悪足掻き
お待たせしました
…ッ!
一瞬の出来事、何が起こったのか理解させる暇もなくソレは厄災の子達を襲った。気が付けば各々の体が吹き飛び、バラバラになって宙を舞っている。
ドシャシャ……ッ!
それを自分らの体が地に落ちるまで、厄災の子達はただただ見ていることしか出来なかった。何が起きたのか、今自分達は何をされたのか、一体何が飛んで来たのか、何も理解出来ないままに。
だがそんな理解などさせまいと言わんばかりに、
「ヒッ……グッ……ヴゥゥ……!」
次々と、
「ィギ……」
容赦なく、
「ァ……アアアアア…!!」
抉られ、切られ、吹き飛んだ体に激痛が走り、悲鳴を上げさせる。断面からは多量の体液が噴き、地面を痛々しく染め上げていく。
ゾワッ…!
「あ〜…これこれ。たまんねぇなぁ〜、厄災の子って言うんだからまさか他の連中とは違って痛みや悲鳴を上げないんじゃあないかって思ってたんだ〜。いやぁ、いらん心配だったなぁ、■ってば心配性なんだからぁ〜も〜」
「はっ、本当かそれ」
その光景と響き渡る悲鳴を前にフーはケラケラと嘲ながら隣にいる者に語り掛ける。罪悪感など一切感じていない、それどころか痛めつけることに快感を覚えているフーの悪辣さは言葉よりも口角の釣り上がった表情に浮き出ていた。
⬛︎⬛︎⬛︎のばら撒く厄災に歪められ、混沌に染まることで得た圧倒的な力。元の自分には無かった新たな能力。この姿となってから敵などおらず全て自分の思うがまま、逆らう者や歯向かう者は何もかも娯楽として惨殺し、生命が散り行く様を楽しんでいた。⬛︎⬛︎⬛︎と出会ったことで歪んだのか、それとも混沌に染まることで本性が顕となったのか。歪みに歪んだ今となってはとても知る由も術もない。
「まぁまぁ、まだまだ殺さないよー。苦しまずに死ぬのを選ばなかったのはお前達なんだからな。選択を迫られたらミスんなよ、でないとこんな風に大惨事になるって身に染みて分かっただろ? よかったねー」
そしてフーはパチンパチンと手を叩いて煽りながら次なる攻撃を繰り出そうと手を伸ばす。
「……ッア! アアアアッ……!」
ググ…グ……!
が、次の瞬間淫夢巫は自分の手から魔力を放出し、地面の一部をくり抜くと、
「ッアアアアア!!」
ブァッ…!! ヒュゥア!!
念力によって先端を鋭利な形状へと変形させるのと同時に超速で放つ。まさに投槍の如く放たれた鋭い一撃は一直線にフー目掛けて飛んで行き、
「やるぅ」
パンッ
目前で惜しくも四散する。恐らく先程子達が喰らったのと同様な方法で、投げられた槍は防がれてしまったのだ。
しかし、
ビビュッ!!
バシッ!!
「ん?」
同時に細い蔓がフーの体に巻き付き、縛り上げた。
ギギギギ…ッ!
「くっ…!」
「あれれっ、ほうほうふーむ。それでまだ動けるんだ」
捕らえたのは上半身のみになって尚動き続ける欄照華の手から生え伸びし植物の蔓であった。棘を纏いし蔓はフーの体や喉元にギシギシと食い込み、強く締め上げる。
「いいねぇ! 痛ぶり甲斐があるよ」
グンッ!!
「っ!」
しかしフーは締め付けによる苦しみなど一切感じていないのか、その蔓を掴んで勢いよく自分の元へと引き寄せた。踏ん張れない欄照華はなすがまま宙を舞いながら間合いを強引に詰められてしまう。
ブチブチブチッ!!!
「…グっ」
持てる力で精一杯締め上げていた蔓をいとも容易く引き千切り、すでに反撃の体勢に入っている敵との間合いを。
けれど欄照華とて退く気など更々なく、むしろ引き寄せられるのならばその勢いを利用して最大限の攻撃を叩き込んでやると拳を硬く握り締める。
次の瞬間、
ガァンッ!!
鈍い音と共に欄照華の攻撃がフーの顔面に炸裂した。
「……!」
ぺろっ
「うん、いいよいいよ。そーゆー無駄な抵抗嫌いじゃあないし好きだよ」
だがフーは全くと意に介しておらず、軽く舌で口元を舐めてからそう告げると、
ガッ!!
