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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
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EP.11 私は美少女だもん!

 歩いているうちに家に到着。

 まだ二人は何を言ったらいいか分からないのか、口を開いては閉じを繰り返している。口篭っては誤魔化して、なんとも居た堪れない様子だ。

 しかし、私としてはそんな風にされても、逆に対応に困ってしまう。もう過ぎたことで、私の中で決着は着いているんだから。

 本当に優しい二人に、私は微笑んで言う。

 

「さ、上がって」

「お、お邪魔します」

「お邪魔します……」

 

 もう気にして欲しくないんだけど、一向に雰囲気が元に戻らない。

 こういうときは私の方から何か和むようなことをすると良いのかも……何かないかな。二人が思わず笑顔になるようなことは。

 ……笑顔に。

 つまり、私が嬉しくて思わず笑顔になるような事を、二人にすれば良いのでは?

 

「ちょっとリビングで待ってて」

「あ、お構いなく」

「お茶とか気つかわなくていいぞ」

「うん。ちょっとメイド持って来る」

「⁉︎」

「⁉︎」

 

 私は二階に続く階段を駆け上がって自室の前を通り過ぎ、隣の——弟の部屋へ。

 部屋のクローゼットを開け放ち、そこの奥の方にかかっているアキバ系のメイド服を手に取って、そのまま一階へ降りる。

 

「はい、メイド」

「なんでだよ⁉︎」

「なんで私達は来て早々、メイド服を見せられてるの……?」

「あと言い方が紛らわしいんだよ。なんだよメイド持って来るって。メイド的な人が居るのかと思っちゃったじゃん」

「あ……そうだよね。服なんだから着なくちゃか」

 

 そう言って私はメイド服を着るために制服を脱ごうとするが、

 

「ちょっ、ちょいちょいちょいっ⁉︎ なぜ脱ぐ⁉︎」

「え、いや、折角だから着ようかと」

「やめろ? そんなサービス求めてねーからな⁉︎」

 

 なぜか顔を赤くした渚に止められる。

 女同士なんだしそんな気にしなくてもいいのに。ふむ……けど、私がボケ倒したおかげで雰囲気はだいぶ和んだ。

 床に蹲って笑い転げている双葉がいい証拠だ。私の全力ボケは、お気に召して頂けたかな?

 

「お茶系と炭酸系と野菜系、どれがいい?」

「唐突になんの話だ?」

「炭酸系がいいでーす」

「ジンジャー、オレンジ、サイダー」

「サイダーで〜」

「あぁ、飲み物か……アタシはお茶で」

「ウーロン、麦茶、緑茶」

「ウーロンでお願い」

「うぃ」

 

 私はソファーにメイド服を放り投げて、注文通りに二人の飲み物を用意する。

 ちなみに私はジンジャエール。もちろん辛口の。

 

「はい、どぞ」

「サンキュ」

「ありがとー」


 二人がそれぞれの飲み物を受け取って口をつける。

 私も渚の隣に腰掛け、対面の双葉が「かーっ!」と、おっさん臭い仕草をするのを見て和む。

 双葉は可愛いのに中身おっさんだよね。

 

「双葉は見た目小さくて可愛いのに、中身おっさんだよな」

 

 心の中に留めていた私の呟きと重なるように、渚がそう口にした。

 

「誰がおっさんよ! 私は美少女だもん!」

「美少女って言ったぞこいつ」

「自分で言うのはやめときなよ双葉」

「えっ、冗談だよ……二人とも酷い」

 

 冗談に聞こえなかったけどね。

 ムスッとむくれっつらになった双葉が、急に目に輝きを宿したかと思うと、先ほどの発言を誤魔化すように手を叩いて、私に言う。

 

「早速だけどさ、練習しよっか!」

 

 双葉はテーブルに立て掛けていたギターの入ったバッグを抱きしめ寄せた。

 

