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13.これって面接ですか?

「新人。この組織が抱える問題がわかるか?」


 ……僕に聞いてるんですか?

 そう尋ね返したつもりだったが、実際にはぽかんと口を開けただけだった。


 長いテーブルを挟んで向こう側にいる男は、僕が答えるのが当然とばかりに、それきり沈黙している。


 わかるとか、わからないとか以前の問題だ。


 この感覚、なんとなく覚えがある――

 そうだ、就職活動の時……試験で似たような質問をされたような気がする。

 一言一句同じではなかったと思うが、『我が社の商品の問題点を指摘してください』とか、『より売り上げを伸ばすためにはどうすればいいか、意見を述べてください』とか、そんな内容だったと思う。

 あの時は、なんと答えただろう? まったく覚えていない。

 確かなのは、不採用だったこと。

 そして、働いたこともない会社について、そんなことを聞かれても困る……と、頭を悩ませたことだけだ。

 けれど、その問いに見事答えて入社した人たちがいるのだから、答えられるのが普通なのかもしれない――


 コツ、コツ、と硬質な音が聞こえて、物思いから我に返った。


「貴様、一度の質問では答えられんようだな。耳が遠いのか? それとも、我が輩の問いは答えるに値しないと?」


 男――大総統は、右手の人差し指でテーブルを規則的なリズムで叩いている。

 彼の顔を覆う白い仮面は、相変わらずニタリと笑みを浮かべている。が、横たわる三日月のような口元の切れ目から聞こえた声は、明らかに機嫌がいいとは思えない。

 僕はぶんぶんと首を横に振った。


「そうか。では、もう一度だけ訊いてやろう。我が組織が抱える問題が、わかるか?」


 もう一度“だけ”という二文字に、“次はない”という意味が込められているのを充分すぎるほど感じる。

 答えられなければ、下手をしたらこの場で殺されるかもしれない。相手はヴィランなのだから。

 体じゅうに、冷たい汗が滲むのがわかる。

 とにかく答えなければならない。


 何かヒントでもないだろうかと、落ち着きなく室内を見渡す。


 大総統の言う“組織”のメンバーらしき青年とドクターは、長いテーブルを挟んでちょうど僕の両側にいる。

 青年は僕を見つめている。そのエメラルドの瞳には、これからどうなるのか興味津々、といった輝きが見える気がしてならない。

 対してドクターは、何か考え事をしているのか、それともこの状況にも僕にも興味がないのか、眦にシワの刻まれた切れ長の双眸(そうぼう)を伏せ、静かに背もたれに身を委ねている。

 二人とも、フォローや助け船を出してくれる気はなさそうだ。


 そういえば、彼らが座っている席以外にも、テーブルの両脇には同じデザインの椅子がたくさん並んでいる。

 しかし席を埋めているのは、青年とドクターと僕だけだ。そして、僕の向かいに鎮座する、唯一デザインの異なる大きな椅子には、大総統が。

 広々とした会議室に、四人だけ。ガランとして、実に寂しい光景だった。


 だから、自然と口をついた。


「……人材不足、ですか……?」


 声が小さすぎて、広い室内では届かないかもしれない。と思ったが――


 コツコツ、とテーブルを叩いていた音が、途絶えた。


 直後、それまでよりずっと大きな、バンッという音を立てて両手がテーブルに叩きつけられ、ほぼ同時に勢いよく大総統が立ち上がる。


「そう、その通りだ!!」


 高い天井に反響するような高らかな声に、ビクッと身を縮める。


「まさに人材不足だ! 人・材・不・足ッ!!」


 大総統は両手を宙に掲げて、何かを掴み取ろうとして掴めない、というような仕草をした。


「我が秘密結社には、所属するヴィランが全くもって足りない! 著しく不足しているッ! こんな状態では、野望の実現どころか、まともな活動も不可能だ!」


 声を荒げる様子から、彼が相当歯痒い思いをしていることは伝わってくる。しかし秘密結社の『まともな活動』も『野望』とやらも、詳細を聞きたいとは思えない。


「ま、仕方ないんじゃないかね。新設の秘密結社ってのはそういうもんだろうさ」


 大総統とは対照的に、ドクターは冷静に口を挟む。

 秘密結社に「新設の」とつくだけで、なんだか妙に現実感が出てきたような。生々しさ、とも言える。


「仕方ないでは済まん。これは由々しき事態だ! ドクターに至っては、正式には戦闘員ですらない。実質的にこの組織に所属するヴィランは、たった一人ということになる」

「ハイハーイ! オレだねっ!」


 誇らしげに手を挙げた(手錠で繋がれているので両手で)青年に、大統領は再度テーブルを叩き、「馬鹿め!!」と容赦なく言い放つ。


「我が輩に決まっているだろうが! 強盗すら満足に遂行できん貴様など半人前、いや四分の一人前にも満たんわ!」


 手を下ろしてシュンとうなだれた青年をよそに、白い仮面が再び僕の方へと向き直った。黒マントが掛かる肩が上下し、仮面の隙間からフウッと息をつく音がする。


「……我が組織に今、最も必要とされるもの――それは、新たな人材となるヴィランを見つけ、スカウトする人間だ」


 そこで――と、人材不足の秘密結社を統べる大総統は、僕を真っ直ぐに指さし、高らかに宣言した。



「貴様を、我が秘密結社の人事担当に任命する!」


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