

 

「私は、もうアイドルとしての過去を捨てたかった! だから、もう捨てたものだから……話したくなかったんだ」

「……そっか。話してくれてありがとう。無理させてごめん」

 

 そう言って私は頭を下げる。

 あっさりと引き下がった私に、渚は驚いて、

 

「え、それだけ?」


 と驚いた。

 そう言われても、それだけだ。渚は過去を捨てたかった。だから頑なだったのだ。それだけの話で、それ以上でも以下でもない。

 それなら、友達辞めようとした云々については、これで終わりだ。

 まだ他にも訊きたいことはあるんだから。

 

「もう一つ教えて」

「……今度はなんだよ」

「なんで私達とバンドを組みたくないの。あと、音楽も嫌いって、なんで嘘ついたの」

 

 それに反応したのは芽衣だった。

 

「それは——!」

「芽衣、良いから。アタシが話す」

 

 芽衣を静止して渚が話す。

 

「……私がアイドルとしての過去を捨てたい、そう思った理由の一つでもあることだ。私は半年前まで所属していたグループのリーダーをしていた。そこでの日々は大変だったけど楽しかったし、やり甲斐もあったよ。でも……虐めがあったんだ。くだらない、ホントに馬鹿らしいことだよ」

「虐め……」


 双葉の呟きに目を向けると、その隣に座っていた芽衣の手が強く握りしめられたのを見た。

 ……もしかして。

 

「その虐めの標的は……芽衣だった。私はリーダーとして止めたよ。けど、気づいたら私も芽衣も、グループから浮いてた。主犯の何人かの仕業だったんだ。マネージャーや事情を知らない他のメンバー。更には他のグループにも、有る事無い事言いふらしてくれやがって……私と芽衣は二人で逃げたんだ」

 

 逃げた、そう言った時、渚は一度強く唇を噛み締めた。

 

「……悔しかったよ。ホントに、ぶん殴ってやりたいくらいムカついた。でも一番ムカついたのは、自分にだったんだ。立ち向かわずに逃げて、負けた。そんな過去がどうしようもなく惨めで、だから……私はこんな過去捨てたいと思って、隠したんだ」

「渚……芽衣ちゃん……」

「……わたしは、渚リーダーがいてくれたから、救われました。リーダーは逃げたんじゃないです、わたしを救ってくれたんです!」

「芽衣の言うとおり。それは逃げじゃない。勘違いしちゃ駄目。渚は間違いなく芽衣を救った」

「結果論だ。アタシは逃げた。辛くて、何もかも嫌になって、逃げたくて……大好きだった音楽からも、歌からも逃げたんだ。そうやって大事なものを全部捨てた……もう、アタシは歌えない。歌いたくない。あの頃を思い出して惨めになるから、だから、アタシは——」

 

 

 ——みんなとバンドは組めないんだ。

   

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