死ぬやもしれぬ戦い
お待たせしました
始まった死闘。第2回戦と言わんばかりに迫る敵は若き者達が相手でも容赦無く、力の限り襲い来る。
そして漢妖歌にとっては再び相見える存在でもあった。その際には腕のほとんどを失いながら命辛々逃げ延びるという苦い結果であったが、しかし今こうして再戦に臨む漢妖歌の目は決して恐怖や臆病風に吹かれてはいない。
「勝算ないのにどやって勝つ」
ビャッ■!!!
「んッ!?」
されど勝敗に至っては別。抑え切れない殺意を躊躇いも容赦もなく全て表に剥き出しているかの如く、来訪者の攻撃が両者に牙を剥く。
最初に来訪者の攻撃を受けたのは水浘愛の方であり、勢いよく振るわれた長き爪によってその顔が4つに切り裂かれた。そして裂かれた水浘愛の頭はズルリと切断面から崩れ落ち、地面にどちゃどちゃと音を立てて零れ落ちる。
べちゃっ
「…やはり手応えがない。■む…なるほど、貴様の体は随分他と違うらしい■」
しかし来訪者は全くと手応えを感じておらず、やはりこの子は他と違う体の構造をしていると改めて思い知った。すぐ隣には首から上を失い、ずるずると溶けるように体の形が崩れていく水浘愛の姿があると言うのに。
「貴様はどうだ? もしや貴様も■の爪が効かなかったりするか■?」
と、次の瞬間来訪者はくるりと漢妖歌の方を振り向き、ギラッと爪を怪しく輝かせる。今は手応えのない水のような体をした子を殺す方法を考えるよりも、大百足の体を持った子を殺す方がいいと考えて。
「残念ながら、余の体は水浘愛と違うて千切れる。其方が余にやったように、な」
「ほほう、それは安心した。つまり■の爪で貴様を八つ裂きにして殺すことは出来るというわけか■。よかったよかった」
来訪者の問いかけに対して漢妖歌はたしかに自分の体は水浘愛とまるで違う、切り裂かれれば手応えは十分に感じられるだろうし、バラバラに千切られれば大きく負傷すると正直に答える。実際に以前見えた時に、漢妖歌は当時動かせていた手足のほとんどを千切られ、かなりの痛手を負ったのだ。
それこそその時の激痛と辛さは今でも明確に思い起こせる程。
されど、
「否…それは出来ん。余は死なん…。殺されなどせん、其方にはなッ」
「…強がりか? ■それならば止めておけ、ただ苦しみ悶えながら死ぬだけ■ぞ」
漢妖歌は牙を剥かれ、爪を突きつけられし相手に依然全くと気圧されることなく、むしろ1歩、また1歩と前に出ながらそう言い放つ。自分は死なない、決して殺されなどしない、と。
「余は…余は、死なぬッ。再びママに会いしその時まではッ。そして其方なんぞに殺されなどせんッ! 余はママの子なのだからッ!」
「…■ならば■ねッ!!」
ビャウッ■!!
瞬間、来訪者の手が超速で漢妖歌に向かって伸び、鋭利な爪がその体目掛けて襲い掛かる。かわすことなど容易ではない速度、どれ程体を捻ってかわそうとしても必ずや体の何処かは切り裂かれる軌道。後ろに飛んで間合いを取ろうとしても一瞬で追い付かれるのは明白。
そんな爪、もとい刃を前に漢妖歌は、
(元より無傷で済むとは思うておらん…ッ! 被弾は覚悟の上よッ!)
ギシッと歯を噛み潰しながら身を捻りつつ前進を続けた。元より後退などする気は更々ない。この敵を前に今すべきことは前進あるのみと漢妖歌は立ち向かっていく。
ズ……ッ!!!
次の瞬間、来訪者の爪が身を捻った漢妖歌の右腕の付け根、横腹のすぐ上に当たる。
が、
ギシュッ……!!
(腕を切らせ…!)
漢妖歌は歯を喰い縛って切り裂かれる激痛に耐えながらすぐ側にある世界にいる大百足を来訪者のすぐ足元に這わせ、そして、
ズブァッ!!!
「命を断つッ!!」
ドヒァ!!
「■■!!」
爪を喰らうのと同時に、その大百足の巨大な毒顎を放った。毒顎は先程の毒尾と比べてかなり大きく、毒なんぞなくとも並大抵の獲物ならば容易く刺し殺せる程であった。少なくとも来訪者に喰らわせることが出来ればかなりの痛手を負わせられることは確実。ましてやそこに猛毒が加われば、来訪者とて決してただでは済まない筈だろう。
ブシャァ!!!
