告げたい言葉
お待たせしました
「…この感じは…。く……ッ」
空を飛び、懐かしい力の元へ急行する淫夢巫。その力の側にはもう1つ、よく知っている存在の気配があった。
だが、1つしかない。1つしか感じられない。本当ならばあと2つ、懐かしい力の側には自身を抜いて3つの存在がある筈なのに。一瞬淫夢巫は自身の勘違いかと思ったが、しかし改めて感覚を研ぎ澄ましても感じられる存在は2つだけ。残る2つはどう頑張っても感じ取れない。
でも、もしかしたら。いざその場に駆け付けたらもしかしたらいるかもしれない。自身が感じ取れないだけで本当はいるのかもしれない、と淫夢巫は一縷の望みに賭けて空を翔ける。
先程の遠くを見渡せる正八面体の結晶は作らない。
もしかしたら、がなかった時など、到着する前に答えを知ってしまうなどと、考えたくもなかったから。
「……!」
ゴゥッ!!
淫夢巫は恐れつつも速度を上げた。
このままお母さんの元へ行かなければ自身の中での答えはあやふやなままで済む。生きているかもしれないと言う希望に縋れる。けれどもそれと同時に湧き上がる不安が全身を取り巻いて、手や蔓のように絡み付いて離れなくなってしまう。その不安は巻き付きながら自身の体を固め、やがて動けなくするだろう。そうして永遠に不安に駆られながら動けなくなって、石にされる。
そう直感的に悟った淫夢巫は不安に負けないよう加速し、一刻も早くお母さんの元へ行き、真実を見ることを選んだ。
――
「……!」
「どした〜の? お母さん」
「いや、今…俺達にとって…物凄く嬉しいことが…」
「?」
そして魔快黎様は水浘愛を抱きつつ自身達に急接近している存在を見た。その者の存在に魔快黎様は一瞬歓喜するも、すぐさま表情を曇らせ、俯きながら歯を噛み締める。何しろその者の表情は不安一色だったから、家族とまた無事に会えるかと言う不安に駆られていたから。
魔快黎様は、自身にはその不安を晴らすことが出来ない、自身のせいであの子を笑顔にしてやれないと自身を責め立てる。
トトッ
「お母さん」
「淫夢巫…か」
そうして間も無く厄災の子が、大翼を畳みながら親である魔快黎様の元へ降り立った。見ていた通りの容姿、前と比べてかなり大きくなったが、それでも淫夢巫であることは一目で分かる。
魔快黎様は俯き、ひたすら謝罪の言葉を探し、紡ぎながら喋ろうとした。
「その…」
「タンマ、待ってお母さん」
が、魔快黎様が語り出そうとするのを淫夢巫はピタと止める。
「…っ〜ふぅ〜」
そして一呼吸終えてから
「っほんと、遅過ぎる。どれだけ待たせた? いやお母さんなりに頑張って戻って来てくれたのは言わなくても分かるよ、だってお母さんだもん。ごめん、分かってる。でもさ、やっぱ遅いって思っちゃう。もっともっと早く帰って来て欲しかった。凄く辛かった、お母さんがいない時は。心に嘘ついて、必死に強がってたけど、やっぱ辛かった」
「…」
「……ごめんねお母さん。馬鹿、ほんと馬鹿。なんで…なんで私達を置いて行ったのかなぁ? お母さんが傷付いたらさ、私達だって傷付くって、分かってよ、いい加減に」
声を震わせ、辛さを思い出しながらそう告げた。再会出来た喜びも当然ある、本当ならばもっと湧き出る喜びを言いたかった。でもそれとは別に、やり場のない怒りもあったのだ。突然の別れ、理不尽でしかなかった別れ。まだまだお母さんに甘えていたかったのに、急にそれが出来なくなったと言う不条理。
誰にぶつけていいのか分からない、この怒りをどうすればいいのか分からない。
だからお母さんにぶつける、ひたすらに吐き出す。謝りながらも、怒り続ける。
お母さんならば受け止めてくれる、これで突き離したりはきっとしないと甘えながら。
「…」
1つ1つがグサリグサリと刺さる我が子の言葉に魔快黎様はすっかり消沈してしまう。我が子に此処まで言わせてしまうなんて、こんな言葉を吐かせてしまうなんて、自身はなんと子不幸なのだろうか、と。
最善は尽くした、何度も飛び出して行きそうになっていくこの心を何度も抑えて体と共に復活の時を待った。厄災の体もこれ以上はないと言わんばかりの速度で自身の再生に取り掛かってくれた。
