創出
お待たせしました
「で、これからどうするんだ其方らは。また別々に、か?」
戦いも終わり一段落、体も皆ある程度回復し終えると、漢妖歌はふとそう問い掛ける。強敵を打ち倒したからこれからは安心して生きていけるというわけではない、今が無事だからこれからも無事というわけでは決してないのだ。
生きていくにはむしろこれから、自分達の生活を自分達で創り出していかねばならない。今まではそれをお母さんが与えてくれたが、今後は自分達だけでどうにかしなくてはいけないのだ。
「どうする…ね。前と同じく全員別々?」
「んぇ~、でもまたあんな連中ぅ~が来ないとも限らないよ。水浘愛と漢妖歌てゃんだって酷い目に遭ったんだしさ」
「前みたく別々というのは反対だ、此方は。あのような敵が今後も現れる可能性も大いにある。悔しいが、此方単独の力ではまだ勝ち切れるだけの自信がない」
以前のようにまた全員別々の道を歩むのかと言う問いかけに、淫夢巫も水浘愛も欄照華も否の反応を示す。何しろ先の戦い、そしてその前の戦いにて嫌という程思い知ったからだ。自分達の非力さと、敵の持つ力の強大さを。
まだまだ勝てない、単独では決して勝てない、今はまだそれだけの力を持っていない。自分達の力を足し合わせても確実な勝利は得られない。若いながらもそう確信出来てしまうだけの実力差を、全員先の戦いで思い知った。
「まあ皆そう言うだろうな。余もその考えはいけんと思うとるところよ。やはり此処は手を貸し合うしかないか」
「異論はない」
「水浘愛もー! 仲良くやろー!」
「結局そうするしかないわね」
ならば力を合わせるしか生きていく方法はない。例え相容れない相手でも、掴みどころがなさそうな者であっても、この世界で自分だけの力で生きていくことが出来ないのならば致し方ないのだ。
「でも、まずはどうするの。生きるったってこんな何もないとこで。まさかこれからは地面に座って生活するとでも?」
「…」
しかしいざ生きると決意してもどうすればいいのか。今自分達の周りを見渡せど、辺りには何もない。ただ果て無い地面と露出した岩肌が広がっているだけの世界。今まではお母さんの腕の中が、お母さんの側にいることが自分達の世界だったが、そのお母さんがいないここは何もない世界。そんな世界でどう生きるのだと淫夢巫は問い掛ける。
「ふん」
バキバキバキ…ッ!
が、それと同時に欄照華はメキメキと自分の脚先の一部を根へと変え、張り巡らせた。そしてその根が地面の中、もしくは奥底に眠る水を吸い上げて力強く根付いたのが分かると、欄照華は地の中から幾つもの木々を芽吹かせる。その芽達は瞬時に茎となり、木の幹となり、互いに絡み合いながら1本の巨木となって全員の目の前に現れた。
「…おお~! 欄照華てゃんしゅごーい」
「地面で眠りたくないと言う奴がいるからな。またビービー文句を言われたら堪ったもんじゃあない」
「むっ…」
「好きに使って構わないが、ごねる者の意見は聞かない。汝達の寝床くらい汝達でどうにかしろ。それが出来るだけの力はある筈だろう」
目の前に巨木を生やした欄照華は、この木にあるものは好きに使っていいものの希望や不平不満は聞き入れないと告げておく。今此処にいる者達には自分の理想や求めるものを自らの手で創り出せるだけの力を持っている筈だろうもと。
自分には出来ている、少なくとも自分にはそれだけの力がある。根を張り、植物を生み出し、此処ら一帯を野原にし、自分が最も住み良いと思える環境を創り出せる。
だが自分だけに出来て他の子達には出来ない、そんなことは決してない筈だ。何しろ自分達は皆お母さんの子、ならば自分だけ出来るなどあり得ない。
欄照華はそのように思っているから、他の子達にそう告げたのである。
にるるっ
「おひょー、ちょーありがとー! 水浘愛は何処でも寝れるからね〜。てかのんびりぃ出来れば何でもいーや〜」
キシキシシュルシュル
「うむ、有り難い。余は手を掛けられるものがあれば特にそれ以上は求めんからの。其方の言う通り、余の安住は余の手で創り出すから迷惑を掛けるよなこたぁせんが」
すると予想通り他の子達はするするとその幹に手を掛けて登って行く。自分が住む場所を確保する為に、自分が生きて行く場所を創り出す為に。それを見て欄照華はほっと安心していると、
「……ありがと」
トンッ
少々遅れて淫夢巫も一言そう言ってから葉の生い茂る巨木の中へふわりと飛んで行く。
「…」
ギギ…ザワザワ…
その言葉に欄照華は返事を返すようなことは特にしないまま、また根を張り巡らせ始める。
次の植物を生み出して自分の住む場所を創り出す為に、自分達が生きて行く世界を此処に創り出す為に。
お母さんが何時帰って来てもいいように、全員が生きてまたお母さんに会えるようにする為に。
――
「……あの子達…」
グギギギ……!
