感じ取れぬ疲労
お待たせしました
ボッグァシャァァ……
「ひゅぅ…ひゅぅ……」
「大丈夫ー?」
ボス…ブス……
叩き込まれた猛毒によって肉体が腐るように消え行く敵。その様を漢妖歌は息を荒く吐き、ぺたんと地面に腰を落としてしまいながらも見つめていた。意識も今ひとつはっきりしておらず、じゅくじゅくと無くなっていく腕の感覚がぼんやりとあるだけだった。
そんな漢妖歌の側に反撃と撃破の起点となった水浘愛がにょろんと駆け寄り、覗き込みながら顔色を伺う。
「……水浘愛か。ああ…大丈夫…ふっ…くっ……大丈夫…っ」
「本当に大丈夫だってんなら、んな反応しないって。ほら立って、頑張って」
にょり
「ッ……うぉっ……」
しかし漢妖歌の目は虚なまま。水浘愛の方を振り向いてこそすれ、見当違いの方を見つめているようにしか見えない。先程の打撃で持てる力の全てを、いや無理に引き起こした限界以上の力さえも使い果たしてしまった今の漢妖歌には微かに指を動かすことさえ出来ないのであろう。
水浘愛は疲れ果ててしまった漢妖歌の脇下に腕を通し、後ろからにょんっと少し持ち上げると、
「なら運んだげるっ。ワガママでしょーがない漢妖歌てゃんのために優すぃーとな水浘愛が体を貸してあげて進ぜよう」
流体の体を変形させ、その股下を潜って移動する。そして前に倒れようとする漢妖歌のことを受け止め、自分の背中におぶった。
「…すまんな」
「どってことないよぉー。それに漢妖歌てゃんがいなかったら危なかったからね。水浘愛だけじゃあ絶対勝てなかったよぅ」
「そりゃ余の言葉でもあるわ…。ハァ…水浘愛の策がなければ決してあの拳は届かんかっただろ…ぅ……」
「無理に喋んないー、今は回復に努めてー。水浘愛も力貸したげるからー」
背中を通じて分かる、漢妖歌の体に全くと力が入っていない様子。喋ることは出来ているこそすれ、その声色は弱々しく、掠れている。ゼェゼェと荒く呼吸することさえ出来ていない、むしろこひゅぅこひゅぅと弱く小さく息をするので精一杯な状態の漢妖歌は、かなり弱り果ててしまっているのだ。
来訪者の攻撃を受け続けながら、自分の体ごと壊してしまう程の猛毒によって攻撃を放ち続けた。しかも一度はボロボロに敗北し、命辛々逃げ出さざるを得ない程の相手に。
「ふぅ……く……」
「……」
(本当に大丈夫…じゃあないなこりゃ。何とか漢妖歌てゃんを回復させないと…大変なことになっちゃうぞ)
水浘愛はおぶさりながら漢妖歌も気が付いていない、もしくは気が付くことさえ出来ない程の激しい心身疲労を漢妖歌が負っていると感じ取る。
にゅぶぶぶぶっ
「とりまーこれ飲んでっ。水浘愛が前にあげたのと一緒のやつー。んんまっ、飲めなくても飲ませるんだけどぅー」
自分の体の一部を回復の液体へと変えるのと同時に、腹から伸ばした管を漢妖歌の口元へと伸ばすと水浘愛はツポッと半ば強引に咥えさせた。抵抗する力さえ残っていない漢妖歌はされるがまま水浘愛の管を受け入れ、ちゅるちゅると自分の喉奥へと通していく。
その管は腹の中に辿り着くのと同時にびたっと内肉にへばり付くと、びゅくんびゅくんと細かな体液が通う管に直接回復の液体を送り込む。
「息は出来るから安心してねー。無理ない程度にゆっくり飲ませたげるからー」
「……すぅ…はぁ……ふぅ……ふぁ……ねむ…でも…いてて…痛みと眠気がぁ…一緒くたに…」
「寝る? 寝ていいよー、てかむしろ寝ろ。寝てくれた方が水浘愛助かる」
「……なら…そうさせてもら……ぅ……」
すると体が少しずつ回復して来たお陰か、感じられなかった痛みと疲労を漢妖歌は自覚し始め、表情を曇らせていく。が、同時に水浘愛から貰った液体によって体が癒えていき、治癒に努めようともしているため、激しき眠気にも苛まされる。
痛む体と重たくなる瞼。次の瞬間にはもう漢妖歌の意識は微睡の中へと落ちていく。
「すぅ……ふぅ……」
「お疲れ様。んと、ありがと」
自分の背中におぶられ、口には差し込まれた管を咥えたまま寝息を立て始める漢妖歌。
「……」
完全に自分の背に体を預け、安心して眠っている。そんな漢妖歌の姿に水浘愛はふとかつての光景と温もりを思い出しながら、
「……ママ」
遥か遠く、今立っている場所からはほんの一部だけしか見えないお母さんの姿を見つめた。
少し前までのこと? いやずっと昔のことかもしれない。
今までは自分達がお母さんの背中におぶさり、お母さんの体に乗っかり、お母さんに抱えられていた。
だが今は違う。そのお母さんは今動けない、自分達のことを守ることは出来ないのだから。自分達を守るために力を使い、自分達を守り抜いてくれたお母さんは全く動かない状態。抱き付くと柔らかく受け止めてくれた体は岩のように硬くなり、話し掛ければ優しき声色で返事をしてくれたのに今となっては何も返って来ない、あんなに自分達を見つめてくれた眼差しももう全く感じられない。
「ママも…こんな感じだったの? 漢妖歌てゃんを抱いてると、こーゆー温かさを感じてたの?」
反応なんて返って来ない、語り掛けたところで決して。元より一部しか見えないくらい遠くから話し掛けたところで、その言葉が届くわけもないのだが。
「…帰って来るんだよね…。いつかきっとまた…笑って帰って来てくれるよね…ママ。帰って来たら聞きたいことたっくさんあるんだし、たっくさん甘えたいんだからっ。だから….戻って来てくれたら…いいなぁ…」
けれども水浘愛は届かない言葉をひたすらお母さんに、ピクリとも動かない⬛︎⬛︎⬛︎の体に、魔快黎様へと投げ掛け続ける。
キシキシキキキ……
「んぉっととと? 何だ何だ何だ?」
と、そんな物憂げに耽る水浘愛のすぐ側をすり抜け、周りを取り囲むように蠢く影が1つ。
次回の投稿もお楽しみに
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