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待たせ過ぎた再会

お待たせしました

「えっと…此処とこれとをくっ付けて…縫い合わせて…次の部品も用意しといて…」


 隣の世界、大百足しかいない世界で漢妖歌(かんよう)は自身の新たな体を繋ぎ合わせ、縫い合わせ、作り出していた。生首の姿となっても特に気にする様子はなく、大百足の手に抱えられながらその他の手に指示を与えている。更に見ると自身の体を作っている漢妖歌(かんよう)の表情は暗くなく、むしろ興味津々と言った様子であった。敵によって元々の体は木っ端微塵にされて大百足のいる場所へ逃げて来たようなものなのに、こんなことになっているのは残酷な性格を持った敵達のせいだと言うのに。

 すでに漢妖歌(かんよう)の怒りや憎しみは興味や関心に上書きされているようだった。


(…生きていたか…)


 能力(ちから)越しに見るその光景に魔快黎(まより)様の心には後悔と安堵の両方が湧き立つ。自身の不甲斐なさ故、我が子をこんな痛々しい姿にしてしまったと言う激しき後悔と、死んだと思っていた我が子がこうして生きてくれていたと言う安堵。

 目で見た今、漢妖歌(かんよう)の元へ向かって行くことは出来る。傷付いた我が子を共に(いや)しに行ってあげることもきっと不可能ではない。


「…水浘愛(めみあ)淫夢巫(りんぷ)

「はいっ」

「どうしたのお母さん」


 魔快黎(まより)様は安堵のため息を吐いた後、脚にしがみ付く我が子達の方を向き直り、


漢妖歌(かんよう)が生きてたと言ったら、一緒に会いに行くか?」


 と告げた。


「「……?」」


 思わずその言葉に一瞬思考停止してしまう淫夢巫(りんぷ)水浘愛(めみあ)


 何しろ理解が追い付かなかったから、お母さんは何を言っているのだろうかと全く分からなかったから。


 だが言ったことは極めて単純、ただ自身達の家族が生きている、死んだと思っていた存在が生きていると言うことだ。

 そしてそれは大変喜ばしいことであり、飛び上がりたい、踊り出したいくらい感情が(たかぶ)ってしまう程のことだ。

 しかし欄照華(らてすか)も生きているかもしれないと言う嬉しい可能性から間も然程開かずに、漢妖歌(かんよう)も生きていたと言うのを知るのは、流石に感情の(たかぶ)りが過ぎる。


 もちろん両者の頭が湧き上がる感情を鎮め、一言一句噛み砕きながら理解するのには(いささ)かの時を要した。


「……どぅえぇっ!?」

「……お、お母さん…っ! そ、それホント…!?」


 目を丸くし、詰まる言葉を何とか絞り出しながら水浘愛(めみあ)淫夢巫(りんぷ)は本当なのかとお母さんに尋ねる。その問いかけに魔快黎(まより)様は、


「嘘言ってどうするんだ」


 なんでわざわざそんな嘘を吐かねばならないと不思議に思いながら返す。


「どっ! どこっ! 何処にいるの漢妖歌(かんよう)ちゃんは!」

「うん! うん!」


 すると子達はよりヒシッと母親の脚にしがみ付き、衣をぐいぐい引っ張りながら自身らの家族は何処にいる、何処で生きているのだと更に問いただした。


()()()()()()()()だよ。だから一緒に会いに行くかって聞いたんだ」


 魔快黎(まより)様はその問いかけに対し、此処ではない場所、即ち()()()()()()()()にいると返す。自身にしか見えていない、自身にしか存在を認知出来ない世界に。そして改めて我が子達に、その世界にいる我が子に会いに行くかと尋ねると、