「ほらよっ…と!」
グシャン!!!
「あぐっ…!」
欄照華の首根っこを鷲掴み、勢いよく地面へと叩きつける。瞬間土煙を立てながらガラガラッとヒビ割れる地面。フーの表情からして本気の一撃では決してないのだろうが、それでも先の拳よりも威力は遥かに上だ。
ミシッ…メギギッ……!!!
「ガッ…ヴァッ……!」
「ほらほら頑張れ〜。でないと死んじゃうぞ〜」
今尚首を掴まれ、潰される欄照華と余裕と残酷な笑みを浮かべるフー。両者の実力差はあまりにも圧倒的であり、簡単に覆せるものではないと物語る。更に他の子達も皆重症を負い、とても動ける状態ではない。
故に絶体絶命の欄照華を助けられる者などいない
グワッ!!
「お?」
「……」
かと思われたその時、フーの背後を突如として何者かが襲い掛かった。
ヒュッ…
「っとと、へぇ。やっぱりお前もか」
「…」
惜しくもかわされてしまったものの、その者はすぐに体勢を立て直し次なる攻撃を繰り出そうと腰を屈めて身構える。
キチキチキチ…
「…」
「首を吹っ飛ばして尚動くか」
それは先程首を吹き飛ばされた漢妖歌の体であった。頭を失い掛け体のみとなっても俊敏に動くその姿にフーは軽く驚くも、すぐさまニタリと笑ってみせる。
「くっ…」
「だ…大丈夫なの…?」
「大丈夫じゃあ…ないが……動かせるのならば動かさねば…!」
そこから少し離れた場所では、ゼェゼェと息を切らしながら苦痛に耐える淫夢巫と、頭だけでも未だに生き続け、離れた自分の体を動かし続ける漢妖歌がいた。凄まじき生命力と言うべきか、もしくは厄災の子の生命は首を刎ねられた程度では死なないのだろうか、漢妖歌の頭は必死に残った体を動かしている。
自分の頭から妖気を無数の糸のように放って、まるで人形のように漢妖歌は自分の体を操って戦っていた。
「だがすぐにやられちまうだろう…あの体が無くなっちまったら余はいよいよ何も出来ん…」
「…」
「だからさっさと行け。水浘愛の破片と欄照華を連れてなっ。そんぐらいの時は余が…ッ」
しかし元より漢妖歌はフーを相手に勝む気など更々ない。むしろ敗北し、自分の体が使い物にならなくなることを前提にした上で戦っている。自分の家族が生命辛々逃げる時を稼ぐために。あの体が動ける限り、自分の頭が動かせる限り、漢妖歌は全力で抵抗する気だ。
「ふーん」
ヒュパパパッ!!!
「はい、木っ端微塵になったけど。これでもまだ動ける?」
「…!」
が、その時は想像を絶する程に早く訪れた。フーはいとも容易く己の能力で漢妖歌の体をバラバラに切り刻んでしまう。早業の域など子達にとって遥かに超えている、肉片になって宙を舞う自分の体を見て初めて切られたのだと漢妖歌と隣にいた淫夢巫が気がつく程に。
フュンッ!
