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11.“スカウト”

 ――なぜ、自分はここにいるのだろう。


「じゃ、注射打つから大人しくしてな」

「ま、待って待って、オレ注射苦手だし……あと、ドクターの薬って副作用あるよね!?」

「副作用なんて大袈裟だね。大抵の症状が収まる代わりに、ちょっとの間、全身に激痛が走るだけさ」

「それを副作用って言うんじゃん!! やだやだ、ちょっと待って……!」

「手錠したまま連れてきて正解だね。大して抵抗されなくて済むよ」

「ほんとに待ってったら! やめっ……あっ――いたっ、あ、痛い、やばいコレ……いっ、いだだだだだぁあぁあ゛あ゛あ゛!!」


 後部座から盛大な悲鳴が車中に響き渡り、僕は振り返るに振り返れず、助手席で身を縮こまらせていた。しっかりとシートベルトを締めて。

 すると、隣の運転席で深々と溜め息をつく音が聞こえた。


「まったくもってやかましい……だがそれだけ騒ぐ気力があれば、まだまだ我が輩の手駒として使えるということだな」


 ハンドルを握る黒衣の男――“大総統”は、軍帽も仮面もそのままに運転している。前が見えづらくないのだろうか?

 ……いや、そんなことを考えている場合ではなかった。


 この大総統なるものを名乗るヴィランが逃走する際、僕は首根っこを掴まれ、あっというまにハイエースの助手席に押し込まれた。

 そうして、車は僕を含んだ四人を乗せて、猛スピードで警察署を後にした。


 なぜ僕が連れ去られたのか、という疑問は、答えが出ることなく先程から頭の中をぐるぐると巡っているが……それよりも、これは非常にまずい状況なのではないかと、不安が胸中で膨らむばかりだ。

 ヴィランたちに何をされるかわからないという身の危険も勿論なのだが、僕自身も彼らの一味と誤解されるのではないだろうか……?

 しかも、僕には銀行強盗の共犯者の疑いを掛けられた前科がある。前科というには、あまりにもスパンが短い気もするが……それに、誤解の場合は前科と言わないだろうし……。


「頃合いじゃないかい、大総統?」

「言われるまでもない」


 僕が思考の迷子になっているうちに、ドクターと大総統の間で意味深な応酬が短く交わされた。


 前触れなくハンドルが大きく切られ、体が傾く。

 急速に方向転換した車は、脇道へと入り込む。大きなビルと工事現場の間を通るその道は、他の車はもちろん人通りもない。

 そこを走り抜ける最中、大総統は何かしらのパネルへ手を伸ばした。カーナビかと思ったが、地図などが表示される画面ではなく、幾つものボタンが点灯している。

 そのボタンを操作した直後、何やら車から物々しい作動音が響いた。

 何事かと窓の外を見ようとして、サイドミラーが視界に入り、何か違和感を覚える。


 ――数秒考えて、ミラーに映る車体の色が、やたら派手だった赤からシックな黒に変わっていることに気づく。

 思わず窓に顔をくっつけるようにしてミラーを凝視していると、後ろからドクターが説明してくれた。


「色と車種、ナンバーが何通りか変わる機能がついてんだよ、この特注車は。おかげで警察が追ってきても、()きやすいってわけさ」


 そんな車があるとは……と感心しつつ、ほとんど反射的に後部座席を振り返って、ぎょっとした。

 ドクターはスラックスに包まれた長い脚を組んで優雅に座っているが、その隣で青年が泡を吹いてぐったりしている。


「えっ、い、うわ……あの、だ、大丈夫、なんですか……?」

「こいつかい? ちょっと寝てるだけだよ。アジトに着く頃には目が覚めて、自力でなんとか歩けるようになってるはずさ」


 いったいどのような薬を打てば、瓦礫の下敷きになっていた状況から短時間でそこまで回復するのか、まったく想像がつかない。

 いや、それより――今、なんと言った?


「アジト……?」


 復唱すると、ドクターは僕ではなく、大総統に問いかけた。


「連れてくつもりなんだろ? この坊や。どういうつもりか知らないけどさ」


 僕もそろりと、運転席に視線を戻す。

 大総統の白い仮面は、ニンマリとした笑みを(かたど)っているが、その下の彼自身の表情はまったくうかがえない。

 しかし、フッと軽く息をつくのが確かに聞こえた。それが溜め息なのか、鼻で笑ったのかはわからなかったけれど。


「解せんだろう? なぜ、ヴィランでもなく犯罪者でもない貴様を、我が輩がこうして連れてきたのか」


 僕は頷く。実際、理由に見当もつかない。


 大総統は、喜べ、と尊大に言った。



「貴様を、我が秘密結社の一員として採用してやろう」


 ……その言葉自体が全く解せなくて、僕は何の反応もできなかった。


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