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お待たせしました

 ぱちっ…


「……はぁ…」


 目が覚め、頭の中に掛かっている(もや)をふるふると首振って晴らしながら辺りを見回す。


(……寝ていたの、か…。力を使い過ぎたから…その疲れで此方(こなた)は…)


 先程の戦いで自分の力を使い過ぎた代償、それは激しき疲労と眠気となって欄照華(らてすか)の体を襲った。欄照華(らてすか)はその眠気に抗えず、疲労に(まみ)れた体を横たわらせ、ゆっくり(まぶた)を閉じ、眠ってしまったのだ。


 いや、疲労だけではない。


 強敵にして難敵、自分達の生命を奪おうと、殺そうとしていた者達をとうとう撃破出来たのだという安堵。


 その安堵は心に深く、重くのしかかっていた塊を、焦燥感(しょうそうかん)や緊張を取り除いてくれた。


 そうして心が軽くなると同時に激しき心身の疲労に苛まされてしまった欄照華(らてすか)が眠りに就いてしまうのは自然なことと言えるだろう。


淫夢巫(りんぷ)は…何処だ?)


 眠りから目覚め、うつらうつらと再び閉じてしまいそうな(まぶた)(こす)りつつ欄照華(らてすか)は辺りを見回す。側には共に戦ってくれた家族の淫夢巫(りんぷ)がいた筈。


 淫夢巫(りんぷ)もまた自分同様、もしかしたら自分以上に身も心も疲弊(ひへい)し切っている状態かもしれない。何せ淫夢巫(りんぷ)は強さこそあれど自分程の再生能力や耐久力があるとは思えない存在。自分よりもずっと脆く、ずっと壊れやすい存在なのだ。未だ感触の残る手と頭がそれを語っている。


 そう思うや欄照華(らてすか)はいち早く家族の無事を確保しなければと首だけでなく体も(ひね)って辺りを見回す。眠ったことで多少はマシになっているものの、体は未だに疲労と痛みがこびり付いているのだ。



 と、


「……わざわざ…」


 間も無く淫夢巫(りんぷ)の姿が欄照華(らてすか)の目に入る。


 ブワ…ッ


「宙に…か」


 自分の体を自分の力で(おお)い、バリアのような球を自分の周りに作り出してフワリと宙に浮いている淫夢巫(りんぷ)の姿が。欄照華(らてすか)が硬い地面の上で眠っていたとするならば、淫夢巫(りんぷ)は自分が作り出した柔らかいベッドの上で寝ているようなもの。


 メキメキ…バギバギ…


 自分の持つ能力(ちから)によって何本もの木を生やし、根を張り巡らせ、幹を絡ませ合い、頑丈な足場を作り出すと欄照華(らてすか)はそれを伝って宙に浮いている淫夢巫(りんぷ)の元へ向かう。そこにはすうすうと静かに寝息を立てながら心地良さそうに眠る淫夢巫(りんぷ)の姿があった。


「…」

「……ん…」


 今すぐ解決せねばならぬような大きな問題はない、ただ眠っているだけかと欄照華(らてすか)は胸を撫で下ろすのと同時に、淫夢巫(りんぷ)(おもむろ)に目を開く。


「……なんだ、欄照華(らてすか)か…」

「なんだとは、なんだ」

「…ママだったらよかったのにって思っただけ」

「あっそう、ふんっ」


 すると淫夢巫(りんぷ)は一瞬驚いた表情をするも、すぐさま素っ気ない態度でため息を吐きつつそう言った。目覚めた自分のすぐ側にいるのが愛するお母さんではなく欄照華(らてすか)だったなんて、肩を落としながら。その反応に欄照華(らてすか)もふんっと口をへの字に曲げながら木の幹からするすると降り始める。それを見て淫夢巫(りんぷ)も横にしていた体を起こすと、周りを(おお)っていたバリアを解く。


「わざわざ()()()()()を作ってまで此方(こなた)と一緒にいるのが嫌か」

「かもね、貴方がそう思うのなら、そう言うことにしておこうかしら」


 お互い目覚めたばかり、それも未だ疲労や傷が残っている体であるにも関わらず、両者は一触即発の状態であった。ぶつかり合う互いの目線はバチバチと火花を散らし、体は今すぐにでも臨戦体勢に入ろうとしている。


「ま、疲れた体をそんな硬い地面の上に寝かせたくなかったと本音は言っておきましょうか。貴方と私は違うの、私の体は貴方みたく簡単に回復出来ないの。ましてやこんな硬い地面で寝てたら逆に疲れる」