「そうだね。じゃあ、双葉先生。よろしくお願いします」

「よろしくお願いされます」

 

 私と双葉は立ち上がる。

 そしてもの悲しそうな、飼い主からお預けを喰らっている子犬のような眼差しで、渚が私を見てきた。可愛い。

 

「アタシは何してればいい?」

 

 そう言う渚を見て、私の中で虐めたい欲望が芽生えたのを感じる。少し意地悪な事を言ってみたい。言ってみようか。

 

「ここで一人で待ってて」

「えっ」

 

 眉を寄せて泣きそうな顔になる渚の反応に、私は背筋がゾクゾクする妙な感覚に襲われ、無意識のうちに口角が上がったのが分かった。

 加虐心をそそる表情をする渚が悪いんだよ。

 あぁ……可愛い。

 

「なに恍惚とした表情してんの瑠璃。普通に怖いよ?」

「私の中の開いてはいけない扉が開いてしまった」

「バカなこと言ってないで練習練習。渚も、瑠璃の冗談にショックうけてないで一緒に来てね」

「あ、冗談か……よかった」

 

 私は双葉に背中を押されながら二階へ。

 目的の部屋は当然私の部屋——ではなく、父の使っていた部屋に向かう。

 他の部屋とは違う作りの黒い扉は、他の部屋の扉と同じ木製ではなく、遮音性と吸音性に優れた素材で出来ているものだ。 

 

「ここ」

 

 扉を開ける。

 私がこの部屋に入るのは家族が死んでからは初めてだ。

 開けた扉の奥は薄暗く、入室してすぐ左の壁にある電気のスイッチをカチッと押して明るくする。

 

「おおっ!」

「ええっ、すごっ!」

 

 渚と双葉が驚く。

 部屋の中は十二畳ほどの広さ。

 何気にこの家の中で一番広い面積を有する部屋だ。

 私と弟の部屋の面積が狭いのは、この部屋の所為。全くいい迷惑だよ。

 

「ギターアンプにエフェクターもこんなに! しかも、電子ドラムもあるし、なんで⁉︎」

「なあ、マイクとかもあるぞ。でっかいスピーカーも……これもう、ここでライブとかできるんじゃ?」

「ここは私の父親の趣味部屋でさ。昔はなんか、一緒にやってたバンドの人とか来て、楽しくやってたみたいだけど、今はこの通り誰も使ってないから。好きに使っていいよ」


 その言葉に興奮した様子の双葉が、我慢できずにアンプやエフェクターに齧り付くように凝視し、


「試してもいい⁉︎」

 

 と、いつの間にかストラップを首にかけ、ギターを構えてそう訊いてきた。

 やる気満々だなぁ。

 

「好きにやっていいよ」

 

 もう全部、私のものだからね。

 興奮しっぱなしの双葉は、いくつかの機材を棚から取り出し、手早く機材をセッティングしていく。

 迷いのない慣れた動きを見ているだけで、熟練者だと思わされる。

 長く何かをやっている人は、ただなんてことはない動作や言葉だけで、実力の片鱗のようなものを感じさせる。雰囲気が常人とは違うのだ。

 そういう意味では私の父も相当だったと言える。

 音楽に触れている時だけ、父は普段とはまるで別人のようだった。

 ギターを弾くあの姿に魅了されて、私はずっとこの部屋で、最高の特等席で父の演奏を聴いていたのだ。

 双葉に目を向ける。

 機材のセッティングを終えた彼女はギターを構え、

  

「——いくよ」

 

 やはり普段とは別人の表情で、凛とした雰囲気を纏う。やっぱり別人みたいだけど、それもまた双葉なのだ。

 ギタリストとしてのまだ見慣れないその姿に、私は憧憬のような気持ちを抱く。父の演奏に魅了されたときと同じだ。私は静かに見入る。

 双葉は自身の黒いギターを掻き鳴らした。

 

 

 


 

 

 

 

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