Never Say "Never"
お待たせしました
ズルッ…ググ…
「ふぅ……はぁ…」
「欄照華…邪魔ならば余は置いていってくれても…」
「黙れ…気が散るッ…」
下半身のない自分の体を引き摺りながら何度も蔓や幹を伸ばしては、それを手繰り寄せることで進み続ける欄照華。荒く息を吐き、全身から体液を流し続けるその姿はとても見ていられるものではなく、腕の中では頭のみと漢妖歌が必死に自分だけでも置いていけと語り掛ける。しかし欄照華は歯を砕けんばかりに噛み潰しながら尚も片手だけで進み続けた。
「淫夢巫が勝つと言って戦場に残ったんだ…そして此方達を逃した…。絶対に死なないと告げてな…ハァ…なら此方達はその言葉を信じて待つだけ…だっ」
自分の家族が、自分は死なないと言ったのだから。勝てる可能性があるからここは自分に任せろと言ったのだから。ならば自分達にはその言葉を信じるしかない。
「しかし…」
「行っても邪魔になるだけだろう…今の此方じゃあ…こんな体じゃあな…ギ…ちくしょお…」
「…」
とても戦える体ではない、今の自分達の傷付き過ぎている体では勝ち目などない。傷を癒やして元の体に再生するのも長き時を有する。その時を過ごしてから戦場に戻ったとしても、すでにその戦いは終わっていることだろう。
結局戦えない自分達はこうして逃げ仰るしか出来ない。悔しいがそれ以外にすることは出来ないと欄照華はバキバキと唇を噛み締めて言う。その想いは体を失った漢妖歌も同じ、いやそれ以上であり、悔しさを吐露する欄照華の小脇に抱えられるしか出来ない自分の無力さに出す言葉も失っていた。
(水浘愛も回復させなければならない…今動けるのは此方だけ……淫夢巫がここに来るまでは…何とか……)
そんな漢妖歌を抱えて空に晒されて痛む体の中から懸命に草木を紡ぎ、蔓を伸ばし続ける欄照華。決して速くない速度で、何度も何度も傷口を地に擦り付けながら。
「ぜぇ…ひゅう…」
トンッ
「…!」
と、ある程度戦場から離れたとその時、欄照華の背後で誰かが立つ音がする。何処となくだが、重たい体を引き摺るような。痛み、軋む傷跡を庇うかのような。そんな雰囲気が感じられる音。
まだ背後を見てはいないものの、感じられる気配や強い体液に混じって微かに空を伝って来る匂いからしてそれは、
(淫夢巫…)
自分の家族だと、戦場に自分だけ残った大切な存在だと欄照華は悟った。それは漢妖歌も同じようで丸くなった目を懸命に背後へと向けようとしている。
「淫夢巫ッ!」
瞬間、欄照華は緊張の解けた顔でハッと背後を振り返った。
「…」
そこには悟った通り淫夢巫が、
パンパンッ
「お〜いたいた」
「ったく、お前のせいでこっちも巻き添えを喰った。どうしてくれる」
「ごめんごめん」
「……」
生気なき瞳をした淫夢巫の首を、屍と化した家族を持つ敵達の姿が、あった。
「いや〜お前達の仲間さん、コイツなかなかやるじゃあん。こんなに傷ついちまったのは久しぶりだ」
――
バチッ……バチッ……
ジュゥウウウウ……
放たれたその一撃は空気を焦がし、辺りに噴煙を舞い上がらせた。熱線の余波が今尚残っているのか、突き出した淫夢巫の両手のひらは火花が散っている。淫夢巫はピッと軽く手を振るって火花を振り払うと、
「……くっ…ハァッ……ハァッ……」
ガクンッとその場に片膝をつき、手をつき、突っ伏してしまう。持てる力の全てを使い果たしてしまった淫夢巫は最早動くことは疎か、立っていることさえ出来ないのだ。それこそ熱線の反作用で後方に吹き飛ばないよう地面に深々と突き刺さした片翼を引き抜く力などとても残されていない。
だが全ての力を使い果たしたのと引き換えに放たれた最高火力の熱線の威力は今までの比ではなく、疲弊し尽くしながらも淫夢巫は勝利を確信していた。
シュウウウ……
「……!」
筈だった。
「いって…! お前……」
「だから言っただろう、油断したから他の連中はやられたのだとッ」
