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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
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EP.29 命令です⁉︎

 ガタッと音を立てて立ち上がった芽衣に全員の視線が突き刺さる。

 悲痛な面持ちで何度か口を開いて閉じて……そんな動きを繰り返して、

 

「それじゃ、ダメ、なんです……」

 

 最後には再び俯き、黙ってしまったが、私はその呟きに確信する。やはり芽衣は何か知っているのだと。

 そしてそれは双葉も同様のようで、芽衣を落ち着けるように言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫、私達はこのまま友達をやめたりしないし、言いたくなければ、芽衣ちゃんは何も言わなくて——」

「それはダメ」

 

 私は双葉の言葉を遮って芽衣に伝える。

 

「芽衣、知ってること全部話して」

「瑠璃!」


 双葉が私を非難するような視線と憤りを露わにするが、それは無視する。

 双葉の気持ちは尤もだ。

 それは私が一番よく分かっている。

 

 友達が嫌がるのなら、こっちからは何も訊かない。

 

 芽衣に前に言った言葉は本心だ。

 けど私はその言葉を裏切った。嘘にしてしまった。友達の気持ちを無視して真実を暴くなんて、それは酷い裏切りだ。

 それは私達だけじゃない。芽衣に裏切らせてしまうのだから、私の言葉は重い。責任重大だ。

 

 でも。

 

「一葉さんの言うとおり。私達は本気でぶつからないと、きっと分かり合えない。なんで渚があんなに頑ななのかも、音楽が嫌いって嘘をついていたのも。本人が教えてくれないのなら、知ってる人に訊くしかない。これが裏切りでも、本当に友達を辞めることになっても、私はそれで構わない」

 

 私の言葉に双葉と芽衣、それに一葉さんが一斉にこっちを見る。

 全員と目を会わせたまま私は続ける。

 

「その時は、一度友達辞めて、もう一回友達になる。何度だってやり直す」

 

 私のその言葉に一葉さんは満足そうに笑い、双葉は唖然とし、芽衣は……。

 

「——っ、なんですか、それ」


 俯いて表情は見えない。

 ただその方がかすかに震えるのと同時に、ぷぷっと小さな笑い声が聴こえてくる。

 

「それが私のやり方」

「そんな子供みたいなこと、上手くいくと思ってるんですか?」

「何度もやる。時間ならあるから」

「ずっと断られたらどうするんですか」

「死ぬまでってこと? あと八十年くらい一緒にいられたら、もう立派な友達でしょ」


 なんてことはない質問にそう答えてあげれば、今度は芽衣が唖然とし、双葉が大笑いした。


「そうね、そうだと私も思う! 諦めず前向きに行こう!」

「後のことはそうなったら考えればいい」

「とりあえず、当たって砕けず突き進め! ってことだね!」

「お二人ともめちゃくちゃです……」

 

 よく分からないが、芽衣に呆れられながら、私は一葉さんに目を向けて頭を下げる。

 

「一葉さんのおかげ。ありがとう」

「別にあたしは大したことしてない。それにお礼を言うのはまだまだ早いんだろ?」

「確かに」

「あと、あたしも色々言ったけど、まずは渚に訊きに行けよ。話はそれからだ」

「ラジャー」

 

 私はテーブルに置いていたお茶を飲み干して、席を立つ。

 

「行こう」

「え、どこに?」

「渚のとこ」

「急です⁉︎」

「善は急げ。芽衣に訊く前にまずは本人に訊く。それで教えてくれなかったら今話した通り口を割れ、芽衣」

「命令です⁉︎」

「もう、瑠璃は本当にめちゃくちゃなんだから……行ってくるよ、お姉」

「晩飯までには帰れよ」

「え、本当に行くんですか⁉︎」

「もちろん」

「こうなったら何言っても無駄だから、諦めて行こう、芽衣ちゃん」

「ははは……わかりました!」

 

 そして私達はセレナーデを後にし、芽衣の案内のもと、渚の家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「渚ー、あーそーぼー!」

「瑠璃やめなって! 周りの視線が!」

「如月さん、落ち着いて!」


 双葉の恥かしげな表情と、芽衣の静止を受けたので大声を出すのはやめる。

 

「仕方ない」

 

 大人しくインターホンを押す。押して、押す。……反応がないので、もう一回押す。

 

「居留守かな?」

 

 渚ならするかもしれないから念のため、もう一度押すが反応がない。けど、家の中から人の気配はするんだよね。

 とりあえずダメ押しに、メチャクチャ連打する。

 

「瑠璃⁉︎」

「だ、だめですよ⁉︎ ちょっと、速水さんどうしましょう! 如月さんがご乱心です!」

「こ、これはっ、『簡単に友達辞めようとしてまで私達と距離を取ったこと』に対するイライラが今爆発した顔!」

「なんで顔見ただけでそんなことがわかるんですか⁉︎」

「マブだからね!」

「表現が古いです」

「酷い⁉︎」

 

 流石に私の連打が心に響いたのか、勢いよく玄関の扉が開いて——

 

「うるさいっ‼︎ 誰だよこんな嫌がらせをする奴は⁉︎」

「やっほー」

「る、瑠璃」

「私達もいるよ!」

「双葉に芽衣も……なんだよ。お前らはもう、アタシのことなんて……」

 

 尻すぼみになりながら呟く渚の表情は、前髪に隠れて伺えないものの、私には分かる。

 

 淡い青紫色は、後悔の色だ。

 

「ねえ、渚」

「……なんだよ」

「私が渚と友達になった日に言ったでしょ」

「何を……」

「忘れた? 私には、*人の感情が視えるんだよ*」

 

 それを聞いた渚と双葉は忘れていたかのようにあからさまに反応して、初耳の芽衣は、二人より現実主義者なのか『何言ってんだコイツ』みたいな目線で私を見てくるが、今は何も言うまい。

 

「ずっと見えてたよ。だから嘘は辞めて。自分を偽って感情を壊した人の色は……見るに耐えないものだから」

 

 私は渚の目を見たまま続ける。

 

「渚は不安だった。ずっと」

「っ」

「それは私達に知られたくないことがあるから。そしてそれを知られてしまうことが、なによりも怖かったんじゃないの」

「……それは違う」


 渚は俯きがちに、私と向き合った。

 しどろもどろに、彼女は臆病な姿で私に話す。

 

「怖かったのは……」

 

 言い淀みながら、その顔は赤く染まっていき、そしてその色は羞恥に染まる。

 ああ、そっか。

 そういうことだったんだ。

 

「ありがとう。大切に想ってくれて」

「な、なにを——」

「え? 私達と本当に友達ではなくなってしまうかもしれないことが怖かったんでしょ?」

「〜〜〜〜〜〜っ⁉︎」

 

 その場に勢いよくしゃがみ込んで、顔を掌で覆い隠してしまった渚だが、甘い。

 隠すのならその真っ赤に染まった耳まで隠さないと、どんな顔をしているのか容易に想像出来る。

 

「えっと、つまり?」

「どういうことです?」

「内心ではずっと、私達と離れたくない、ずっと一緒がいいって、一人で泣いてたんだよ」

「ずっと一緒だよ渚! ごめんねぇ‼︎」

「渚先輩、わたしが居ますよ!」

「る、るりぃ……!」


 そんな目で睨んでも無駄だ。

 今の渚の眼力は精々、その辺の猫程度しかないんだ。いくらガンをつけてもちょっとビビるくらいだからね。

 とりあえず、これ以上事態を悪くせずに済みそうだと、私は内心で一息つくのだった。


 

 

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