変化は成長
お待たせしました
腹の中で成長し、膨らんでいたものから純粋無垢にして純白な塊。
4つに分けられたその塊から、姿の異なる4つの物。
異なる4つの物から、名前の付けられた者達へと。
その者達は魔快黎様の手によって形だけでなく存在そのものを変えられて行く。
しかしどんなに変わろうとも、生まれた者達はもたらされる変化を恐れない。魔快黎様が自身達の存在をその手で変えようとも、畏怖しない。
むしろ自身に変化をもたらすその手を、自身達がママと呼ぶ者の手を、その子達は求めているようだった。
ぎゅぅ…
「おっと。どうした、水浘愛」
「べつにぃ〜。えへへ」
いや手だけじゃあない。
「甘えたくなったのか」
「ん」
「はいはい」
体全てを、飛び込んでも安心して自身を受け止めてくれる大らかで優しき体を、その子達は求めている。水浘愛はにゅるにゅると形の定まらない液状の体で近づき、足元から巻き付くように魔快黎様の体に登ると、右頬にすりすりと甘えるように擦り寄って来た。そんな水浘愛の頭を魔快黎様はよしよしと右手で撫でてあげると、えへへ〜っと満足げに水浘愛は頬を緩ませる。
「ママのことすきぃ〜。でも、まえのママもすきだよぉ〜。いまのママもすきだけど」
「ハハ、前の姿、ねぇ。別になってもいいけど、淫夢巫が怖がっちゃうからなぁ。またあの子のことを泣かせるわけにはいかないよ」
「ぷぅ〜」
ねてゅ
しかし水浘愛は甘えながらも、縮んでしまった今の魔快黎様の御体よりも、1番初めの⬛︎⬛︎⬛︎の体も好きだと口にする。今もそうであることに変わりはないが、魔快黎様は元々世界に厄災を振り撒き、時空を侵食し、有なる存在を混沌へと上書きし、その混沌を喰い物とする恐ろしき存在。
そんな存在であった状態から、変身を繰り返して禍々しさを極力取り除き、成ったのが今の魔快黎様の御姿である。そして魔快黎様の子である淫夢巫が怖くて泣かない姿でもあった。
水浘愛や漢妖歌は恐ろしき⬛︎⬛︎⬛︎の姿を見ても面白い面白いと嬉々しており、欄照華に至っては一切動じていなかった。つまり、言ってしまえばこの姿は泣き虫な子だけのための御姿である。
(それにあの姿に戻るとしばらく、この姿には戻れなくなるからなぁ。それにまだちょっとした弾みで変身が解けてしまう状態だし)
けれども元の⬛︎⬛︎⬛︎の姿にならない理由は他にもある。それはまだ魔快黎様が完全にこの変身状態を常に保ち続けることが出来ないから、であった。ちょっとした弾みや生まれた感情の昂りによってすぐさま魔快黎様は⬛︎⬛︎⬛︎の御姿になってしまう。例え完全に戻らなくとも、禍々しさ溢れつつある姿となってしまうのは間違いない。
胸の中に芽生えた感情や心は変わることなないため、あくまでも見た目が変わったと言うだけだが、しかし子にとってはそれが重要であると魔快黎様は考えていた。
が、
「…ぷひゅ〜」
「……」
愛しい子供が他の子を泣かせてしまう程の禍々しく恐ろしい⬛︎⬛︎⬛︎の姿を望んでいるのならば、
「…仕方ないな。特別だぞ」
「わっほぉ〜っい! ママだいすき〜!」
少しくらいならば大丈夫、どんな姿になっても自分自身は決して変わることはないと思いつつ、
「しっかり捕まっていなさい」
「うんっ」
ズルリ…⬛︎
ズ⬛︎⬛︎…
「わはー!」
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
魔快黎様は⬛︎⬛︎⬛︎の御姿に成る。いや、戻って行く。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「うっひょほぉい! たかいたかぁい!」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
(落ちないように見てなきゃな…。それと…)
が、そんな禍々しさと恐ろしさ満ち満ちる体になっても水浘愛は一切畏怖することなく、むしろ大きくなった体に登り、模様の入っている頭の上に乗っかることで混沌する世界が一望出来ると、きゃっきゃきゃっきゃ笑いながら喜んでさえいた。