「反省するよ…おぉイテェ…!」
「……ッ」
砂埃を払い、焦げ付いた地面を歩いて、敵達はさも平然と歩いて来た。渾身の一撃を持って尚、己の力の全てを費やして尚、決め手には至らない。両者共全身は傷ついているものの行動不能に陥る程のダメージは負っておらず、痛がりつつもまだまだ余裕があるように見える。
今出せる全ての力、全ての魔力でも倒せない。
この敵は今まで相手して来た者達はレベルが違う。今までは辛うじてどうにか出来た、己の身を削りに削ってようやく何とか出来た。
が、今回の敵はそれを悠々と超えている。どう足掻いても勝てる光景が見えない。
力尽き、動くことさえ満足に出来ない淫夢巫の心はとうとう折れてしまった。
(…終わった……ごめん…ママ…)
悔しさ、情けなさ、無力さ。生きて家族と再会すると心に決めた筈なのに、それも叶いそうにない。
「お前の仲間は首だけになっても生きてたなぁ。お前もそうなのか? 細切れにしたら死ぬのか?」
「……」
そんな無力さと絶望に打ちひしがれる淫夢巫の側へフーは傷など気にせず軽やかに近づくと、
スパンッ
「まぁそう悲観するな、すぐに仲間と再会させてやるさ」
スパッ
「もちろん生きててもいいぜ、何度でも殺してやるからな」
と言いながら己の能力によって動けない淫夢巫の体を情け容赦なく切り刻む。
首を切り落とし、胸を裂き、腹を割る。
淫夢巫の体は一瞬でバラバラとなり、体液の池を作りながら辺り一面に散らばった。
「さぁてと、行くか。約束通り、他の仲間達も殺しに」
「おい、後処理はいいのか。さっき水みたいな奴が復活するの見ただろ。このガキも例外とは言えんだろうが」
「んー? んー、ウェアに任せる。ちゃんと処理してもいいし、ほっといてもいいよ。これでまだ生きてたらバケモンだけどな」
「お前の方がよっぽどバケモノだぜ。まぁ■はこーゆーのはちゃんとトドメを刺す性格だからな」
そしてフーは刻んだ淫夢巫の体の一部、頭部の片割れを引っ掴み、髪を持って振り回しながら次なる標的へと歩き出す。残忍にして残酷極まりない笑顔を浮かべて。
そんなフーの表情に呆れながらウェアと呼ばれたもう片方の敵は散らばった淫夢巫の体を睨み付けると、
「ふん」
ボゥォッ!!
ゴォオオオオ……
次の瞬間散らばった淫夢巫の体が余すことなく突然発火した。触れてもいないのに勝手に燃え始めた淫夢巫の体は炎の中でバキバキと軋む音が響き、辺りに鼻をつんざく異臭を放つ。
「あーあ、ほんとにトドメ刺すんだ。もし生きてたらどーすんの? 勿体ね〜」
「そうだ、もし生きてたら、だ。ちゃんとトドメを刺さないの、お前の悪い癖だよ」
「嬲ってるうちにくたばるんだもん、大体は」
「ほんとお前終わってるな、性格」
しかし両者はその異臭に顔をしかめることなく、燃え続ける淫夢巫の体の破片を背に、去って行った厄災の子達を追い始めた。
――
そして時は戻り、追いついたフーとウェアは残る厄災の子達を見据える。
「さて、次は誰が死ぬ? 挙手してくれたらソイツから殺してあげるよ。誰もいなかったら全員同時に殺す。こんなふうに」
緊張が走り、怒りと恐怖に震える厄災の子達を前に、フーは挑発しながらそう言った。乱雑に神を掴んだ屍を見せつけるように持ち上げ、フラフラと振りながら。
「漢妖歌……此方は奴らに勝てないかもしれない……でも、淫夢巫が繋いだこの生命、今度は汝に託す」
「…ッ、其方…!」
スッ
すると欄照華は静かに手元から漢妖歌を下ろし、手の中から水浘愛を離し、
「ごめんって、戻って来たママには謝っといて」
ズルリ…
ただ自分だけ、家族を殺した強敵へと立ち向かって行く。
「へぇ、やるんだ。言っとくけどコイツみたいになるし、コイツみたいにするよ?」
「汝らは絶対に許さない…ッ!!」
次回の投稿もお楽しみに
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