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SONIC BLUE!〜極彩のロックンロール〜  作者: ユララ
如月瑠璃は錆びた弦を掻き鳴らす
11/43

EP.10 担任のヅラがさ

「それで双葉はこんなことになってんの」

 

 教室で机を囲み昼食を摂る、いつメンの私達。

 私と渚はモグモグと口を動かしながら、机に突っ伏して白目を剥いている双葉を見る。

 

「ちょっと無理させすぎたかな」

 

 昨日、双葉の演奏を聴いて俄然やる気になった私は、時は金なりの精神で早速、店の外に彼女を連れ出した。

 そして店前で演奏させたのだ。

 と言っても、人通りなんて殆どない路地。まず人目につくことはないが、極度のあがり症だった双葉には、相当なプレッシャーだったと思う。

 けど、いきなりそんな暴挙に出たのには理由がある。

 人目を気にしてたどたどしくも、三回ほど演奏してもらった後、店の中に戻って私が見ている前で、もう一度演奏して貰った。

 すると、最初の演奏とは比べ物にならない演奏を聴かせてくれたのだ。

 私の思った通りだった。緊張を超える緊張状態に身を晒すことで、感覚を麻痺させ、このくらいのプレッシャーならさっきよりマシだと思える、という予想は的中。

 後はその一連の流れを、私の前であがってしまう度に繰り返すだけ。


「スパルタだな」

「動画撮ってある。見る?」

「お、見る見る」

 

 私は昨日の特訓風景を見せる。

 双葉が好きな曲を弾かせているが、どれも演奏の度に良くなっていく。

 本来は上手いから、環境に慣れていけば落ち着きを取り戻して演奏できるのだ。

 スパルタとはいえ、今の時点でこれだけ改善できたのだから、先は明るい……と思う。

  

「あ、今の曲。アタシ聴いたことある」

「全身全霊?」

「そうそう、あの曲好きなんだよなぁ。んで、これ、何回ループしたんだ」

「五回くらい? 双葉の魂が真っ白に燃え尽きるまで」

「鬼かよお前」

「双葉はロックだから」

「意味わからん……」

「双葉はやればできる子だから」

 

 私達がそんな会話をしていると、双葉がガバッ! と。勢いよく起き上がった。

 

「ワタシハ、ヤレバデキルコ」

「うん、次も頑張ろう」

「ウン」

「壊れてね⁉︎ なんかヤバそうなんだけど⁉︎」

 

 渚のツッコミは無視して、私と双葉は冗談をそこそこに、今日の放課後について話し合う。


「早速、今日も特訓する?」 

「今日はダメ。私の特訓はセレナーデじゃできないよ。今日はお姉がお店開いてるから」

「それなんだけど、ウチでやろう。私もギターの練習はじめたいし。双葉先生に教えて貰わないと」

「だね、じゃあ今日は特訓じゃなくて、瑠璃のギター練習にしよっか!」

「なんか嬉しそうだね双葉」

「いや? 別にー」

「大丈夫。次はしっかり特訓しよう」

「うぅっ……」

「……二人だけずるいな、アタシも行く」

「あれ渚、今日はバイトじゃないの?」

「メイド喫茶の」

「ああ、メイド喫茶のバイ——トじゃないっつの! 普通の喫茶店! バイトは来週からだ」

「そっか……」

「だから、なんでそんなに残念そうなんだ瑠璃は」

「いいじゃん、一回くらい着てあげれば?」

「なんでだよ、嫌だよ!」

 

 そして鳴ったチャイムに従って、私たちは席へと戻り、午後の授業を終えて————あっという間に放課後。

 私は背後を歩く二人に振り返る。

 

「でさ、担任のヅラがさ……」

「気にしてるんだよね先生。みんな分かってるとはいえ、ズレてますって言えないじゃん」

「アタシ授業後にそっとメモ渡したわ」

「なんて書いたの?」

「いや、ヅラがズレてますって」

「それがいいよ。あのまま職員室に戻る方が酷だし」

「だよな。篠崎先生のこと好きらしいし、せめて好きな人の前でくらい、な」

「うん……」


 酷な現実について議論している二人から目を外し、私は感慨深く思う。 

 自分の家に誰かを呼ぶなんていつぶりだろうと。

 最近はただでさえ静かな家だ。久しぶりにあの家が賑やかになるのかと思うと、なんだか嬉しい……気がした。

 

「そういえば瑠璃の家って何人家族なんだ?」

 

 そう考えていたら、どうも返答しにくい話題を振られてしまった。

 素直に言ってもいいけど……せっかく友達が来てくれるんだから、変な空気にしたくない。

 とりあえず、私は質問し返して誤魔化す。

 

「渚のところは?」

「アタシのとこは妹と弟と母親、それから爺ちゃんと婆ちゃんの六人暮らし。父親はたまに会って飯食べに行ったりするかな」

「お父さんは別居してるの?」

「いい質問だ双葉。父親はウチの母親の怒りが収まるまでホテル暮らしなんだ。察してくれ」

「あぁ……やっちゃいけないことをやったんだね」

「そういうこと。まあ、一気に離婚ってならないだけ、ウチのマ——母親が優しいんだと思う」


 今、ママって言いそうじゃなかった?

 だとしたら私のイメージ通りで可愛いと思うんだけど、本人は隠したいようだから、何も言わないでおこう。

 

「双葉のところはどうなんだよ」

「ウチはねー、お姉とお父さんと三人だよ。お母さんは私が小さい時に死んじゃってるからさ」

「……そっか」

「やだな、そんな暗くならないでよ。それで、瑠璃は?」

 

 まあ、戻ってくるよね。

 双葉も暗くなりそうな雰囲気を払拭するために、すぐ私にパスをしてきたんだろうけど……一番ヘビーな雰囲気になってしまうことは必至。

 どうにか話題を変えたいところだけど……誤魔化しても仕方ない、か。

 

「私のところは——」

 

 私は話そうとしたが、そのタイミングで誰かのスマホが鳴り出した。

 

「あ、ごめん、私だ」

 

 双葉がスマホを手に取って私達から少し離れる。

 黙って眺めていると、すぐに電話を終えた彼女が戻ってきた。

 

「いやぁ、お姉から。今日は晩御飯ないから適当に食べてこいって」

「一葉さんはどうかしたの?」

「なんか友達が来たから店閉めて飲むんだって」

「楽しそうだな」

「それじゃ、ウチで食べてく?」

 

 その言葉に二人は目を丸くする。

 

「え、大丈夫なのか?」

「晩御飯にお邪魔しちゃ悪いよ」

「大丈夫、私一人暮らしだから」

 

 あ。

 

 怪訝な表情になった二人はどういうことかと私に訊いてくる。

 仕方ない、言うしかないか。

 

「いや、実は——」

 

 私は家族が全員、私を遺して死んでしまったという、高校一年にしては中々にヘビーな話を話す。

 それに二人は悲痛な面持ちになって————この間、セレナーデで一葉さんが見せたあの色を浮かべた。

 淡い青紫の色。

 聞いて後悔するくらいなら訊かなきゃいいのに。なんて、それは流石に勝手すぎる考えだ。訊かなきゃいいのにという言葉をゴクっと飲み干して、私は取り繕う。

 

「気にしないで。別にもう大丈夫だからさ」

 

 私は今、上手く笑えているだろうか。

 そんな風に思うのは、まだ私が大丈夫ではないからなのかもしれない。

 

 


 

 


 

 

 

 


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