「行きたい行きたい! 漢妖歌(かんよう)ちゃんが生きてるなら会いたいよ!」

「…私だって!」


 水浘愛(めみあ)淫夢巫(りんぷ)もぶんぶん首を縦に振りながら共に行く、再会しに行くと答えた。その意思に魔快黎(まより)様は(うなず)きつつほのかに笑い、


「じゃあ行くか、しっかり掴まってろ」


 と言って自身の御身体の隅々まで能力(ちから)を行き渡らせるのと同時に、ぎゅうと強く脚にしがみ付いて来る我が子達をそれぞれの手で抱き寄せる。


 トンッ


 次の瞬間、魔快黎(まより)様とその脚にしがみ付いていた子達は一瞬で異なる世界、いた所の隣の世界へ移動していた。


「…っ! お、お母さんッ! ど、どうして此処に…! それに淫夢巫(りんぷ)……も…生きていたのか…っ」

「わー! やっぱり漢妖歌(かんよう)ちゃんだ!」

「生きてたのか…って、そりゃあ私の台詞(セリフ)よ。よく生きてるわね、その姿で…」


 そこには無くなった自身の肉体を新たに作り出している生首姿の漢妖歌(かんよう)がいる。まさかこの世界に自身以外の存在が入って来るとは、と言うか何時の間にかお母さんも帰って来ていると漢妖歌(かんよう)もまた驚き、目を様々な方へやってしまう。

 あんなに小さかった水滴だった水浘愛(めみあ)は元通りを飛び越えて少し大きくなっているし、自身らを逃がす為にただ独り戦場に残った淫夢巫(りんぷ)は背丈も何もかも大きく成長している。


 しかし、何より帰って来たお母さん、何も変わらず()()()のまま帰って来てくれたお母さんに漢妖歌(かんよう)は驚いていた。


「ただいま漢妖歌(かんよう)…遅くなったな…」

「お母さん……ッ、っ……ほんとだよ…本当に……」


 魔快黎(まより)様がそんな漢妖歌(かんよう)に対して申し訳なそうに言うと、漢妖歌(かんよう)はぎゅうと唇を噛み締め、様々な感情入り混じりながらそう返す。思う気持ちは、沸き立つ想いは水浘愛(めみあ)淫夢巫(りんぷ)と同じ。懐かしい姿に嬉しさと怒りがぐっちゃぐちゃに混ざり合い、どんな顔をしていいのか分からなくなる。


「……お帰り」

「うん」


 だからこそ言いたかった言葉を、ずっと面向かって言いたかった言葉を、同じように投げ掛けた。そして漢妖歌(かんよう)は自身の体を作っているその手を止め、数多の腕を静かに広げると、



「抱いて、お母さん。頭だけになっちゃったけれど、また、あの時みたく」



 また抱いて欲しい、前のように抱いて欲しいと口にする。魔快黎(まより)様は自身に差し出されるように近づいて来る漢妖歌(かんよう)の頭をそっと受け入れると、優しく、されど力強く抱き締めた。懐かしいお母さんの温かさ、鼻奥を撫でるお母さんの匂い、触れる肌を通じて感じられるお母さんの内なる力強さ、その全てが懐かしい。


「ねぇ、お母さん」

「なんだい」

「尻尾も、久々に尻尾の先も」


 シュルルッ


「いいよ」


 漢妖歌(かんよう)魔快黎(まより)様の胸の中で小っ恥ずかしそうにしながら、またかつてのように尻尾にも触れたい、お母さんの長尾にも触りたいと口にする。すると魔快黎(まより)様は微笑みながら我が子を持ち替え、自身の尾先を漢妖歌(かんよう)の目の前に持って来させる。幼い頃から好きだったもの、昔はしょっちゅう抱き付き、噛み付いていたお母さんの尾に漢妖歌(かんよう)はワッと顔明るくした。

 魔快黎(まより)様はその表情を見るや優しく漢妖歌(かんよう)の頭を近づけてやると、漢妖歌(かんよう)は幼子のようにハムッと噛み付く。


漢妖歌(かんよう)ちゃんだけずるいっ! 水浘愛(めみあ)も! 水浘愛(めみあ)も!」


 ガブッ!


 するとそれに続いて水浘愛(めみあ)も羨ましがりながら魔快黎(まより)様の尻尾に抱き付き、ガブガブと噛み付いた。淫夢巫(りんぷ)はその光景にやれやれと呆れつつも、ぴとっとお母さんの自身の体を預ける。



「……」

欄照華(らてすか)も…きっと戻って来る…)



 その最中、魔快黎(まより)様は静かにそう思いながら自身らの世界に凛と芽吹く1本の若芽を見つめていた。



 メキッ


「…」

(待っててねお母さん……っ! 必ず此方(こなた)は戻るから……!)

次回の投稿もお楽しみに



評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!

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