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Iron Blue

お待たせしました

「……」


 むにゅ…むにに……


「……ぃっ……しょっ……とっ」


 もにょんっ


「……ぷふぅっ」


 小さな水のような破片が小さく動いたかと思えば、にょんっと形を成していく。そして瞬く間に元の形、即ち水浘愛(めみあ)の姿となった。繋いだ生命、家族が守って来たその生命はまだ死んではおらず、再生に次ぐ再生を繰り返して復活を遂げたのだ。



「やはり生きてたか。まぁ⬛︎⬛︎⬛︎の子、そりゃ簡単には死なない体と言うわけ、か」


 グチャ


「おー、丁度今、()()()()()()()だよ」



 と、目を開き、辺りを見回そうとする間も無く、水浘愛(めみあ)の目には耐え難い光景が飛び込んで来る。それこそ、たった今フーの足が頭だけとなった漢妖歌(かんよう)を踏み潰し、(にじ)り殺した瞬間。


漢妖歌(かんよう)……」


 ぐちゃり…


「おっとショックがデカ過ぎたか? ま、そう悲観するな。お前もすぐに後を追わせてやるさ」


 持ち上げられたフーの足先には肉片や体液が粘り付いてはゆっくりと地に落ちていく。その残骸、辛うじて分かる組織の一部がどれも見覚えのあるものであり、()()漢妖歌(かんよう)であると分からせられる。


「…」


 当然それを瞬時に理解してしまった水浘愛(めみあ)は呆然と立ち尽くし、自分を殺して来る存在を前に逃げる素振りも戦いの構えを取ることさえしない。


「固まっちったな、これから殺されるってぇのにさ」

「さて、もういいか。そろそろ選手交代だ。アイツは■が殺す」

「おっと…まぁいいか。■も流石に遊び過ぎたって思い始めたし」


 そんな水浘愛(めみあ)を前にフーとウェアは馴れ合いながら次に水浘愛(めみあ)(なぶ)る方を決めていた。こうして(よみがえ)ったところでフーとウェアにとっては何も変わらない、何か劇的に変わったと言うわけでもない、ただ復活しただけ、ただ死ぬのが伸びただけに過ぎないのだから。


「と、言うわけだ。遺言ぐらいなら聞くけど、何か言うことあるか?」


 ウェアは自分の能力(ちから)を発揮する構えを取りつつそう尋ねる。淫夢巫(りんぷ)にトドメを刺した時と同じ、構えを。


「…」


 それに対し水浘愛(めみあ)は呆気に取られて固まったまま、唖然(あぜん)としたまま、



「……淫夢巫(りんぷ)も……欄照華(らてすか)も……死んだ?」



 ポツポツと、絞り出すように、口なんてほとんど動かさず、と尋ねた。体だけでなく表情も固まり、無表情のまま淡々と。



「へー、ご大層に名前まで貰っていたのか、ふ〜ん。ああ、その通りだよ。角生えてたガキも、植物みたいな奴も、もちろん足元にいるこのムシケラも、全部死んだ。この■が殺してやった、いや『ゴミ掃除』って言った方が正しいのかな?」



 その問いかけに対しフーは嘲笑(ちょうしょう)を混ぜながら自分が殺したと答える。足元の残骸をグリグリと踏み(にじ)って。



「……あ、そう…」


「え、反応うっす」



 しかし残酷にして煽り立てるような、焚き付けるような態度に対して水浘愛(めみあ)の反応は至って皆無。冷め切っている、恐ろしい程冷淡な返しに、思わずフーも驚いてしまっていた。今までならば、自分やウェアがこのように煽った際、帰って来る反応と言えば「許さない」だの「バケモノめ」だの、憎悪憤怒悲哀苦悶と言ったものであったから。加えてこの水のような子は他と比べて表情や感情の動きが大きいと、先程出会った時に分かった。



 されど今は違う。波打つ程に五月蝿(うるさ)かった感情の起伏は凪の如く静まっている。



 目の前で自分の家族が殺された、ましてや殺した者そのものがすぐ前にいるにも関わらず、だ。



「あ〜あ〜、フー。お前のせいだぞ。ショックがデカ過ぎて状況を飲み込めていないじゃあないか」

「そーゆーことか。じゃあ可哀想だしさっさと殺してやれよ」



 ウェアとフーはそんな水浘愛(めみあ)の様子に心理的ショックが多過ぎて放心状態になってしまったと考え、どうせ殺すのだから何ら問題はないとした。そしてウェアは改めて水浘愛(めみあ)を見据えると、


 ゴウッ!!!


