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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
22/43

EP.21 性格がアレな子でさ

「で、いつから他のバンドメンバー探すんだ?」

 

 いつもの昼食時、ご飯を口に運びながらそう言った渚の言葉に、私と双葉は凄まじい衝撃を受けた。

 雷に打たれたかのように私達は動きを止め、そして呟く。

 

「わ、忘れてた……」

「同じく」

「まず、ちゃんと頭回る人を入れた方がいいかもな」

 

 まるで私達がバカみたいな言い方をしてきた渚に、私は一葉さん直伝のグリグリをお見舞いしてやる。

 渚の死角に回り込んで、こめかみに拳を当てて——

 

「いてててっ⁉︎ 一葉さん程じゃないけど痛いっ!」

「私達よりいい頭なら、少しくらいダメージを与えないと不公平」

「なにが不公平だ⁉︎」

「やっちゃえ瑠璃!」

「ぬおおおっ⁉︎」

 

 無理矢理抜け出した渚は息を乱しながら私と向き合う。

 

「ふっ……いいのか? そんな態度で」

「どういう意味?」

「折角アタシが、知り合いのベーシストを紹介してやろうと思ったのに」

「ごめんなさい渚さま」

「私達が間違ってました」

「教室で土下座をするな!」

 

 私と双葉の土下座を受けて周囲から畏怖の眼差しを受ける渚はたじたじだ。

 逆にダメージを受けた様子で、自分の席に着席し溜め息をつく。


「二人はなんつーか……バカだよな」

「失敬な」

「それは瑠璃だけ——」

「双葉だけ——」

「ん?」

「は?」

「息もピッタリ。類が友を呼んだんだな」

「そうなると渚も」

「は?」

「私達三人は仲良しだもんねー」

「……そ、そうだな」

 

 照れてるね、と。双葉とニヤニヤしながら耳の赤い渚を見ていると、内心を悟られまいと誤魔化そうとしてか、ゴホンッと態とらしく咳払いをして、例の話題を振ってくる。

 

「で、アタシの知り合いなんだけどな」

「ベース歴は?」

「身長は?」

「どんな性格?」

「好きな食べ物は?」

「アタシに訊くな。後で合わせるから本人に訊けばいい。まあ……ただ、な」

 

 妙に歯切れの悪い渚は、私達に申し訳なさそうに言った。

 

「ちょっと……性格がアレな子でさ」

「アレってどれ」

「怖い感じなの?」

「怖くはないと思うけど、なんていうか……たまに口を滑らせる奴でさ。そのせいで友達もいないんだけど、悪いやつではないんだ」


 そう話した渚の表情はどこか物憂げで、その子のことを少なからず良く思っているからこその表情だろう。渚がこう言うのなら、別に断る必要もない。

 私は双葉に目を向けると、すぐに目があった。そのまま双葉は頷く。頷いてくれたということは、同じ考えだということだろう。

 

「うん、会わせて」

「いつにしよっか」

「いいのか? 性格がアレなのに」

「知り合いって言ってるけど、渚の友達でしょ」

「友達の友達は友達って言うしね!」

「いや、その……そうだな」


 本当に初々しい反応だ。

 照れ屋だな渚は。


「その子って何歳?」

「二つ下だな」

「えっ、そうなんだ! 渚とはどんな関係で友達になったの?」

「ああ、まあ、色々あって、普通に。今は……向こうがどう思ってるかは知らないけど一応、友達かな」

 

 そう言う渚の表情にはなにか別の感情が蠢いていて、色を見ようと目を凝らせば、ゆらっと何か見えたが……捉え切る前に、双葉の言葉に邪魔される。

 

「渚と仲のいい後輩かぁ、会うのが楽しみだね、瑠璃」

「え? ああ、うん」

「早く会わせてよ渚!」

「分かった分かった。後で確認とってみる」

 

 そうして渚に、ベーシスト候補と会う日の段取りを任せ、私はなんとなくモヤっとした気持ちでお昼休みを過ごした。

 

 

 

 そして、その週の土曜日のお昼。

 私と双葉は渚からの連絡を受けて、例のベーシストと会うことになり集合していた。 

  

「どんな子だろう」

「凄いロックな感じの人かもよ?」

 

 いつもお世話になっているセレナーデにて、私と双葉は待ちきれずソワソワしていた。

 件の相手と渚を待っている訳だが、今は飲み物だけ注文してのんびりまったりタイム。

 約束の時間よりも三十分ほど早く来てしまったので、軽い甘味も今、一葉さんに作って貰っている。そろそろ出来る頃だろう。

 

「ほら、お待たせ」

「待ってました」

 

 一葉さんが持ってきてくれたのはオーソドックスなパンケーキ。

 双葉のおすすめということもあって注文してみたのだ。

 別の容器に入っているたっぷりのキャラメルソースをかけて、ナイフで一口サイズに切ったそれを口の中に——

 

 ——チャリンッ

 

 口の中に入れようとしたまま、音のした扉の方に目を向ける。

 そこには双葉と、彼女の後ろにいる背の低い一人の女の子がいた。

 辺りをキョロキョロと店内を見まわしたその子は開口一番、

 

「寂れた感じで、良いところですね」

 

 と、笑顔で言った。

 寂れた感じ……え?

 ちょっと聞き間違いだろうか。もし聞き間違いでないのなら……いや、雰囲気がある、と言いたかったのか。そうか、それなら仕方ない。

 ……ちょっと早速だけど心配になってきた。なにがって、一葉さんの機嫌とか。

 そっと私はカウンターの奥にいる一葉さんを伺う。

 ……良かった、聴こえてなかったっぽい。

 私は同じように一葉さんの様子を見ていた双葉と安堵の溜め息を溢した。

 

「コラッ、またお前はそんなこと言って!」

「あ、す、すみません、良い雰囲気ですって意味で! 悪い意味で言ったんじゃないです!」

「ならまあ、良いけど。気をつけるんだぞ、失礼のないようにな」

「はい!」

 

 そんなやりとりの後、こちらにやって来た二人に目の前の席に座るように促す。

 

「座って」

「悪いな、待たせたか?」

「全然大丈夫。瑠璃なんてこの通り、完全に寛いでるし」

「美味しそうでつい」


 私は手に持っていたフォークに刺したままのパンケーキを口に運ぼうとして——目の前の彼女に目を向ける。

 明らかに凝視している。

 つぶらな瞳が明らかにパンケーキを捉えて離さない。

 私はフォークをすっと、左へ。すると視線も左へ。右へやればそれに従って右へ。……分かりやすい子だ。

 身長は百四十ほどだろうか、見た目からして明らかに歳下。雰囲気や仕草からはそれほど大きな差は感じられないが、しっかりした雰囲気がある。精神的にはしっかりしてそうな印象だ。

 ただ、今の動きは見るからに子供っぽかったので、よく分からない。

 とりあえず私は手に持っていたフォークをそのまま、彼女の目の前に差し出す。

 

「食べな」

「え……いいんですか?」

「いいよ」

 

 恐る恐るといった調子で——パクッと食べたその姿は、まるでハムスターを連想させる可愛さ。

 はあ……尊い。

  

 

  

 

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