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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
24/43

EP.23 ボイトレ?

 なんとなく芽衣の性格を捉えられたところで、私はこれからの方針を彼女に伝える。

 

「この店が定休日の月曜日はここか、どこかの路上で双葉メインの特訓をするから。それ以外の日は私の家で練習。遅くなったらご飯とかみんなで食べることもあるだろうから、親にも説明しといて」

「翌日が休みの時はお泊まりとかしても楽しいかもね。きっと楽しいよ〜!」

「あ、はい……って、え? い、いいんですか?」

「なにが?」

「その、私、余計なこと色々言っちゃいますし、さっきみたいな失礼なことだって、またきっと——」

「別にいい。私はあなたが気に入ったから」


 私の言葉に双葉もうんうん頷いて、私の言葉に続く。

 

「それは短所かもしれないけど、長所でもあると思うよ? なんでも隠さず、本心で語り合えるってとても大切なことだし、悪いことばかりじゃないよ」

「そう。バンドを組む以上、変な気遣いとかせず、本心で話すことが大切だと思うから……いいんじゃない?」

 

 私達の前で俯いてしまった芽衣は、少ししてゆっくりと顔を上げる。

 目には大きな雫が溢れんばかりに蓄えられ、もはや決壊寸前。私は驚いてどう声をかけたらいいか迷うが、それよりも早く、震えた声で彼女が話し始める。

 

「……そんなこと言ってくれたの、渚リーダーだけだったので、本当に嬉しいです」

「渚リーダー?」

「渚がなんだって?」

 

 私と双葉がそう聞き返すと、双葉は酷く焦ったようにあたふたし始め、終いには口を固く結んで両手で口を塞いでしまった。

 ……これは何か隠しているな?

 

「芽衣」


 私は彼女の横に移動して肩に手を回す。

 しかし、あくまでも黙秘権を行使するつもりのようで、目を合わせようとしない。

 ふむ……。

 

「私、実はパフェが気になっているんだ」

 

 メニュー表を開いて写真を見せながらそういうと……視線は釘付け。もう捉えてはなさない。さらには瞳が物欲しそうにキラキラと輝いている。

 フッ、ちょろいな。

 

「食べたいか?」

「食べたいで——ハッ⁉︎ 食べ物で釣ろうという魂胆ですね⁉︎ だめです、リーダーに絶対言うなって言われているんです!」

「へぇ〜、渚に言うなって言われてるんだぁ」

「ハッ⁉︎」

 

 双葉の指摘に愕然としたあと、卑怯ですと、悔しそうに震える芽衣。

 なんでも思ったことを口に出すというのは大変だ。隠し事とか嘘をつけないというのも考えものかもしれない。

 こっちが頑張って嵌めようとしなくても勝手に自爆してくれてありがたいけど、流石に簡単に話しすぎだ。

 ……けど。


「まあ、いいや。この話はおしまい」

「え、いいの? 瑠璃」

「いい。渚が知られたくないことなら、私は知らなくていい」

「……そだね。その通りだよ。ごめんね芽衣ちゃん」

「……お二人とも、本当に優しいんですね」

「友達だから」

「んね」

「お友達……そうですか。そうですよね。お友達なら当然です、よね」

 

 芽衣はそう呟いて表情を曇らせる。

 ……不安と、悲しみ。

 その色が渦巻いて、彼女の背に現れる。

 なにか今のやりとりに思うところがあったのかもしれない。でも、すぐにその感情も形を潜め、さっきまでの貼り付けたような笑顔を芽衣は浮かべる。

 

「これから、そんな素敵な人たちと一緒にバンドができるなんて嬉しいです! こんな私でも受け入れていただいて、お本当に嬉しいです。改めてよろしくお願いしますっ!」

「……うん」

「よろしく芽衣ちゃん!」

 

 双葉がカウンターの奥に向かいながら、『お近づきの印にパフェをご馳走しよう!』と言えば、目をキラキラさせて恍惚とした顔になる芽衣。

 すでに先ほどの色は黄色一色。喜びしか感じられない。

 本当に好きなんだな甘いもの。

 

「あ、そうだ芽衣」

「芽衣は歌は歌える?」

「歌ですか? ん〜……そうですね、ボイトレもしていたのでそれなりですけど」

「ボイトレ?」

 

 ボイトレをしていたことがあるのなら、もしかしたらいいかもしれない。私達のバンドのボーカルに。

 

「あ、でも……」

「ん?」

「私はどう頑張っても——」

「お待たせ〜」

 

 と、そこで双葉が決して小さくはない、パフェを持って戻ってくる。

 ……パンケーキの後にそんな、入るのだろうか。私なら無理だ。

 

「ありがとうございます! いただきます!」

「たんとおたべ〜」

 

 パクパクと食べていく芽衣。

 幸せに浸っているので、今はとりあえずなにも訊かないでおこう。ボーカルを兼任するかどうかはゆっくり話せばいいことだ。

 今はまだこの新しい仲間の加入を喜び、祝おう。

 

「新しい妹ゲット記念に乾杯、双葉」

「だね! おめでと〜——って、今、妹って言った?」

「気にしない」

「お、おめでとうございます!」

 

 持っていた各々のコップを打ち鳴らし、そのまま飲み物を飲み干した私は、追加でココアを注文する。だが、『頼むならいっぺんに頼め、小分けにするな』と、一葉さんに小言を言われてしまった。

 仮にも客なんですが。別にいいじゃないですかケチ。とは、当然言わずに心の中に留めておく。私は無意味な争いはしないのだ。

 決してコメカミドリルの刑が怖いからでなはい。断じてそんなことじゃないのだ。

 そうして、私達は休日の時を有意義に過ごしたのだった。

 

 

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