譲らないもの
お待たせしました
6/10追記 サブタイトル入れ忘れ、修正しました
「……カーッ、生きてたのか。おっかしいなぁ、切り刻んで燃やされた筈だろ? 不死身かよ」
(しかも前より……成長してやがる…恐らく力は……)
ググっ…
(今の■を何とか倒せる…くらいか)
自分の前に現れた厄災の子の一角。たしかに一度は自分達が倒した、トドメだって刺した。裏切られたとは言え、相方の能力と実力は今でも信じている。相方に限ってトドメを刺し損ねることはまずない筈なのだ。
されどその者は立っている、ましてや力を上げて再び現れている。
その状況にフーはギャリゴリと歯軋りをしながらも立ち上がり、
「へへへっ、ならまた後悔させてやる…さ。この■に懲りずに挑んでしまったことをなぁ……」
不敵に笑ってそう言い放った。
全身が軋む、内も外も焦げ付いて熱い、それらが空に晒されるだけで激痛が走る。だが自分に『逃げ』と言う選択肢はない。痛みや苦しみなど、それ以上の殺意を持って制してやる。
フーはそう思いながらゴフゴフと苦しげに咳き込み、されど笑い続けていた。
「…」
(コイツの能力はママが教えてくれた…カラクリが分かれば対応出来る…怖くない…出来る出来る出来るッ)
対する淫夢巫は至って冷静に、息を整えながら相手の出方を伺っている。先程の魔快黎様との戦いを正八面体の結晶を通じて見ていた淫夢巫はフーの能力のカラクリ、そして攻略法を見出していた。
ほんの一瞬、能力を使ってから切られるまでの僅かな時。
遅れるのだ、瞬きよりも短い一瞬の隙があるのだ。
故にその一瞬の内に回避出来れば、相手が切ろうとした場所から離れられれば攻略出来る。
先の戦いで魔快黎様はその一瞬を突き、回避していた。
淫夢巫は、自身には出来ない、あくまでも把握しただけ、出来るかどうか不安、お母さんには出来ても今の自身では無理、などという思考は全て捨て、
(出来る出来る絶対出来るッ)
自身ならば絶対に出来ると集中しながら相対する。
次の瞬間、
ゥッ……
「…!」
僅かな空の揺らぎが、敵との間に小さな揺れが見え、
「ッ!」
ガギュィンッッ!!!
「ちぃっ!」
反射的に身を屈めながら淫夢巫は横に飛んでいた。同時に空が音を立てて切れる音が響くが、そこで切れていたものは何もない。
「んだよ、お前もかわせるのかッ。クソッタレ、面倒クセェなぁ」
「…」
(出来た…! 危ない…ッ)
淫夢巫はよろけつつもしっかりと地に足付き、自身の体を見遣る。だが切られるどころか掠り傷1つとて何処にもない。
しっかりとかわせた証だ。
「だが…次はどうかな!」
されど相手は情け容赦ない存在。切り刻むモノに掛ける情けや痛む心など遥か昔に捨て去っている。能力がかわされたことに凹むくらいならば次当てて粉々にしてやるとフーは笑い、腕を振るう。
「くっ」
お母さんも相対した斬撃の嵐、結晶越しに見るのとは大違いな殺意の猛攻。一度でも当たればただでは済まない、掠り傷を積み重ねられても不味い。
かと言ってお母さんのように、敢えて喰らって反撃の大技を放つ、と言ったこともまだ出来ない。
とにかく今は回避。避けて避けて避けまくって機を伺うしかないのだ。
瞬間、淫夢巫は飛び、舞った。大きくなった体、成長し力をみちみちと感じるこの体。それを大きく捻り、曲げ、伸ばし、末端まで神経を張り巡らせながら、
(機は…あるッ! それまで、耐える)
ギャギャギャギャギャギャッッ!!!
嵐の中を踊り舞う。
一度間違えれば真っ二つ、相手が自身の力や想像を超えただけでも八つ裂き。そんな僅かな判断の誤りさえも許されない猛撃の中を、淫夢巫は飛ぶ。時に地に一瞬だけ手を付き、時に翼を極限まで畳み、時に大きくなった体をこれでもかと言わんばかりに丸めて、とにかく回避し続ける。
「ハッ……ハハァッ! さっきまでとは大違いだなッこのガキッ!」
されどフーは自分の能力がかわされようと一切引き摺ることはなく、とにかく当ててやる、次こそは当ててやる、次こそは、次こそは、と常に次を考えていた。1発1発全て一撃必殺のつもりで放つが、かわされればもう意味はないと切り捨てて次の1発を放つ。
この世界に来訪し、淫夢巫、欄照華、魔快黎様と連戦に次ぐ連戦だと言うのに、今尚その気迫は尽きるところを知らない。ただひたすら目の前の敵を切り刻む、例え我が身に何が起きようとも。
「死ねッ死ねッ! 死にやがれァッ!」
ビュッ!! ビッ!!! バババッ!!!
「…!」
(倒れない…力はかなり消耗してる筈なのに…気を抜いたら、先にこっちが死ぬ…!)
その気迫、絶対に殺してやるのだと言う殺意。求めているのは快感だけ、目の前の存在を無惨に切り殺すことによる快感。傷付き、今にも果てそうなこの者を動かしているのは快感を貪ろうとする欲望だ。
相対する淫夢巫はその欲望を、斬撃をかわしながら感じ取っていた。特に快感を求める心が、快楽に溺れんとするその欲が、何よりも強く感じ取れた。
果たしてこれも自身の能力の一端なのか、それとも相手の強過ぎる欲望が空を超えて伝わって来ているのか。少なくとも簡単には枯れ果てない、易々と晴らせるものではない。
「…ハッ! ハハハッ…! 次だッ! 次! 次次次ィ!」
ギャンッ!!! ギャギギッ!! ギギッ!!
「…はっ…はぁっ…」
(でも、もう少し…あと少し…)
ガギッ!! ガッ! ギギィンッ!!
しかし勝機がないわけではない、この回避こそが自身の勝利に繋がると淫夢巫は考えていた。この者が自分の能力を使い続ければ続ける程体力は減り、いずれ使い果たす。淫夢巫はその時が来るまで耐えているのだ。
実際にフーの体力は少しずつだが削れ、腕の動きも少しずつキレがなくなり始めている。だがそれは淫夢巫とて同じこと。たしかに強い力は手にしたが、まだ完全な制御も出来ていなければ、どんな力があるのか知らない。故にまだまだ自身の力に振り回されがちな淫夢巫もまた疲労に苛まされていたのだ。
「ハハハハー…ッ!」
「はぁっ…くっ…!」
先に尽きた方が敗北する。持てる力を使い果たした方が負ける。
6/10追記 サブタイトル入れ忘れ、修正しました
次回の投稿もお楽しみに
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