しかしそれでも遅過ぎたのだ。
「……ふぅ〜…」
「……」
積み重なって出来た怒りも憎しみも全て出し尽くした淫夢巫は大きくため息を吐きながら、今度こそ湧き上がる喜びの言葉を言おうとする。
「淫夢巫ちゃん淫夢巫ちゃん淫夢巫ちゃん」
「何? 何?」
と、そこへ水浘愛がするりと割って入り、とんとんと淫夢巫の肩を叩いて止めた。せっかくの喜びの言葉を飲み込んでしまった淫夢巫は困惑しつつも水浘愛の方を振り向いて何事かと問う。
「言い過ぎ言い過ぎ」
「え?」
「水浘愛も言ってるの、淫夢巫ちゃんと似たようなこと、お母さんに。お母さんが戻って来たタイミングでぶつけさせて貰ったの。だからお母さん、ああいうこと言われるの、これで2度目なの」
「……あ」
すると水浘愛は、自身らがお母さんに対してキツメの言葉を言うのは、やり場のない怒りをどうかぶつけさせてくれと言う理不尽なお願いを承知してもらったのは、淫夢巫で2度目だと告げた。似たようなことは戻って来た時に水浘愛が言ってしまったと。
その言葉に淫夢巫はキョトンとした反応をしていると、水浘愛は少しだけ背後を振り向き、くいくいと親指で自身らのお母さんの方を指す。
そこには、
「……」
ズゥーーン……
「「……」」
しゃがみ込み、顔を埋め、背中から生える6本の腕だったものも長き尾も力なく垂れ下げながらすっかり凹んでしまった魔快黎様の姿があった。周りは目に見えてしまうくらい黒く澱んでおり、誰がどう見ても落ち込んでいるのが分かる。
そんな痛々しさすら覚えてしまう程の落ち込みように子達も掛ける言葉を失ってしまい、黙ってしまう。
「…ちょっと……いや、貴方そんな性格じゃあなかったじゃないの。え? さっきの私みたいな酷いこと言ったの? 貴方が?」
「いやいやいや、それなら淫夢巫ちゃんだってあーゆーこと言うキャラじゃあなかったじゃあん。てか生きてたんだ、いや嬉しいけどさ。来て早々に暴言吐くってどーなんよ」
が、先に沈黙を破ったのは淫夢巫の方であった。淫夢巫は水浘愛がお母さんにしたことに対して信じられないと言った表情で突っ込んだ。されど水浘愛もまた、まさか淫夢巫が生きていたとは、感動の再会かと思いきやいきなりお母さんに罵詈雑言を吐いてショックさせるとは、と前の淫夢巫からは信じられない行動に突っ込む。
「は? 悪いの? 私が? てかキャラじゃあないって何よ。別にあんぐらい言うわ、欄照華程じゃあないけど。と言うか、貴方達がお母さんに言い辛いだろうからって思って、私が全員を代表してあのこと言ったのよ。そしたら何? 貴方も言ってたって? そんなの予想出来ないわっ」
「いんにゃあ、水浘愛だってまさか淫夢巫ちゃんが元気ぴんぴんだなんて思ってなかったよ。さっきの敵達が、俺達が殺した〜ってほざいたんだから! 悔しいけど実力だって圧倒的だったんだし、お母さん来なかったら水浘愛だって危なかったんだからね!」
「いや、は? 何? 貴方勝手に殺したの? 私を? ふざけんな、簡単にくたばらないだろうって思わなかった? 私だってお母さんの子よ? 貴方達程しぶとくはないかもしれないけど、それでも少しぐらいしぶといわよ」
「待って待って、淫夢巫ちゃん待って。水浘愛が起きた時にはね、全員やられてたの。漢妖歌ちゃんも欄照華ちゃんも。んでね、そんな状況でね、淫夢巫ちゃんも殺したって敵達言うのよ。めっちゃくっちゃに強い敵がさ。そら信じたくなくても信じちゃうってば。分かる? 水浘愛のこの、気、持、ち」
「ぜんっっっっっぜん、分かんない。生きてるって信じてよ。私簡単にくたばらないから。どれだけ欄照華に殴られて来たと思ってんの?」
ギャイギャイと言い合う淫夢巫と水浘愛。そしてそのすぐ側で座り込んだまま落ち込み続ける魔快黎様。
もはや時にしかこの空気の解消を頼めないだろう。
――
モコッ
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