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第一話「姫様、薬をいただけませんか?」「私、姫じゃないんだけど」

 村外れの廃都に近づいちゃいけないよ。

 吸血鬼になった騎士団が、お前の血をねらっているからね。


 ♦︎


 リアは片田舎の村娘。

 家は酪農家で、牛乳や肉を売って暮らしている。男手が足りず、それらを街へ売りに行くのはリアの仕事だった。


 ある初夏の頃。

 リアは街から村へ帰る途中、「廃都」と呼ばれる旧市街の近くで人が倒れているのを見つけた。ひどく青冷めているが、短髪の美男だった。博物館に飾ってありそうな古い甲冑を身につけている。


「大丈夫ですか?」


 リアは牛車から降り、青年を抱き起こす。

 青年はリアを見るなり、後ずさった。


「ひ、姫様! ご無事だったのですね!」


「はい?」


 青年は今にも倒れそうな顔で「申し訳ありません!」と膝をついた。


「我々騎士団の力及ばず、魔物共の侵入を許してしまいました! なんとか掃討はいたしましたが、都はこのような有り様。その上、我々は魔物共の呪いによって、()()()()()()()()()()()()()! 不肖ベルナール、なんとお詫びすれば……!」


「あの私、姫じゃないんですけど。この先のサイハティ村で酪農家をやってる者です」


「時に、姫様」


「だから姫じゃないって。話聞きなさいよ」


 ベルナールと名乗った青年はリアを無視し、こうたずねた。


「薬をいただけませんか? 我々の呪いを解く、唯一の方法なのです」


「薬? 回復薬ならいくつか持ってるけど」


 リアは街で購入した瓶入りの回復薬をいくつか見せた。

 ベルナールは「どれも違います」と首を振った。


「薬は姫様の体に流れているのですよ」


「私の?」


 ガシッ、とベルナールはリアの肩をつかむ。

 冷たい手だ。今しがたまで氷水に浸していたかのように冷え切っている。その尋常でない冷たさに、リアはゾッとした。


(……あれ? この人さっき、"人ですらなくなった"って言ってなかった?)


 ベルナールはニヤリと笑み、口を大きく開く。人のものではない、大きく鋭い牙が露わになった。


「そう……血液という名の、極上の薬が!」


「ッ!」


 リアはとっさに赤い薬液の入った瓶をつかみ、ベルナールの口へ突っ込んだ。


「ガボガボガボ……」


「血なんて飲んだら、お腹壊すでしょ? 今はこの回復薬で我慢して。後で医者を呼んできてあげるから」


 ベルナールはしばらくガボガボ言っていたが、瓶に入っていた薬液を全て飲み干すと、あきらかに血色が良くなっていた。


「な、なんだこの薬は?! 全身に生気がみなぎってくる! 何を飲んでも食べても満たされなかったというのに!」


「スポクサーSSTよ。エリクサーもどきにスッポンの生き血が入っているの。だいたいの病気は、これ飲めば治るわ。効いて良かった。貴方血色悪かったし、貧血だったんじゃない?」


「そのような薬があったとは……呪いが解けたわけではないようですが、幾分か気持ちが楽になりました」


「じゃ、私はこれで」


 リアは逃げるように立ち上がる。

 が、「お待ちください!」とベルナールに手をつかまれ、引き留められた。


「そのすぽくさぁなる薬、もっと持ってきてはもらえませんか?! 他の騎士達も俺と同じ呪いにかけられ、苦しんでいるのです! 百……いえ、二十で構いませんから!」


「えー。あの薬、結構高いんだけど」


「では、俺の甲冑を売ってください! 姫様の父君より賜わったものですが、騎士団のためとあらばお許しいただけるでしょう」


 ベルナールは着ていた甲冑を脱ぎ、リアに差し出す。ボロボロで、金になるかも分からなかったが、真剣な眼差しの彼をむげにはできなかった。


(そんな顔で頼まれたら、断れないじゃない)


「……分かったわよ」


「おぉ、姫様! なんと寛大なお心!」


 ベルナールはリアの手の甲へ口付けする。そのまま歯を立てようとしたので、スナップをきかせて裏拳でビンタした。


「あいたっ」


「だから、買ってくるって言ってるでしょうが!」


「ありがとうございます!」


(なんか、変なのと関わっちゃったなぁ。廃都の近くなんか通らなきゃ良かった)


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