強き心 見合う体
お待たせしました
(……)
「…随分と、気難しい顔をしているな。どうした、君の大切な子達に何か重大な危機でも起きたか」
「…いや、そんなことは起きてない、幸いにもな。けど何時そういう連中がまたやって来てもおかしくないのだろう」
「ああ、そうだな」
動かなくなった厄災の巨体の中で語り合う、⬛︎⬛︎⬛︎の体の意志と魔快黎様の心。今はこうして見守ることしか出来ない、ただただその時が来るのを待つしかないという定めを噛み締めながら尚もこうして耐えている。そんな心の様子を伺いつつ、体はなるべく波風を立てないよう気遣いながら語り掛けた。
何しろ魔快黎様の心の強さは侮れない。体の想像を遥かに凌ぎ、限界を強引に超えさせた。世界に厄災を振り撒く⬛︎⬛︎⬛︎の体を、心の強さが凌ぎ、こうして行動不能にさせているのが何よりの証拠。
だが⬛︎⬛︎⬛︎からすれば体を動かせないなどどうと言うことはない。
⬛︎⬛︎⬛︎は存在自体が厄災そのもの。即ち体が石となって動かなくなったところで全世界の厄災が止まるわけではないのだ。
こうして動かなくなったとしても、世界には何ら変わりなく厄災が訪れる。
「俺の敵は…まだいるんだろう? 俺の子達が倒した者達で終わり、じゃあないんだろ?」
「残念ながら、な。君の想像通り、きっとまた来る。俺達に恨みを持ち、憎しみを抱き、これより起こる禍災を止めんとする者達が。俺達と、君の子達を殺そうと来るだろうね」
「…あの者達は俺達を知っていた…そして俺…我が子達さえも殺そうとしている…本気で、だ」
そしてその厄災に見舞われ、厄災そのものに恨みを抱き、厄災を滅さんとする者達が今この時も、ありとあらゆる世界で生まれ続けているのだ。厄災に侵され、本来の形を失い、混沌なる存在へと歪められたあらゆる世界の者達が、元凶である⬛︎⬛︎⬛︎とその子達を討たんとする来訪者となって。
「あの者達の怒り、憎しみ、悲しみなど知って欲しくはなかった。あんな辛い目になど我が子達に遭って欲しくなかった。痛くて辛い想いなど、させたくはなかった。俺だけが背負うべきだったのに…」
名前も知らない、かつて会ったことなど覚えてさえいない。素性など全く知らぬまま自身と自身の子達を殺そうとして来るから、魔快黎様は来訪者達と戦っていた。向けられる憎悪や悪意、何よりも殺意の理由も分からぬまま、ただただ背後にいる家族を守る為に退《しりぞ》けて来たのだ。
だがそれを続けた結果が今、限界を超え過ぎた肉体は全くと動かない。こんな状態で大切な子達などとても守れない。
けれども、
「もうそんなことは言ってられないさ。前に他の世界から厄災の一部達を連れて来て君の子達を守らせたが、強大な力を持った来訪者達によって倒された。君もよく理解っているだろうが、厄災は乗り越えられる、強大な力でな。それこそ君自身の心が持っている力も例外じゃあない」
すでに⬛︎⬛︎⬛︎の体は感じ取っている。
魔快黎様の心と会話を続けている内に、
「これからは更に強くなる、やって来る者達の実力は相当なものになる。なり続ける、と言った方がいいか。そしてその者達はもうすでにそこまで来ている。あの子達が死力を尽くして退《しりぞ》けた者達よりもずっと強く、ずっと躊躇のない者達がな」
次なる来訪者達の存在がすぐ側まで来ているのを。
「俺に祈れ、と? 『俺の子達が無事でありますように』、『俺の子達がその存在達から逃げて逃げて、逃げ延びられるように』と? それとも『やって来る者達が俺の子達を傷付けないまま自分らの世界に帰りますように』とでも祈るのか」
魔快黎様の心はその言葉に対し、またしても我が子達が危険に晒されるのを見守るしか出来ない、自身は何も出来ないとボコボコと怒りを湧き立たせつつ、声を震わせながら返す。まだまだ力のない我が子達の無事を祈れ、動けない自身に代わって今まで以上の強さを持つ来訪者達から我が子達が逃げ延びてくれるよう祈れ、もしくは来訪者達が何もしないことを祈れ、その祈りを叶えてくれる存在がいるのならば魔快黎様は躊躇いなく縋る