そして元の姿になっても心は変わらない⬛︎⬛︎⬛︎様は自身の体によじ登り、うにょんうにょんと体の形を変えながらその上ではしゃぎまくる水浘愛のことを無数にある目の内の幾つかを持って見守り続け、万が一に備えている。一応水浘愛の体は流水の如くさらさらとしたものであるのと同時に、ねとねとと粘性が強く貼り付くことも出来るため、落下するような事態にはならないと思いつつも、しかし親であるが故かどうしても子の心配はしてしまう。
⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎
更に⬛︎⬛︎⬛︎様は同時に辺りと、子達のことを見守り、見遣った。かつてありとあらゆる異世界を千里眼の如く覗くことが出来ていだ目は今尚健在であるため、それを持って水浘愛のことを見守りつつ、他の子達のことも見ることが出来るのだ。
すると案の定、
「……!」
カタカタ…
畏怖し、肩を振るわせ、歯をカチカチと鳴らす淫夢巫の姿が見える。
けれども、どんなに恐ろしい姿を見ても、前のようにわんわんと大声を出して泣くようなことはしなかった。
それはあまりにも大声を出して泣くと、もう1つ淫夢巫にとって恐ろしい存在である欄照華が五月蝿いと言って来るから…と言うのもあるだろう。
が、
「おるよ、そばにな」
ぎゅ…ぎゅぎゅ…
「……ん」
それら以上に、安心出来る理由があった。漢妖歌と言うお母さん程じゃあないが安心感のある存在が側にいてくれる、今の淫夢巫にとってそれは本当に心休まることであった。
幾つもの手で守るように包み込んでくれる。恐ろしいものを見ぬよう目を覆って隠してくれる。
漢妖歌の無数の手は淫夢巫にとって非常に安心出来るものであったのだ。そして同時に、
「かんよう」
「…!」
「らてすか、もうりんぷをいじめるのはやめよ」
「いじめる、そんなことはしてない。なんじが、りんぷがすぐなくのがわるいんだ」
欄照華からも守ってくれる、と淫夢巫は安堵していた。恐ろしい存在に涙目になり、今にも泣きそうな表情を浮かべてはいるものの、必死に淫夢巫は盾にするように漢妖歌の背後に隠れている。
されどその弱さが、すぐに泣くと言うひ弱さが欄照華にとっては癪に障り、鬱陶しく感じられるようで、イライラと表情を険しくしながら近づいて来る。
「かんよう、どけ」
「……ヒ」
「ことわる」
淫夢巫はその恐ろしさに声を漏らしながら漢妖歌の背後にささっと隠れ、漢妖歌はそんな淫夢巫の盾となり、壁となるかの如く手を広げて抵抗した。
ザワザワザワ…
そんな淫夢巫と漢妖歌に欄照華はザワザワと何か強大な力を溢れさせながら間合いを詰めて行く。どんな力が溢れ、漲っているのかは分からないが、しかし明らかに泣き虫な淫夢巫とそれを庇おうとしている漢妖歌に敵意を抱いているのは間違いないようだ。
「ならちからづくでも…!」
ギリギリギリ……
そして欄照華はギリギリと軋み、音が鳴る程に硬く拳を握りながら淫夢巫と漢妖歌に飛び掛かろうとする。
⬛︎⬛︎⬛︎ッ!!!
「む!?」
「んおっ!」
「わっ…」
が、すんでのところで、
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
顛末を見ていた⬛︎⬛︎⬛︎の体の一部が争いを止め、それぞれの体を背後からバッと抱き締めた。一見するとその一部の形は魔快黎様のようだが、ところどころ柔らかく膨らんでいるため、身を預けるとむにゅりと包み込んでくれる。顔に見える部分も魔快黎様のものとは違っており、長き髪が顔の大半を覆っていた。はっきりと見えるのも、ばっくりと大きく裂けて牙を覗かせる口だけ。
その口から⬛︎⬛︎⬛︎の体の一部はグシャグシャと聞き取れない声で子達のことを止める。どうやらやめなさいと言っているようだ。
「…ふんっ」
「ほっ…」
「……ママ」
欄照華も漢妖歌も淫夢巫もそんなお母さんの言葉に落ち着きを見せ、その場の争いを止める。
が、
「……」
(どうして…あんなやつのこと…)
ギリギリギリ…
「…」
(欄照華…一体何を考えてる…これは一度話す必要があるかなぁ)
お母さんに抱き抱えられながらも欄照華はむすぅっと頬を膨らませ、不満な様子を見せていた。そんな欄照華に⬛︎⬛︎⬛︎様は不思議がりながら、何とか真意を聞き出さなくてはならないかもしれないと考える。
次回の投稿もお楽しみに
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