帰ってくる、その時まで
お待たせしました
ちゅ〜…
「……」
あむあむっ
「……」
かみかみ
「……」
荒廃した大地。見渡す限り殺風景。そんな世界の中にただ1つ、力強く根付き幹から枝を生やし、その枝から葉と花を茂らせる大きな樹木があった。
そして樹木の足元には柱の如く立っている樹木の主と、その主の体に群がる者達がいる。
「……おい、たしかに此方の体を吸うことは許可したが、齧っていいのを許可した覚えはないぞ」
「んぁ? ンパッ、今更ぁ?」
「うん、だいぶ吸ってから言うことなんかそれ」
欄照華は自ら張り巡らせた根から地下水を吸い上げ、かつ撒かれた厄災がもたらす毒素を濾過し、必要な栄養素のみを抽出しながら木の幹や自分の体へと送り込んでいた。淫夢巫を始め、水浘愛と漢妖歌もその体に吸い付き、齧り付いて供給されて来る栄養素を摂取しているのである。
しかしある程度吸わせたところで欄照華は水浘愛と漢妖歌にそう告げ、自らの体から口を離すように言う。たしかに齧っていいとは言われなかったものの、それならば齧り付くところで止めればいいのにと水浘愛と漢妖歌は顔を見合わせて思い合う。
「え、漢妖歌てゃんと水浘愛はダメで淫夢巫てゃんはいいんかぃっ」
「ん? 私はちゃんと吸ってるもん。言われた通り、こうやって」
「てかそんなこと出来たんだ…まぁ水浘愛のお腹はもういいかなって感じだけど、さ」
ちゅるるっ
そして未だに欄照華の体に言葉通り吸い付き栄養を補給している淫夢巫に水浘愛は軽く文句を言った。すると淫夢巫は伸ばしている自分の尻尾を軽くくねらせ、指でなぞりながら自分は許可されたように吸っているだけだと返す。見ればハート形の尻尾の先端部分は欄照華の体にぷすりと軽く突き刺さっており、そこから水分と共に栄養を吸い上げていた。
どうやら淫夢巫は口からだけでなく尻尾からも他者からエネルギーや栄養を吸い出すことが、いや恐らく尻尾以外からも同じようなことが出来るかもしれない。
「淫夢巫、汝も同じだ。もう十分だろう。とっとと外せ」
「あら」
プツッ
そんな淫夢巫にも欄照華はそう告げ、自分の体から強引に尻尾を外す。淫夢巫は伸びた自分の尻尾をするすると自分の元へ寄せ、元の長さと戻していく。
「ケチンボ」
「飲ませてやるだけありがたく思え」
「はいはい、ありがたやありがたや」
眼光を飛ばし合うことで間にパチパチと火花散らせながら会話する淫夢巫と欄照華。よもや毎度のこと、よくも飽きずに互いに怒りを向け合えるものだと側で見ていた漢妖歌と水浘愛は呆れながらその言い合いを眺めていた。
お母さんが帰って来なくなってからもこうして生きている、生きてられている。お母さん無しじゃあ生きていけない、お母さんがいないとどうすることも出来ないだろう自分達が、誰も欠けることなく、だ。
その事実だけを常に胸の中に抱きながら、厄災の子達は母親の帰還を、笑顔の帰還を今尚待ち続ける。
ピリッ……!
「「「「……」」」」
しかし子達の敵は待たない。世界に厄災をもたらす存在を許さない者達は、その厄災が振り撒いた芽の存在を知る者達は、ソレらが存在することを絶対に許さないのだ。
「また…来たわね」
「ぽいねぇ。なんか分かるようになっちゃった」
「敵とあらば此方が叩きのめすのみだ」
「そう言うて打ちのめされるではないか其方は。余達もいるのだぞ」
この世界に来訪して来た者の存在を感じ取った子達は即座に真剣な表情になると、その方向をジッと睨み付ける。全員の中ではち切れんばかりの緊張が高まり、臨戦体勢へとさせるのに時は掛からなかった。
「へぇ〜、ひのふのみ…ちゃんと4匹いるんだねぇ。噂はほんとだったか」
「全員異なる姿をした厄災の子供達、か…」
そして見える異世界からの来訪者達と厄災の子達。2人の来訪者は厄災の子達を興味深そうに見遣りながらニヤリニヤリと笑っていた。対して厄災の子達は自分達の敵であろう目の前の存在達に警戒しつつ、何時何が起きてもいいように構える。
「水みたいな奴、草木みたいな奴、邪な雰囲気の奴、蟲みたいな奴。うん、話に聞いた姿と一致するな。にしても、これが厄災の子供達? ほんっと大したことなさそうな見た目だなぁ?」
「そう油断してたところをバックリイカレたんだろう他の連中は」