ガギャッ!!!
そして漢妖歌の右腕が空を舞うのと同時に、来訪者の体に大百足の毒顎が炸裂する。
ドドッ!!
「……ッ」
ギギギ…!!
「■…ほぅ■…」
地面を勢いよく転がる漢妖歌の右腕。いや、右腕だけでなく右横原から首の付け根辺りまでバックリと切られている。当然そこからは大量の体液が吹き出し、地面を真っ赤に染め上げていく。
対して毒顎を放たれた来訪者の方は、
「まぁ、何とも分かりやすい■。こんなことだろうと思っていた■」
ガギッ!!
異形の体から生えし手によってその顎を受け止めていた。もちろん猛毒は疎か、顎さえも喰らっていない。大百足の猛毒は顎全体からではなく先端部分からしか出ないため、そこの部分に触れなければただの鋭利な牙だ。
「うぐっ……! ぐっ……!」
グシッ……!
「おっ…? ■ほう、その程度の力で■は止められんとまだ分からんのか」
ボタタ……ッ
だが漢妖歌は残った右手で来訪者の爪を握り、これ以上切り裂かれてたまるかとその動きを止めようとする。捨て身の攻撃が決まらなかった今、出来ることは来訪者の次なる攻撃を止めることしか出来ない。表に出した大百足は反撃を喰らわぬ内にすぐ側の世界へと引っ込めて。
当然握っているのは自分の体など容易く切り裂ける刃そのもの。それを力強く握れば手のひらや指は切れ、そこから体液が滴り始める。
しかしそれでも来訪者の持つ力には到底敵わず、来訪者が少し力を入れるだけで、受け止めている漢妖歌の手は押されていく。
「貴様は絶対に勝てない。■がその気になれば、貴様を今すぐ八つ裂きにだって出来るんだからな■」
ズブ…!!
「が…ぁぁあ!」
「恨むのなら、貴様を産んだ⬛︎⬛︎⬛︎のことを恨むんだな。⬛︎⬛︎⬛︎が貴様を産まなければ、貴様はこんな痛い想いなんぞしなかった。貴様は産まれた時から、死ななきゃいけない存在なんだよ」
今度は左肩からじわじわと来訪者の爪が喰い込み、漢妖歌の体を裂き始めた。漢妖歌は尚も懸命に止めようとするが、しかし来訪者の力にはまるで勝てず、ビュルビュルと体液を吹き出しながら切り裂かれるのを待つしかない。
それから間も無く来訪者の爪が胸元まで下り、とうとう漢妖歌の全身が血に塗れる。ついに死ぬのも時間の問題、このまま放置しても死ぬのは目に見えていると誰もが確信出来てしまう状況。
ブシャァア……
「フッ……カッ……カカカッ…」
「■■?」
が、
「カーッカッカッカッ!」
「…何■? 気でも狂ったか■?」
突然漢妖歌はカラカラと笑いだす。死ぬ寸前、死は明白である状況にも関わらず。
その様子に来訪者も思わず表情を固めてしまい、まさか死への恐怖で気でも狂ったのかと訝しんでしまう。
けれども、
「いやはや…全て…余の策通りよッ! 其方に余の毒顎が止められるんも…なッ! そして…こうして…受け止めとるのも…!」
「…■■!?」
漢妖歌は笑いながら全て自分の策略通りであると言い放つ。自分の攻撃が受け止められるのも、自分の体が切り裂かれるのも、全て。
そして、
「今だぁ! やれぇえ! 水浘愛ぁッ!!」
爪を押さえ込みながら背後にいる水浘愛に向かって高らかにそう叫んだ。
「何■■!!?」
ガバ■!!
すかさず来訪者は背後を振り向き、先程自分が切り裂いた水浘愛の方を振り向く。まさか自分の知らない内にこのガキ共は策を練っていたのか、あの手応えのなさはやはり本当であったのか、一体どんな攻撃が飛んで来るのだ、と焦りながら。
にゅろ…
にゅるる…
「え? いや、まだ再生中なんですけど…」
「……■……■……は?」
次の瞬間、
「かかったな」
ドヒァッ!!!
ガブァッッ!!!
漢妖歌の大百足の毒顎が、一切防御されてない来訪者の体に深々と突き刺さる。
次回の投稿もお楽しみに
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