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味方かと…

お待たせしました

 キキキキ…


「わわわっ。なだコリャ…」


 突如現れ、自分と漢妖歌(かんよう)の周りを取り囲む巨体の持ち主。逃げる暇などなくあっという間に囲まれてしまった水浘愛(めみあ)はまさか次なる敵の出現かとアワアワ慌てながらも、疲弊(ひへい)し、傷付き過ぎている漢妖歌(かんよう)のことをぎゅうと更に抱き寄せた。背負っているが故両手が完全に塞がってしまっている状況だが、決してこれ以上漢妖歌(かんよう)のことを傷つけさせてなるものかと水浘愛(めみあ)は何とか身構える。

 幸いにも再生が早い水浘愛(めみあ)の体は多少なりとも戦えるだけの力を取り戻している為、巨体の持ち主が攻撃して来ようものならば背負っている漢妖歌(かんよう)だけは守り抜けるかもしれない。

 最悪自分の身が全て削り落とされることになるかもしれないが、それでも漢妖歌(かんよう)を守り切ってやると何とか心を沸き立たせて。



「……」

「……」



 が、


「って…ん…? んん…?」



 しかしその巨体の持ち主は自分達に襲い掛かって来る様子もなければ戦おうという気配もない。それどころか(かたわ)らに抱えている漢妖歌(かんよう)のことを気に掛けるように、安否を心配するように寄り添おうとして来る。


 漢妖歌(かんよう)程ではないものの水浘愛(めみあ)もまた体力をかなり消耗してしまっているのだ。加えて強敵を辛くも退(しりぞ)けた直前の出来事。当然現れた巨体の持ち主を相手に警戒しないわけがない。



 だがよく見れば、



「ありりっ。もしや…」



 見覚えのあるその巨体からは見覚えのある腕が生えている。


 そう、先程の戦いで漢妖歌(かんよう)の側にいて、共に戦ってくれた大百足だ。


 大百足はカチカチと牙を鳴らし、キシキシと体の節目から音を立てながら、大百足は至る箇所から体液を吹き出す漢妖歌(かんよう)の側へ頭を伸ばす。


 そして大百足は未だ呼吸が整わない漢妖歌(かんよう)のことを、


 ちゅろっ…


「…っ」


 優しく、丁寧に、子供をあやすかのように体液を舐め取り、傷口を(いや)し始めた。よく見ずとも大百足の頭には太く(たくま)しい大顎(おおあご)が生えている、来訪者の体を貫いた毒牙が。しかし大百足はそれらを突き立てるどころか、先端からも少量の猛毒を(にじ)ませることもせず、口だけで漢妖歌(かんよう)の傷跡を舐め続ける。


「ほふーん、水浘愛(めみあ)も手伝いますー」


 その様子に自分も補佐しようと水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)を静かに下ろし、液状の体を傷口へと染み込ませた。欄照華(らてすか)淫夢巫(りんぷ)が傷付いた時にもやったように、傷付いた漢妖歌(かんよう)の体の隅々に自分の体を行き渡らせ、(いや)していく。


 大百足も自分の大顎の先から分泌される液体を丁寧かつ的確に漢妖歌(かんよう)の傷口に塗り込む。すると大百足の液体は傷口に張り付き、塞ぎ、体液がこれ以上体外へ流れ出すのを防いだ。


 キシキシ…


 にゅるにゅろ


 そうして漢妖歌(かんよう)の体は完全にとは言わずとも、大百足と水浘愛(めみあ)の尽力によって戦闘終了直後と比べれば格段に良くなっていた。未だに気を失ったままではいるものの、漢妖歌(かんよう)の顔色もずっと良くなっている。


「ふぅ…だいぶちっちゃくなっちったなー」

「…」

「でもありがとー。漢妖歌(かんよう)てゃんのこと助けてくれてー。さっきの戦いでも手を貸してくれたしね」


 そんな漢妖歌(かんよう)を見て一先ず大事には至らないかと判断した水浘愛(めみあ)はホッと胸を撫で下ろす。見れば傷を(いや)すのに使われたその体は先程よりもずっと小さくなってしまっており、元の大きさの半分程度しかなくなっていた。だが水浘愛(めみあ)は自分の身などとんと気にせず、自分と共に家族のことを助けてくれた大百足の方を振り向いて尋ねる。