だが2人の内の1人は子達の警戒になど目もくれず、大したことなどなさそうだと言った。たしかに厄災の子と呼ぶにはその子達は余りにも若く、小さいが。それに対しもう1人の方がそのように油断しているから他の者達、即ち先にこの世界へと来ていた連中はやられたのだと窘める。
するとその忠告に対し来訪者はヘラヘラと嘲笑いながら、
「ヤッホー、そんな警戒しなくていーよー。■はフー。お前達のママンには随分と世話になってねぇ」
警戒する厄災の子達へ軽やかな足取りで近づき、自らの名を名乗る。
そして、
「じゃ、死のうか。世界のために、ね?」
と告げながら揃えた人差し指と中指を厄災の子達へ向け、
「バーンッ」
まるで拳銃を撃つかのような仕草をした。
パンッ
瞬間、
「……」
「……え?」
「……なっ……!」
水浘愛の頭が一瞬で破裂、粉微塵に消し飛んだ。
「ふん、なーにが『世界のため』だ。貴様が楽しむためだろうが」
「えっへへ、別にいーじゃん。■が楽しんでー、それで世界から厄災も消え去ったらー、みーんなハッピーじゃーん」
「相変わらず嫌な性格だ」
フーはその光景を前にキャッキャッと笑いながら自分の能力に、目の前で呆気なく命を終わらせる自分の力に酔いしれる。
にゅるんっ
「ブハーッ! びっくりしたー!」
「お?」
が次の瞬間、水浘愛の体がみょんっと立ち上がり、首の断面から新たに自分の頭を再生する。
「なんだオメェー、いきなり水浘愛の頭をぶっ飛ばすなんてー!」
「あー、やっぱこの話もほんとかー。水みたいな奴の体は再生するっての。かーっ、だる。嘘であれよー」
「やはり汝らは此方の敵、と言うわけか」
再生した頭で水浘愛はフツフツと怒りを煮え滾らせ、自分の家族の頭を容赦なく吹き飛ばすこいつらはやはり敵かと欄照華は再確認し、拳を強く握り締める。
「まーまー、そう怒んなよー。別に■はお前達のことを嬲りに来たわけじゃあないんだからさ。返答次第によっちゃ痛いこととか苦しむこととか一切しねーぜ■? 信じろよー」
「いきなり水浘愛の頭を吹き飛ばしておいてよく言うわ。とにかく、貴方は私達の敵だから」
「容赦はせんぞ」
淫夢巫と漢妖歌もそれに続き、体に力を込め、手を出せるよう力を入れた。
「はー、信用ねぇなー。お前達だって苦しんだり痛い思いなんてしたかねーだろー? いいか、よく聞けよ。何もするな、動くな、抵抗するな、そうすれば■達はお前達に苦しい思いは一切させねぇ、なぁ?」
「うむ。それは約束しよう」
けれども来訪者達はため息混じりに、自分らは厄災の子達に苦しい思いをさせに来たわけじゃあない、何もしなければ痛い思いをさせるようなことはしないと開いた手を見せながら答える。それはフーの隣にいる者も同じであるようで、うむと軽く頷いて半歩後退する。その仕草はまるで、自分達は無害だと訴えているようだった。
だが当然子達は信じられない。今まで自分達に敵意を向けなかった存在はいなかったのに加え、この者達は出会い頭に家族の頭を吹き飛ばしたのだから。子達はそれぞれ戦闘体勢を維持し、身構えながら来訪者達のことを睨み続ける。
「そーそー、そのまま。そうやって固まってろよ?」
と、
「動くと痛い」
次の瞬間、
「「「「……ッ!!!」」」」
ビシ……ッ!!!
空間に亀裂が走るような鋭い音が響いた瞬間、
ブシュゥッ……!!
「グっ……!」
欄照華の胴体が腹部を境に真っ二つに裂かれ、
パッ……!!
「あ…」
淫夢巫の右足と右翼が抉り取られるように消滅し、
「……ッ」
漢妖歌の頭が音もなく刎ねられ、
パンッ
水浘愛の体が今度は余すことなく破裂した。
「あれ〜、もしかして動いちゃった? 動くと痛いって言ったのに〜」
「せっかく……ハァ…欲抑えてさ…子供なんだから苦しまずに殺してやろうとしたのにさぁ〜…!」
「あぁ〜っ! なんでかわそうとしちゃうかなぁ! でもありがとう〜、これで欲望に忠実になれるよぉ。徹底的に嬲ってさぁ! 苦しませながら殺したいんだよね〜本当はぁ!」
その光景を前にゾグゾグと全身を駆け巡る快感に興奮しながら、フーは自分の欲望を、邪な心を解き放つ。先程とは打って変わって表情は歓喜と快感に歪めて、邪悪な心がそのまま出て来たかのように。
「貴様、ほんと嫌な性格してるな〜」
「へっへっへっ。さぁてと、歓喜の大量殺戮と行こうかな?」
「最低でも1匹は残しておけよ、■が楽しめないからな」
次回の投稿もお楽しみに
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