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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
28/43

EP.27 常識は覆すものなんだよ

「わり、今日もアタシはバイトだから行けないわ」

「分かった」

「え〜、渚に聴いて欲しかったのにー」

「また今度な」

 

 そう言って渚は私達よりも先に校門を出て行ってしまう。

 今週に入って三度目のお断りを頂いたところで、双葉が口を窄めながら言う。

 

「最近なんか、渚が冷たい」

「忙しいんでしょ、バイトが」

「でもさー、なんかねー、なんだかなぁー」

 

 まあ、双葉の勘は鋭い方だ。

 感じている違和感の正体は確かに、渚が私達を避けているからに他ならない。

 

「ずっと緑……」

「何か言った?」

「なんでも」


 渚はセレナーデで別れる時からずっと、私達といる時は不安を抱えている。

 最初は無意識のうちに本心を言ってしまう芽衣に対してのものだと思っていたけど、どうやらそれだけではないらしいのだが……その理由までは分からない。

 この間、芽衣にも言った通り、本人が話したくないことなら訊く必要はないと思うから、踏み込んだことは聞いてない。

 ただ、気になるものは気になるのも確かだ。

 

「はぁ……まっ、芽衣ちゃんも待ってることだし、早く瑠璃ん家に行って昨日の練習の続きしよ!」

「うん」

 

 私は双葉に手を引かれながら、自宅に向けて歩を進める。

 芽衣は先に着いてるかなと、二人で話しながら家に着くと、玄関前にはすでに白い制服を身に纏った芽衣が待っていた。

 ぼうっと空を見上げながら何かの歌を口ずさむ姿は、彼女の愛らしさと相まって、どこかのアイドルのMVの場面のようですらある。

 

「お待たせ芽衣」

「お待たせ! ごめんね、待たせちゃって!」

「あ、いえ! 少ししか待ってないので大丈夫です!」

「今日も元気だね〜」

 

 元気よく笑顔でそう言った芽衣を連れて家の中へ入る。

 二人は慣れた様子でリビングへ着いてくると、手を洗ってから双葉はソファーへ。芽衣はテーブルの椅子に座る。

 私は常に芽衣の隣だ。

 

「今日はお姉からお茶菓子もらってきたから練習前に食べよっか」

「わっ、いいですね! あ、えと、ちなみに渚先輩は……」

「今日もバイトだってー、全然来てくれないの寂しいよね」

「仕方ない。別にメンバーでもないんだから」

「瑠璃のそういうドライなとこ嫌い」

「事実」

「あ、わたし、お茶入れますね!」

 

 隣に座っていた芽衣が冷蔵庫からお茶を出して注いでくれる。

 気の利くいい子や。

 

「家主がやるべきでは?」

「うちは自由制。既存の概念に縛られてはならない、が家訓。常識は覆すものなんだよ」

「そもそも常識がないから非常識なんじゃ?」

「……そうとも言う」

「瑠璃のテキトーなとこは割と好きだよ」

「ありがと」

 

 芽衣がお茶を持ってきてくれたので受け取ると、双葉が手提げの中からお茶菓子を取り出し、各々の前に出してくれる。

 家主なのになにもせずとも食べ物が出てくる。なんて快適なんだ。

 二人とも一緒に住まないかな。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

 

 気のせい。

 

「それじゃ、いただきます、速水さん」

「どうぞー」

「いただきます」

「私もまだ食べたことないんだよね——おっ、美味いね!」


 包装の中身は和菓子で、モナカのようなものの中に餡子が入ったもの。

 餡子はこし餡で食べやすく、甘すぎない。そして普通の餡子とは違いフルーツの味付けと色合いが可愛いものだ。

 

「渚の分も用意してたんだけどなぁ」

「明日はバイトじゃないはず」

「あれ、そうなの?」

「シフトのパターン的にそのはず」

「よ、よく覚えてるね」

「じゃあ、先輩の分は仕舞っておきますね!」

 

 芽衣は嬉しそうに渚の分を仕舞いに行く。

 よっぽど渚に会えるのが楽しみなんだろう。よく慕われているのは流石だが、私も芽衣の姉として負けてられない。

 

「芽衣」

「はい?」

「私と渚、どっちのが好き?」

「渚先輩です!」

「ぐはっ!」

「何やってんの瑠璃……」

 

 双葉の呆れた声が聞こえてくるがそれどころじゃない。

 

「渚め……!」

「なんでそんな対抗心燃やしてるの。もう、くだらないこと考えてないで、食べたら練習! 今日も課題曲合わせるよ!」

 

 私は襟を掴まれたまま二階に連れて行かれる。

 そんな私を見て芽衣が苦笑するが、どこかその笑顔には影がある。

 ……悲しみの色。

 芽衣にとって渚の存在がどれほどのものなのか私には分からないけど、渚は別にうちらのメンバーではない。ただ私と双葉の友達で、芽衣の先輩だと言うだけ。わざわざ練習の時にまで居てもらう必要はないのだ。

 それなのにここまで来て欲しそうなのは……芽衣が渚にも、このバンドに入ってほしいと思っているからか。あの時の芽衣の呟きを思い返せば、そうであっても不思議じゃない。……少し、頑張ってみようか。

 

 ——もしもの話。

 

 もし渚が私達の友達としてだけではなく、同じバンドメンバーとして隣に居てくれたのなら……それはきっと、とても素敵なことだ。楽しいに決まっている。

 一度は考えたけど断られて諦めたこと。

 でも、私だけじゃなく、二人も一緒なら。渚の心に一緒に踏み込んでくれるのなら、実現できるかもしれない。

 

 四人の演奏を。

 

「ねえ、二人とも——」

 

 私がそんな考えを口にすると、二人とも一気に顔を明るくさせて力強く頷いてくれる。

 どうやら、私達の気持ちは同じだったらしい。

 

「じゃあ、しよっか」

 

 作戦会議だ。

 

 

 

 

 

 

 

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