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第二話「その甲冑、俺に売ってくれ」「お断りします」

 リアはベルナールから押し付けられた甲冑を荷台に乗せ、再び街へ向かった。

 ベルナールは訳あって廃都から離れられないらしく、リアと出会った場所に生えている大木の下で待っていると約束した。


「甲冑なんて、どこで引き取ってくれるんだろう?」


 とりあえず、なじみの農工具専門の鍛冶屋へ持って行った。「うちはそういうの取り扱ってないから」と、冒険者御用達の武器防具屋を紹介された。

 さっそく訪ねると、頑固そうな屈強なオヤジが出てきた。


「嬢ちゃん、うちに何の用だい?」


「ノーコーさんに紹介してもらって来ました。この甲冑をなるべく高く買い取ってもらえませんか?」


「甲冑ぅ?」


 「こんな小娘の持ってくる防具なんて大したことないだろう」とでも言わんばかりに、やる気なさそーに甲冑を品定めする。

 しだいに、目の色が変わっていった。


「こ、こ、これは! ハイディランド王国騎士団団長ベルナール・ベルモンドが身につけていた甲冑じゃないか! 歴史的な大発見だぞ?! いったいどこでこれを?!」


「廃都の近くで拾ったんです」


「他にも何か落ちていなかったか? 剣とか、盾とか!」


「いえ、見つけたのはそれだけで……」


(困ったなぁ)


 ハイディランド王国とは「廃都」の正式名称である。リアが住むサイハティ村を領地に持つ、平和で活気ある王国だったそうだ。

 ところが百年前、魔物の群れに襲われ、一夜にして滅んでしまった。国民は近隣諸国へ逃がれたものの、最後まで国に残っていた王族や騎士団の行方は分かっていない。現在も王国は魔物に占拠され、立ち入り禁止となっている。

 ある目撃証言によれば、住み着いているのは甲冑を着た人型の魔物らしい。そのため、魔物の正体は「魔物に取り憑かれた騎士団なのではないか?」とウワサされていた。


(そういえば、あの人もベルナールって名前だったっけ。本当に魔物に取り憑かれた騎士だったのかな?)


 鍛冶屋に問い詰められ、困っていると


「倍の額を出す。その甲冑、俺に売ってくれ」


 身なりの良い若い男がリアと鍛冶屋の間に割って入り、甲冑を指差した。


「あ、アレキサンダー領主様?!」


 鍛冶屋はハッと我に返る。アレキサンダーの方を向き、深々とお辞儀した。

 アレキサンダーはリアに対し、バチコーン☆と思わせぶりにウィンクする。どうやらリアを助けたつもりのようだったが、


(誰、このうさんくさい人?)


 田舎者のリアは男の素性を知らず、首を傾げた。


「ウェイク、金をお嬢さんに」


「はい。旦那様」


 アレキサンダーの背後に控えていた従者が重そうな袋を運んでくる。中には金貨がたんまり入っていた。


 鍛冶屋は惜しそうに、甲冑を見つめる。

 これだけあれば、一生分のスポクサーを買えるだろう。しかしリアは、金にものを言わせる彼の態度が気に食わなかった。


「お断りします。私はこちらの鍛冶屋さんに甲冑を売ったんです。交渉するなら、鍛冶屋さんとやってください」


「リアたそ……!」


「むぅ」


 リアは鍛冶屋から金を受け取り(アレキサンダーが用意した額より少ないが、かなりの金額)、その場を後にした。

 鍛冶屋は大喜びで甲冑を抱きしめ、撫でまわし、アレキサンダーを睨みつけた。


「甲冑の転売、ダメ! 絶対!」


「……フンッ」


 アレキサンダーも不満そうに鼻を鳴らし、鍛冶屋を出て行く。従者は慌てて金の入った袋を回収し、後を追った。


「いかがしますか?」


「甲冑の一つなど、どうでもいい。あの娘の後を追えば、どこで拾ったか分かる。どのみち、あの娘の素性は調べるつもりだったしな」


 アレキサンダーと従者はリアを尾行する。

 リアは薬屋に残っていたスポクサーを買い占め、牛車の荷台に乗せていた。


「美しい。見れば見るほど、セシリア姫にそっくりだ」


「まるで生き移しですね。サイハティ村は廃都に最も近い村……逃げた王族の末裔が住んでいてもおかしくありません」


「王族の娘を嫁にし、廃都の財宝を手に入れれば、俺の将来は安泰だな」


 アレキサンダーは街とその周辺を治める、若き領主だった。

 より己の価値を高められる血筋や財宝に目がなく、時には力づくで奪うこともある。リアに目をつけたのも、消息不明のハイディランド王国第一皇女・セシリアの肖像画にうり二つであったからだった。


「ところで、あの大量の回復薬はなんだ?」


「スポクサーSSTですね。回復薬で、滋養強壮にもいいんですよ。農家は力仕事ですから、疲れたら飲むんじゃないですか?」


「……なぜ、あの娘が農家だと知っている?」


「だって、うちで毎朝買ってる牛乳、彼女から買っていますもん。サイハティ村特産おいしい牛乳。旦那様も大好物じゃないですか」


「ほう。ならば、娘をいただくついでに、あの村も我が領地にしよう」


 アレキサンダーはニヤリと笑った。


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