 厄災の子に向けて自分の能力(ちから)を発する。瞬間、水浘愛(めみあ)の体から幾つもの炎が現れ、激しい勢いで燃え盛った。外からも内からも現れた炎は瞬く間に水浘愛(めみあ)の体を焼き上げ、蒸発させていく。


 けれども、



「……」



 自らの体が燃え、削られ、無くなっていくにも関わらず、水浘愛(めみあ)は一切動かない。焼かれる苦痛に悶絶するわけでもなければ、単なる痩せ我慢と言うわけでもなく。


 本当に動かない、全くと動じていない。


 自分の体には何も起きていない、熱さや痛みなどまるで感じていないかの如く。



 ジュッ



「あ?」

「え?」



 と、次の瞬間、あれだけ燃え盛っていた炎が一瞬で鎮火した。それも何かされたわけではなく。いきなりその炎は消えてしまったのだ。


 しかもあんなに炎に巻かれていた水浘愛(めみあ)の体は焦げどころか傷1つなく、能力(ちから)を喰らう前と全く同じであった。その様子にウェアもフーも何が起きたと首を傾げ、こんな筈はないと再度能力(ちから)を振るおうとする。



「……ーーッ……そっか……死んじゃったのか……」



 カチンッ



 瞬間、



 ビャッッ!!


「「ッ!!」」



 フーとウェア目掛けて何かが超速で飛んで来る。咄嗟に両者はそれぞれ横へ飛んでその塊をすんでのところで回避するが、そこでようやく何が飛んで来たのかを理解出来た。


「…ッ」

「……マジか」


 それは他でもない水浘愛(めみあ)。つい先程まで呆然(ぼうぜん)と立ち尽くし、動く素振りなど全く見せなかった水浘愛(めみあ)だった。


 ズギュグギュギュギッ!!


「むっ…!」

「ぬっ」


 だがこの一撃では終わらない。水浘愛(めみあ)はすぐさま地に手足の平をへばり付かせるようにして急ブレーキを掛けると同時にすぐさま顔を持ち上げて自分の敵を見据える。そして両腕をバッと突き出すと、


 ビビシュッッ!!


 勢いよくその手が伸び、敵の元へと急接近していった。


 グァッ!


 けれどもその時すでに戦闘の心構えと体を整えていた敵達は迫る手を軽く避け、すぐさま迎撃の体勢へと移る。と、同時に水浘愛(めみあ)は外したその両手で露出した岩肌を掴み、


「…!」


 ギリギリギリ…ッ!!


 思いっきり体を引いてその腕を張った。伸縮性を備えた水浘愛(めみあ)の腕はギリギリ音を立てながら伸び、そして


 ヒュオッ…!!


 踏ん張っていた足を離すと同時に込めれていた力が解放され、勢いよく縮む。その速さたるや先程水浘愛(めみあ)の脚が地を蹴って跳んだ時以上であり、敵と水浘愛(めみあ)の距離を超速で詰めさせた。


「……ぉ」


 気が付けば自分のすぐ手前まで迫っていた水浘愛(めみあ)。しかも岩肌を掴んでいた筈の手はすでに体の側へと引き寄せられており、次の攻撃動作へと入っている。


 握られた手を大きく振り被り、超速の勢いをほぼ全て乗せた拳を。


「ヤッべ…」


 バッ!


 反射的にフーは腕を持ち上げて防御姿勢に入るが、


 ゴッ……!!!


「…く!」


 水浘愛(めみあ)の拳は防御など何のそのと言わんばかりに上から叩きつけられ、


 パァンッッ!!!


「がぁっ!?」


 フーを勢いよく殴り飛ばした。


 ビシュッ!


 けれどもそれと同時に水浘愛(めみあ)は片方の手を伸ばして地面へと貼り付き、自分の体だけは大きく吹き飛ばないよう(こら)える。

 次に自分が飛んで行く方向が、その勢いのベクトルが、もう1人の敵へと向くように。


「…な」


 ギリギリギリ…ッ!!


 ウェアもまた同様に腕を上げ、体を丸めて防御姿勢に入る。


 が、


 ギリッ! ギリギリギリッッ!!


 先程以上に強く体を引き、また張る腕の伸縮性もより小さいものへと変えたことで、込められる力はより強力なものへとなっている為、


「吹き飛べ」


 ガッ……!!!


「……ぎ」


 放たれる拳の威力は更なる威力を誇っていた。油断や見縊(みくび)っていた、では決してない。されど急激なパワーアップをしたわけでもない。


 明らかに異なる雰囲気、自分の体の使い方が以前と違い過ぎているのだ。


「……ふぅ〜、いてて…冷たっ…ぁ」

「驚いたな…短期間でこんなにも変わるものか」


 敵達を殴り飛ばした水浘愛(めみあ)はひゅうと静かに息を吐きながら自分の手を眺め、拳の感触を確かめる。


「…」


 その表情は普段のふざけやおちゃらけは一切なく、ひたすらに()()にして()()()()()()()()()と言い表すのが正しいかもしれない。

 普段は明るい青をした体もすっかり藍や群青に染まり、今の水浘愛(めみあ)の変貌を、冷たさを体現していた。



 ジ……



 冷え切った眼差しは殺すべき敵を見据え、冷静な頭は次なる殺害方法を深青に染まった体に指示する。


 激怒に満ち満ちたその心は、孤独になり冷め切ってしまったその心身は、水浘愛(めみあ)と言う存在を大きく変えてしまった。


 燃えることはない、爆発もない。包まれ、満ち満ちていく程に冷め、静かになっていく。


 それが水浘愛(めみあ)()()、時が経つに連れてより冷たく、凍り付く。

次回の投稿もお楽しみに



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