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感情社会主義

20XX年 政権交代より社会主義が主流になった日本。

馬鹿ばかしい政策のせいで僕たちの感情は自由を奪われた。

1時間に国民1人の感情を共有するというものだ。


朝7時 日本全土に泣き声が轟いた。地面も震えている。

どうやら、『泣きたい程の悲しさ』という感情が共有されているらしい。

「朝から泣きたいやつなんているのかよ。」

と愚痴をこぼしながら重い体を起こした。


え?僕はなんで泣いてないのかって?


どうやら僕はこの世の忌み子として生まれたらしい。

親にも捨てられ、親戚にも預かってもらえず、ゴミを拾いながら生活をしている。つまりホームレスってわけだ。


この生活は案外、苦じゃない。

あんな感情も自由に表現できない奴らよりも全然マシだ。

大体10年くらい生きて気付いたこともある。


『叫びたいほどの嬉しさ』

『泣きたいほどの悲しさ』

『人を殺したいほどの憎しみ』

この三つの感情が数えてきた中で1番多い。


街中を歩く国民たちは感情の起伏が激しいせいか朝から疲れているようだが、緩みすぎた表情からは少し恐怖を感じる。


この政策から早20年ちょっと。

自殺件数、殺人事件数の増加。

GDPの過去最低を年々更新。

首相の支持率の減少。

見ての通り、いいことは全くないのである。


国民もそりゃ悲鳴をあげていた。感情の起伏で使う体力、上がらない収入、上がる物価、こんな生活が20年も続いているなんて考えられない。


国民の感情は一日、、、1時間、、1分、1秒ごとに消えていくような気がした。

そして、国民は無に成った。


でも、そういう静かに滅ぶ世界も悪くないなと感じる自分もいた。

自分が受け入れてこられなかったように、日本も地球から省かれてしまえばいい。


このまま日本が朽ち果てるのを《《第三者》》の僕が眺めるのはなんて気持ちのいいことだろうか、不思議な高揚感と虚無感が僕を襲ってくる。

 

昼過ぎの13時 突然、みんなが笑い出した。共有されたのだろう『笑いたいほど楽しい』という感情が。


まだ、そんなやついたのか。笑うの諦めろよもう。

さっきの高揚感はとうに消え、心には虚無感だけが残った。

この社会の渦に僕はどんどん感情を吸い込まれ、奥深く沈んでいくようだった。


「ねえ、君って忌み子?」1人の女性が話しかけてきた。


「はい、そうですけど。なんでわかったんですか?どうして話しかけてきたんですか?」

久しぶりに人と喋るのでつい早口で答えてしまった。


「私と同じ感情を持ってる、そう感じたの。苦しかったでしょ?」と女性は《《ギラギラ》》と目を輝かせて答えた。


僕は嬉しかった。壊れていく心が埋まるような気がして、泣いてしまった。


「はい、苦しかったです。とても、」


僕が泣いてる間、他の人の顔は時が止まったように変わらず、手足だけが動いている。


少しばかり会話が弾み。


「やっぱりこの世界は生きづらいですね。」と僕。


「そうね。」


「じゃあ終わりにしよっか。」 《《ギラギラ》》と鋭い刃物は僕の胸を貫いていた。


「え?」 


熱い熱い熱い熱い、

胸からは無臭の赤い液体が鉄の匂いをつけながら溢れていた。


どうして、どうして、、。

最後の力を振り絞り、強い歯軋りをした。


午後14時 『殺したいほどの憎しみ』が国民に共有された。


「いい感情を持ってるわね。」


















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