そしてその光景を彼方から自分の『目の能力』を持って見つめる存在がいた。ギリギリと不揃いな歯を軋ませ、自分の爪が手のひらを突き破る程に拳を握って、その子達のことを見つめる目をわなわなと震わせる存在が。
「どうだ。元気にやれてるか、君の子達は」
「……」
そんな者の元、その子達の親の元へまた別の存在が語り掛ける。君の子達は元気かと、生きているのかと。
「……まぁ、うん…。でも…本当はあの場に俺が…俺が1番側にいてやらなきゃいけないのに…」
「そう…か。しかし君も分かっているだろう。まだまだ時間が掛かるってことくらい」
問いかけに対してその親は、魔快黎様は力無くそう返す。自身の子達は確かに生きている、自身の側を離れることになっても、大勢の敵達が今尚生命を狙う状況であっても、懸命に。
「心の強さがこの体にもたらした影響は想像以上に大きいんだ。気持ちは分かるが、今の体を無理に動かしたら存在そのものが消えるかもしれないんだぞ」
「あの子達が助けを求めて…俺にはその声が聞こえる、その姿が見える…。なのに…助けに行くことさえ出来んのか…」
魔快黎様の意識は、心は全くと動かせない体の中で尚も存在しており、自らの能力で常に我が子達のことを見守って来た。しかしそれだけ、それしか出来ない。ただ見守り、精一杯生き延びてくれと懇願することしか出来ないでいる。
本当ならば今すぐにでも、動かないこの体に鞭打ってでも会いに行きたいと魔快黎様は願っている。
けれどもそれは叶わないとも知っている。
心に語り掛けてくる体が伝えた通り、厄災を振り撒くこの体はとうに限界を迎えていることを。
これ以上無理に動かせば自身の体は崩壊し、消えてなくなるということを。
「……」
「大切な我が子達の前で死に逝く様を見せつけたいのか。自分達の目の前で君が、お母さんが消えて無くなる様を見せつけるつもりか。そんな辛く苦しい想いをさせるつもりかッ」
体の言葉に魔快黎様の心はただ拳を握るしか出来ない。五月蝿いと返したところで自身の体が満足に動かせるようになるわけではないと分かっているから、仮に動けても我が子達に辛い想いをさせるだけと理解しているから。
「分かってる…理解かってるよ…でも…これ以上俺の子達を…辛い目に遭わせたくない…」
「そうならない為に体は猛スピードで自身を回復させてる。だから今は我慢しろ、どんなに辛くても、だ。とにかく今は見守り続けろ。そして祈れ、あの子達の無事をな」
そして体も心の想いを汲み取りながらも、必死に動こうとするな、動かそうとするなと心を止めるしかなかった。今の魔快黎様の心には不可能と思えていたことを成し遂げる力が、無理を貫いて道理を破壊する力があるからだ。そうでなければ厄災を振り撒くこの体が動かなくなるまで力を発し続けることなど出来はしない。
我が子達のことを想う力の強さは体の限界など軽く超えさせてしまう。例えその果てに滅亡と破滅があっても、心は決して止まらないのだろう。
(祈る…か。誰に? そういう存在など…俺の代わりなどいない。俺にはあの子達だけだ…! 代わりなどいらん、あの子達は俺が絶対に守るんだ…!)
次回の投稿もお楽しみに
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