「…俺は、祈らない。俺の望みを全部聞き入れて、祈るだけで叶えてくれる。そんな都合のいい存在がいるのか? …仮にいたとして、今後はそいつが動けない俺に代わってあの子達を守り、育てるのか…親として?」
などと言うことはしない。
「あの子達の親は俺だ。俺が親として守らなきゃいけないんだ。誰にも祈らない、祈ってたまるか。あの子達の親は俺だ、俺だけなんだッ、俺しかいないんだ…ッ」
そして
「……俺は、親失格だ。あの子達をずっと不安にさせてる…守れない…ただただ我が子達に『消えないでくれ』と願うしか出来ない……」
親として果たすべきこと、しなければならないことを何1つとて出来ていない。そんな自身は親失格だと魔快黎様は俯き、先程の怒り混じりの声とは打って変わって消え入りそうな声色で言う。
「……たしかにそうだな。我が子達の大事を見守るだけの今の君を親とは呼べないだろう。でも、君の子達の親は、君しかいないんだよ、魔快黎」
「…」
それに対し体はたしかに今の魔快黎様はそう言わざるを得ない、いい親失格と卑下してしまうのも仕方ないと思いつつ、それでも我が子達の親は魔快黎様しかいないのだと返す。他の誰でもない、厄災の一部でもない。
心を持ち、愛を持ち、我が子達に余すことなく与えられるのは魔快黎様しかいないのだと。
「悲観する暇があるなら謝る言葉を考えろ、祈らないと言うのならこれからやって来る者達に負けない自身の姿を考えろッ」
トンッ
「体をもっと使え、体の能力をもっと引き出せ。体よりも強い心なら必ず出来る」
「…」
そして尚も俯き続ける魔快黎様の心にそう語り掛けた。
「体だって不甲斐ないって思ってんだよ。心の力をみくびっていたわけじゃあないけど、想像以上の力に耐え切れなかったのは事実だからな。だからただ治してるだけじゃあない。体だって心の強さに見合うような力を持とうとしてるんだ。その心がへこたれてたらどーするんだよッ」
魔快黎様の心が強くなるならば、⬛︎⬛︎⬛︎の体も同じように強くなる。今の魔快黎様の強さに打ち負かされない強さを持つのだと、告げた。全ては愛を持つ心が守りたい者達を守る為に。その心が望む力を体は手に入れる為に。
「強くなるぞ」
「ああ…ッ」
――
「⬛︎⬛︎⬛︎は動かなくなったそうだが、それに4匹の子供達がいるってぇ?」
「一度行って来た連中曰く強くはないそうだがな。まぁその連中が帰って来ないっつーことは」
「返り討ち、だろ? じょーしき的に考え、て。⬛︎⬛︎⬛︎の子だってんだから油断なんてしねーのが普通だろ、しかもそーゆーのが4匹もいるんだからさ」
「行くか、そんな子供達に加えて⬛︎⬛︎⬛︎まで復活したら溜まったもんじゃあない。あんな理不尽の塊なんざもう二度と相手したくねぇや」
そして別世界では⬛︎⬛︎⬛︎の目の能力によって見られている存在達が、その厄災の子達を討とうと動き出していた。
「そー言って本当は感謝してんだろ? ⬛︎⬛︎⬛︎に」
「貴様もな。⬛︎⬛︎⬛︎に歪められた時はどうすっかと思ったが、この力も結構楽しいからな」
グチャッ■
「ああ、びっくりするくらい楽に殺せる。ま、■達は優しいからな、この力で厄災とその子供達を殺してやろうか」
「ついでにそいつらがいる世界を根城に出来りゃいいな。やっぱ■達の休める場所ってのは欲しい」
目測通り今までより強く、今までよりも残酷な者達が。
両者の周りには倒壊した街並みに無数の肉片と血飛沫がへばり付いていると言う地獄絵図が広がっており、それをやったのが両者であるのを証明するかの如く、談笑する両者の全身は返り血に塗れていた。
この世界に⬛︎⬛︎⬛︎が振り撒いた厄災と混沌はまた新たな厄災を生んだ。
破壊と殺しを楽しむ、殺戮者を。
次回の投稿もお楽しみに
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