「っと」
しかしフーがその能力を使った瞬間、淫夢巫はハッと気がついたかのように自分の腕に魔力を込めると、念力で欄照華の体を持ち上げて自分達の側へと一瞬で手繰り寄せる。フーもこれはしまったと一瞬驚くも、特に淫夢巫の手を止めようとはせず、ただ目前に厄災の子達が並ぶのを眺めていた。
「さてお次はどうする? 絶対に勝てないこの■を相手にクソッタレ⬛︎⬛︎⬛︎の子供であるお前達はさ。次はどんな無駄な抵抗をしてくれるのかな?」
何しろ厄災の子と言えど自分には決して勝てない、圧倒的な実力差がここにはあるとフーは確信しているからだ。実際、どんなに嘲笑しながら煽ってもその子達の目の奥には恐怖が見え、傷付いた体はカタカタと僅かに震えていた。だがそれでも、自分の心を覆う恐怖に歪みながらも、残った子達はなけなしの勇気と心意気を振り絞って戦意を失わんとしている。
例えそれが目の前の敵の快楽を刺激し、快感に表情を歪めようとも。
「一応戦おうという心はまだあるんだねぇ〜。いやぁへし折ってやりたいねぇ〜」
「いやぁもういいだろう。さっさと殺してしまおう」
「えぇ〜、もっと楽しもうぜ。お前も本音は■と同じだろぅがよ」
「ふんっ、■はお前と違ってあんな残酷な嬲り方はしない」
1人にさえ勝てないのに、もう1人倒さねばならない相手がいようとも。
このままではどう足掻いても勝てないと悟ろうとも。
スッ
「…おい?」
「漢妖歌、欄照華。水浘愛を連れて逃げてよ」
「……はぁ? ゴホッ…汝はどうするつもりだ…」
全員は逃げられない。だからこそ、戦える者だけが立ち上がり、敵と戦う。
トッ…トッ…トッ…
「今のまま戦っても勝てない。でも、勝算はある…かも」
「なっ…淫夢巫。何を…!」
淫夢巫は自分だけで敵のみを睨みつけながは、敵の元と歩みを進める。背後にいる家族の方は一切振り向くことなく。
「今から私の全力、全てを費やしてあいつらを消し飛ばす。私の最高火力をぶっ放す」
「……それは此方が喰らった時以上か?」
「…そ」
「ならば離れていた方がよさそうだな」
淫夢巫はどうやら自分に残された力全てを持って、自分だけで敵達を撃破するつもりだ。嘘偽りなく、本気で。
破壊のみを含んだ最高火力の必殺技を持って。
そしてその威力をよく知っている欄照華は巻き添えを喰らわんとする為に頭のみとなった漢妖歌の頭を小脇に抱え、飛び散った水浘愛の体を手の中にしかと握ると、
ヒュンッ パシッ!
先程と同じ蔓を縄のように使って忠告通りこの場から離れる準備を始める。
「死ぬなよ」
「死なないけど」
「そうか、ならいい」
ギュンッ
欄照華はそう言い残すと漢妖歌の言葉を遮るように抑えながら力強く蔓を引っ張り、弾性力を活かしてこの場から離れた。
後に残ったのは敵と淫夢巫のみ。
「さて、追いたきゃ私を倒してからにしなさいな。もっとも、貴方達如きに倒される私じゃあないけどね」
「おっとぉ? ■の技を見破れなかった雑魚が何かほざいてるぞ」
「はんっ、じゃあその雑魚の攻撃を受け止めてみる? 一切逃げることなく、ね」
「おや、煽るねぇ」
淫夢巫はボロボロの体に似つかわしくない煽り口調でそう告げながら静かに必殺技の体勢を取り始める。体の中にある魔力を湧き立たせ、目の前の敵達を撃破することのみを考えながら。
「まともに喰らう勇気、ある? 雑魚の…最後の悪足掻きを…!」
「……ふんっ」
ただただ煽る、煽り続ける。かわされたら終わり、反撃されたら終わり。勝つにはこの必殺技を確実に当てなければならない、何者も邪魔されないことを大前提に。
その為には自分という存在がいかに敵にとって小さいものか、最後の悪足掻きがどれ程ちっぽけなものかを極限まで刷り込ませなくてはならない。
するとフーはにやりと笑いながらそこまで言われちゃあ退くわけにはいかないと、
「……いいだろう」
雑魚相手に舐められてはならないと、淫夢巫最後の悪足掻きを受け止める体勢を取り始めた。側にいるもう1人の敵もその気のようで、特に何かする素振りは見せない。
まさに好機、自らが手に取れた最大のチャンスだと淫夢巫は歓喜するも、しかしだからこそ確実に決めなければならないとすぐさま冷静になる。
「う……ぉぉぉおおおお……」
バチッ……バチバチッ……!
そして必殺技にして大技が、目の前の敵を撃破する為だけの魔力の一端が火花を散らして淫夢巫の両の手のひらから溢れ始める。
「……くっ……はぁぁぁぁ……」
ガッ
その両手を突き出し、重ね、照準をしかと合わせ、
ブゥ……ンッ
「……これで……」
バチッ…
「くたばれぇええええ!!!」
ヴオッ!!!!!
「ッ!!」
「ヤバイ…!」
最大にして最高の必殺技、持てる魔力を全て費やした最大級の光波熱線を繰り出した。
次回の投稿もお楽しみに
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