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There is never "PEACE"

お待たせしました

(これは不味いッ)


 目の前にいる敵が爆発する。そしてそれによる怯みを利用してもう片方の敵を逃す。自身の能力(ちから)によって2箇所で起きようとしていることを瞬時に悟った魔快黎(まより)様は、


 ビァッ…!!


 今の体長の倍はありそうな長き尾を力強く振るった。何しろ体の内からも外からも燃えている炎はフーの体を焼きながらその勢いを凄まじい増していたからだ。ならばこの後起こることは想像に難くない。


 ガッ!!!!!


 尾は燃え盛り、爆発寸前であったフーの体を超速で爆風の射程範囲まで飛ばす。

 そしてそれと同時にこの世界から去ろうとしていたもう片方の来訪者の方を向き直り、


(逃すか…ッ!)


 正確に位置を見定め、そこへ瞬間移動する。


 グァッ!!!


「おっと…」


 あと少しでこの世界から、厄災そのものから逃げられたところなのに。と、捕まってしまったにも関わらずウェアは意外と動揺しておらず、すました顔で目の前の厄災を見つめていた。


「君も逃がさない。トドメは刺させて貰う」


 ドガガガガッッ!!


「ふーん」


 魔快黎(まより)様は背中から生える腕であったものでウェアの両手足を封じ、完全に地面に抑え付ける。そしてトドメを刺そうと指を揃え、手を刀の形とすると敵の体を貫き、破壊しようと振り被った。



「別に構わないけどね、()るなら()って。でも■を殺せば他の連中が一気に此処へやって来るだろうよ」



「何…?」



 と、その時、ウェアは命乞いをするわけでもなければ大人しく自分の死を受け入れるわけでもなく、ただ淡々とそう告げる。単なる命乞いならば聞かなかった、目の前で起きた惨状を生み出した者の最期の言葉なんぞ最初(ハナ)っから聞く気などなかった。


 にも関わらず魔快黎(まより)様は手を止めてしまう。思わず止めてしまった、死に際の言葉がこんなものとは思わなかったから。



「おや、止めるのか。まぁどっちでもいい。お前が■を殺さなくても、■はお前とお前のガキを殺すだけだからな」


「…!」


「っと、また言うが別に■を今すぐ殺してもいいんだ。元々死んだような身…お前に、⬛︎⬛︎⬛︎()()()()()()()()()()()()()()()()



 だが今此処でこの者を離してはならない、殺しはせずとも必ず抑え付けていなければならないと魔快黎(まより)様は直感的に悟り、両手足を抑えるその力は緩めなかった。それに対しウェアは語り続ける。

 自分なんぞ今すぐ殺しても構わない、だが殺さなければこっちが殺すだけ。殺さない限り殺そうとするだけだと。


 だがどっちみちこの敵を生かしておくわけには行かない。大切な我が子達に危害を加え、牙を剥くような存在がこの世界に、いや如何なる世界にも存在していい筈がない。



「殺してみろ⬛︎⬛︎⬛︎。その瞬間この世界目掛けて貴様の敵がわんさとやって来るんだ。■がそうするんだからな」


「…その程度の覚悟、とっくに出来ている」



 無限に等しい敵達と戦う覚悟くらい、終わりの見えない戦いに臨むことくらい、大切な我が子達を守り抜かねばならないことくらい、すでに決意出来ている。


 そう魔快黎(まより)様は言い放つと、ウェアはニタリと笑いながら答えた。



「今度はあの水っぽいガキも死ぬかもね。■やフーより強い連中なんて幾らでもいるんだ。お前が()()()()()()()()()()()よ」



「お前はお前のせいで絶対に幸せになんかなれはしないんだ。お前の首を絞めているのは、お前を不幸にしているのは、他でもないお前自身なんだ」



「■を殺したところで何も変わらない。お前は苦しみ続ける、永遠にな。万物から嫌われ、何者にも愛されず、失い続ける。厄災(お前)はそういう運命(さだめ)って決まってるのさ」



