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第三話「早く血を飲ませてください!」「お前達、話を聞け!」

 ベルナールは律儀に大木の下で待っていた。リアと目があった瞬間、パッと笑顔になる。


「お帰りなさいませ、姫様! ずいぶんたくさん買ってきてくださったんですね」


「貴方の甲冑のおかげよ。大事にしてくれそうな人に売ったから、安心して」


「本当にありがとうございます! ハグさせてください!」


 ベルナールはリアを抱きしめる。その流れで首筋へ噛みつこうとしたので、スポクサーSSTで防御した。


「ガボガボガボ……」


「で、これどこまで運んだらいいの?」


「げぷっ……城の地下です。他の騎士達も姫様にお会いできるのを心待ちにしておりますよ」


「城って、廃都の?」


「廃都? あぁ、ハイディランド王国の訛りですか。えぇ、もちろん。ただ、姫様にはつらい光景をお見せすることになりますが……」


 ♦︎


 廃都はその名の通り、朽ち果てた不気味な場所だった。城下町は草木に埋もれ、城は原型を留めていない。リアは初めて足を踏み入れたが、ひどい有り様だった。

 幸い、ウワサでは魔物の巣窟になっていると聞いていたが、魔物どころか動物の一匹も遭遇しなかった。


「大丈夫ですか? 姫様」


「姫じゃないけど、大丈夫。それより、ジッとこっち見るのやめて」


「そんな! 俺は姫様が心配なだけなのに!」


「余計なお世話」


(本当は、見られると恥ずかしいからなんだけど)


 ベルナールはいくらか顔色が良くなっていた。そのせいで整った顔立ちがより際立ち、リアをドギマギさせていた。

 ベルナールに案内され、城の裏へまわる。ベルナールが呪文を唱えると壁が動き、地下へと続く通路が現れた。

 点々と明かりが灯る。通路はうす暗く、空気がよどんでいた。


「……怖い」


「後ろから抱きしめて差し上げましょうか?」


「噛まれそうだから、いい」


「では、手を握って差し上げましょう」


 ベルナールは手綱を握っているリアの手を、両手で包む。

 スポクサーを飲んだおかげか、わずかに体温が戻っている。いつ噛まれてもおかしくないほど密着していたが、不安だったリアは手を振り解きたくはなかった。


 不安を押し殺し、先へ進む。

 やがて、通路の先に鉄の柵が見えた。牢獄だ。ベルナールと同じ甲冑を着た男達が二十人近く、手足を拘束されている。


 男達はリアを見るなり、瞳をらんらんと輝かせ、暴れ出した。


「セシリア姫! 生きておられたのですか?!」


「まさか! あれから百年近く経っているのだぞ?」


「よもや、姫まで我々と同じ魔物にされてしまったのでは?」


「何はともあれ、団長やりましたね! これで呪いが解けますよ!」


「さぁ、早く姫の血を飲ませてください!」


 ガシャンガシャンと、鎖がけたたましく音を立てる。今にもリアへ飛びかかろうとしている。

 皆、顔が異常に青ざめ、牙が生えていた。


 リアはじとーっとベルナールに疑いの目を向けた。


「……騙したの?」


「違います、違います!」


「でも、何度か私に噛みつこうとしたわよね?」


「そうなんですか、団長?!」


「抜け駆けズルい!」


「だから違うんですって! お前達、話を聞け!」


 ♦︎


 ベルナールは男達をなだめ、スポクサーを配る。

 「薬なんかでおさまりませんよ」と彼らは不満を口にしていたが、スポクサーを飲んだ途端、夢中にで飲み干した。


「おかわり!」


「俺も!」


「高価ものなんだから、もっとありがたく飲め!」


 男達にスポクサーを配る作業は、ベルナールひとりで行なった。

 リアも手伝おうとしたが、「姫様は牛車から離れないでください」と檻の中へは入れさせてくれなかった。


「彼らは私よりも症状が重いんです。ああして手足を拘束しておかないと、外に出て人間を襲いかねない。高潔な騎士である彼らに、そのような真似はさせたくない」


「どうしてそんなことに? 貴方達はいったい、何者なの?」


「……そのような冷たいことをおっしゃらないでください。我々は、貴方様の騎士ではありませんか」


「だって、本当に知らないんだもの」


「まさか、あの惨劇で記憶を無くされたのですか?! なんということだ! 私がもっと早く気づいていれば!」


「へ?」


 ベルナールは涙ぐみ、男達はスポクサーをあおる。


「分かりました。姫の記憶を取り戻すためにも、あの日何があったのか、なぜ我々が呪われてしまったのか、お教えしましょう」


「だから、姫じゃないんだってばー!」


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