「ああそうか、不便だな」

「貴方を助けたお礼にベッドの1つや2つくらい作ってくれたら良かったのに、ったく私より先に寝るんだから」

「言われなかったからな」


 今はまだお互い口論の領域、両者の間を飛び交うのは言葉だけで済んでいる。だがこの口論が今以上に白熱すれば次第に飛び交うのは言葉でなく打撃になるだろう。現にその予兆としてギギッと互いの腕に力が込められつつある。


「わざわざ私が言わないと分からないの? 貴方は」

(なんじ)の思惑が全て此方(こなた)に伝わっていると思っているのなら大間違いだ」

「…ふーん」


 そして、



「…何だ、()る気か?」

「そうしてもいいかもね」



 飛び交う言葉が少なくなるのと同時に火花の勢いが格段に増し、



 にゅるるっ



「ヤッホー、欄照華(らてすか)てゃんに淫夢巫(りんぷ)てゃーん。元気してるー?」



「「……」」



 突如間に割り込んで来た水によって一瞬で消え去る。



 にゅばっ


「あれっ? 喧嘩おっ始めるとこだったー? 水浘愛(めみあ)邪魔ー?」

「「……別に」」



 水浘愛(めみあ)は両者の間ににゅるにゅると入り込むと互いの顔を行き来しながらそう言った。張り詰めていた空気を易々とぶち壊す水浘愛(めみあ)の態度と表情に欄照華(らてすか)淫夢巫(りんぷ)もすっかり()る気が失せてしまい、体から力が抜けて行ってしまう。

 言われた通り、今まさに淫夢巫(りんぷ)欄照華(らてすか)との喧嘩が勃発しようと言うところであったのに、水浘愛(めみあ)の介入で全て失せた、萎えてしまったのだ。


「おーおー、喧嘩するだけの力があるんなら淫夢巫(りんぷ)欄照華(らてすか)も無事だな。前の其方(そち)らの関係を思うと、其方(そち)らが喧嘩などとても想像出来んわ」

淫夢巫(りんぷ)てゃんほんと強くなったもんねー。昔の泣き虫淫夢巫(りんぷ)てゃんはもーいないって感ずぃ?」


 そんな者達の元へ漢妖歌(かんよう)も合流し、会話に入り込む。両者が一度(ひとたび)相見(あいまみ)えれば高確率で喧嘩が勃発することを知っている為、両者の間に割り込んで引き剥がすようにしながら。それにしても一昔前までは両者が喧嘩するなどとても想像出来ないと言って。


「まぁね。お陰様で。主に、ね」

此方(こなた)所為(せい)だと」


 戦うのが萎えた淫夢巫(りんぷ)欄照華(らてすか)は再び言葉を飛び交わせ始める。とは言えど先程よりも鋭さも勢いもずっとないが。


「いや間違いなく淫夢巫(りんぷ)てゃんが強くなったのは欄照華(らてすか)てゃんの所為(せい)だよ。だって水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)てゃんはいじめてないもん

「うむ」

「ぐ…」

「しょっちゅう殴って泣かせてたじゃん。今だから言うけど欄照華(らてすか)てゃんのこと止めるの大変だったんだからねっ」


 更に水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)が会話を続けることで完全に両者の戦意を鎮火した。水浘愛はただ面白がって絡んでいるだけかもしれないが、少なくとも漢妖歌(かんよう)は両者の間に起こり兼ねない争いを止めんとしている。何しろ今の淫夢巫(りんぷ)欄照華(らてすか)は今までと比べて相当強くなっているのだから。果たして今の自分と水浘愛(めみあ)で両者の力を止められるのだろうかと漢妖歌(かんよう)は危惧していたのだ。

 

 そうして漢妖歌(かんよう)水浘愛(めみあ)は対話を続けることで何とか両者の戦意を削ぐことが出来た。自分らの生命を狙う者達との戦いとも一旦は落ち着き、久しぶりに自分ら家族だけの時を、安らげる時を過ごせるようになったのだ。

 しかしこの安らぎは何時まで続くのか、あのような強敵達はまだまだ現れるなだろうか。


 自分達のお母さんが帰って来るのは何時か。


 安らぎの時を過ごしながらも厄災の子達にはまだ不安と死が(まと)わり付いめいる。




「でもさー、ことある度にビービー泣き喚く淫夢巫(りんぷ)てゃんも…正直面倒だったなぁ…」

「はい?」

「はんっ」

「ぬぉおいっ」

次回の投稿もお楽しみに



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