 グジュリ



 その言葉に魔快黎(まより)様は、



「それでも、俺は負けない。それが俺の運命なら、俺は勝ってみせる」



 力強く胸に誓い、運命に抗い、戦い続けると返す。



 バツンッ



 次の瞬間、魔快黎(まより)様の鋭き牙が、長き舌が、裂けし大口が目の前の敵へ噛み付き、喰い千切り、(すす)り、絡め取り、呑み込んだ。一瞬の内に、自身の体が求めるままに、厄災と混沌の塊である体は自身が混沌に歪めた敵を余さず捕食した。


 ギュウウウ……


 先程まで敵だった者が獲物となり、肉片となって喉を伝う。口元から(あふ)れ、牙の隙間にこびり付いた獲物の血肉も数多の舌を使って舐め取り、自らの敵を全て腹に納める。


「……そう…もう、負けはしないさ…」


 だが迫り来る敵を倒し、脅威を払った魔快黎(まより)様の表情は暗く、重く、浮かない。それもその筈、願わくばもっと早く此処に駆け付けたかったのだから。叶うならば()()()あんな状態にならければよかったのだから。


 しかし戻って来てと願ったところでもう遅い。どうしてあの時と後悔したところで何もかも遅い。


 愛する我が子達は、自身が守らねばならなかった我が子達はもう…



「お母さん」

「……」



 と、浮かない表情のまま立ち尽くす母親の元へ唯一残った子、水浘愛(めみあ)が静かにやって来る。今尚、久しい母親との再会という喜びと、家族を目の前で失ったことへの悲しみが入り混じった表情で。


「ごめん、待たせて。もう俺は大丈夫だ。二度と()()()()()にはならない、約束するよ」


 水浘愛(めみあ)自身だって傷付いている、自身が何時までも悩み、悲しみ、悔いてはいられない。魔快黎(まより)様は(うつむ)く顔を懸命に持ち上げ、語り掛けて来る水浘愛(めみあ)の方を振り向く。


(……)


 ただ能力(ちから)を使って見ていただけじゃあ分からなかった、今改めて向き合ってようやく分かった。


 こんなに大きくなっていたのか、と。


 否が応でも成長しなければならない、そんな厳しい環境に我が子達を置いてしまったのだ、と。



「じゃあ抱っこしてよ。もう水浘愛(めみあ)から離れないッ、絶対に置いていかないって。約束したんだから、しょーめいして」




 しかしそんな我が子は、自身のせいで辛い想いをさせてしまった我が子は、尚も自身を信頼して身を任せてくれる。両手を広げ、体を預けようとして、信頼しか込められていない(まなこ)で見つめながら、母親たる自身に抱擁(ほうよう)を求めた。


 母親である魔快黎(まより)様が我が子の願いを、辛い目に()わせ、求めている時でさえ何も出来なかった自身を信頼してくれる我が子を拒むことが出来るわけもなく、



「うん…」


 ぎゅう



 静かに自身の胸へ抱え、抱き寄せた。すると水浘愛(めみあ)は自身を抱いてくれる魔快黎(まより)様の腕に返すように自身の手を周し、静かに抱き返す。



「もう…何処にも行かないで…必ず、帰って来て…」

「うん……うん」



 そうしてただ親子だけが残った荒野の中、魔快黎(まより)様と水浘愛(めみあ)は再会を喜び合った。



 ――



「ハァーっ! ハァーっ! くっそぅ…■のクソッタレめェ……ッ」



 ズ……ズルリ……ズルリ……



「信じられねぇぜ……まさか…■がウェアの野郎に裏切……られるなんてぇ……。いや……確かに…あの元・放火魔がぁ……まともとは…思っちゃあ……いなかったがよォ……解体屋(バラシや)のォ……オ…レよりかはぁ…よぉ……まだマシな部類と……思っていたが……」



 ズル…ズルリ……ズルリ……



 トッ……トンッ……トンッ……



「ちくしょぉ……覚えていやがれ……()()()()に戻ったら……()()()()にも…言いふらして…やるからな……ウェア…テメェのヤバさを……よぉ……。だ…ぎ……その前に……■の…頭のォ……悪さをぉ……反省しねぇと……なぁ……クソがぁ……」



 トッ…トッ…トッ…



「ん……がっ……! ぁ…? て、テメェ……はぁ……」

次回の投稿もお楽しみに



評価、ブクマ、感想、レビュー、待ってますッ!

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