「それで? ゆーは何者っ。味方だってことは何となく分かるんだけどさ、そもそも何で助けてくれたん? 漢妖歌(かんよう)てゃんのこともずっと心配してる感じだったすぃ…」

「……」



 先の戦いでも、今の治療でもこの大百足はずっと自分達の味方でいてくれた。けれども何故味方でいてくれるのか、一体どんな目的で助けてくれたのか、大百足は何者であるのか、ある程度落ち着いた今だからこそ水浘愛(めみあ)は大百足に尋ねる。

 すると大百足は静かに自分の体をくねらせると同時に体から生える手でちょいちょいとあるところを指差す。カチカチと大顎を鳴らし、ギシギシと体の節々から音を立てることしか出来ない大百足は体の動きで意思を表明するしかないからだ。


 その指差したところには、


「あるぇ…これって…漢妖歌(かんよう)てゃんの手が生えてるのと同じ…?」


 漢妖歌(かんよう)の手が生えている空間と全く同じ空間が広がっていた。幼き頃からずっと漢妖歌(かんよう)の周りには何処に繋がっているのか分からないこの空間がずっとあり、そこから何本もの漢妖歌(かんよう)が自在に動かせは手が生えているのだ。


 つまりこの大百足もその手と同じく漢妖歌(かんよう)の周りにある空間から生えているもの、


「…つまり…漢妖歌(かんよう)てゃんの体の一部ってことか…合ってる?」


 いや、漢妖歌(かんよう)の体の一部がその空間から現れていると考えるべきだろう。こうして一部だけ表に出て来て、傷付いた漢妖歌(かんよう)のことを大百足が、漢妖歌(かんよう)自身が(いや)しているのだ。

 水浘愛(めみあ)は自分の中で立てた仮説を大百足にそう問い掛けると、


「…」


 コクンッ


 大百足は(うなず)きつつ漢妖歌(かんよう)のことを無数の手の内の幾つかを使って抱き抱えると、優しく水浘愛(めみあ)の方へ受け渡す。


「…」


 ギギギ…


漢妖歌(かんよう)てゃんは任せた…って? ずっとは出ていられないの?」

「…」


 コクンッ


 これ以上はもう出ていられないと言うかのように。


「やっぱり…漢妖歌(かんよう)てゃんが弱ってると…ゆーも弱っちゃう? だいぶ無理してくれてた?」

「…」


 コクンッ


 水浘愛(めみあ)の問いかけに大百足は静かに(うなず)く。よく見ればその表情は何処となく辛そうで、叶うのならば早く空間の中に戻って行きたそうだ。

 

 大百足と漢妖歌(かんよう)は繋がっている、密接な関係にある。

 漢妖歌(かんよう)が弱り果てれば大百足も当然弱り、漢妖歌(かんよう)が死んでしまえば大百足も同じく死んでしまうのだ。こうして一部だけ表に出て助けに来るのも大百足にとっても、傷付いた漢妖歌(かんよう)にとっても本来はかなりの負担を強いるもの。しかしそうしなければ今以上に大事になってしまうから、無理を忍んで自分の体を、漢妖歌(かんよう)の体を(いや)してくれたのだ。


 だがその時間もいよいよ終わり。大百足は自分の体である漢妖歌(かんよう)にこれ以上負担を強いないために、その体の安否を水浘愛(めみあ)に託さねばならない。


「…」


 ギギ…


漢妖歌(かんよう)てゃんのことは、後のことは任せたってぇ? おうともよ、水浘愛(めみあ)欄照華(らてすか)てゃんと淫夢巫(りんぷ)てゃんにどどんと任せとけぃっ」


 水浘愛(めみあ)は自分に向かって伸びる腕を、そこにいる漢妖歌(かんよう)のことをしかと受け止めると、後のことは自分達に任せておけと胸を張って言い放つ。その言葉に大百足も安心し、辛そうな表情から一転して安堵する表情となると、そのままするすると空間の中へと消えていった。


 そして大百足の体が完全に消えるのと同時に、その空間は音もなく閉じる。



「…はふ〜。さぁってと、欄照華(りんぷ)てゃんと淫夢巫(りんぷ)てゃんのとこに行きますかー。とっ、その前に大っきくなっておきたいな」

次回の投稿もお楽しみに



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