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勝たねば

お待たせしました

 ビチャチャッ!!


「…」


「…ん? む■…?」


 来訪者の一撃は瞬時に水浘愛(めみあ)の首から上を消し飛ばし、辺りに破片を散らばせる。まさに即死の一撃、首から上を吹っ飛ばされた水浘愛(めみあ)の体はゆらゆらと静かに揺れていた。


 されど来訪者は今ひとつと言った表情であり、(いぶか)しみながら自分の拳と水浘愛(めみあ)を交互に見ている。



 感触が全くとない、自分の目の前ではたしかに死んでいる筈の(かたき)がいるのに。


 殴り飛ばした事実はあるのに、その感触が手の中にまるでないのだ。



 何とも不可思議な状況。順序が逆であるのならば、感触はあるが事実はないと言う状況ならば、まだ納得することは出来ただろう。そんな事態に来訪者は不思議だと言う表情を浮かべていると、


 もちっ…


「ん…ん〜…しょっと」


 むにゃっ


「…ほう。なるほど■」


 すぐ目の前で揺れていた水浘愛(めみあ)の体が動き出し、吹き飛んだ首の断面がむににっと震えると同時に、頭が瞬時に再生する。そこには傷跡も後遺症もなく、完全に元の水浘愛(めみあ)の頭であった。

 幼い頃から備わりし凄まじい再生能力。しかも粘性のある液状の体は来訪者の攻撃のほとんどを受け流しており、ダメージもまるで受けていないと言った様子だ。


「体の造りがそっちのガキとは違うのか。固体ではなく液体、■の攻撃も全て受け流してしまう、と。これは考え物だな」


「ふふん」

「気を付けぃ。彼奴(あやつ)もすぐに次なる手を打って来るわ」


 しかし自分の攻撃が効かなかった謎をすぐに解いた来訪者はすぐに表情を切り替え、次なる攻撃の手を放とうとして来る。打撃が通じない相手に対抗する手段くらい持ち合わせている、自分の技全てが通じないわけではないだろうと、水浘愛(めみあ)のことを殺す勢いで。

 

 だが水浘愛(めみあ)だけでなく漢妖歌(かんよう)もすでに攻めの手を打っており、


 ズザザザザッ!


「ぬ…貴様、再生して■…いるのか!」


()とて何時までも()されているわけではない!」


 背後の空間、大百足が這いずり回る世界から何本もの腕を伸ばし、来訪者へと掴み掛かる。以前の戦いでそのほとんどを千切られていたものと思われていた腕は新たに再生したのもあれば、元々生えていたのをただ知らなかっただけのもあった。


 ビビビッ!!


 漢妖歌(かんよう)の腕は一直線に来訪者へと伸びて行く。その数こそ以前(まみ)えた時と比べて少ないものの、向かい行く腕の速度は確実に上がっている。


「くだらんっ■! そんなもの…!」


 けれども来訪者にとっては決して捉えられない速度ではない。更に漢妖歌(かんよう)水浘愛(めみあ)を殺す気でいるのも合わさり、来訪者は両者へ向かって行きながらも全身に力を込める。それまさしく、前に淫夢巫(りんぷ)漢妖歌(かんよう)を消し去るために放った熱線だ。


「■ね!」


 バ■ッ!!!


 その熱戦によって次々と漢妖歌(かんよう)の腕の群れは焼かれて行き、硝煙を上げる間も無く炭化していく。かろうじて熱線の直撃を免れたものや一部を抉り飛ばされたものもあるが、それでも皆ビクビクと(もだ)え、先程までの突撃を止めてしまった。


 トトッ!


 だが、


「ぬ■! 貴様ッ」


 すでに漢妖歌(かんよう)は自らの腕を囮に来訪者の(ふところ)に飛び込んでいる。地面にピタリと密着する程に姿勢を低し、するすると這いながら高速で来訪者に近づいていたのだ。


「囮よ! ()()()はなッ!」


 そしてぐわりと噛み付かんばかりの勢いで漢妖歌(かんよう)は来訪者に襲い掛かる。自らの体の一部を囮にし、吹き飛ばしながらの特攻。まさに肉を切らせて骨を断つ攻撃。漢妖歌(かんよう)の牙は今まさに来訪者の(ふところ)、更にそこを通じて首元にまで伸びようとしていた。



 ドバ■ッ!!!



「くだらん、くだらん、くだらん…■まるでくだらんッ!」



「が…!」



 しかし次の瞬間、相手の攻撃を喰らって体液を体から吹いていたのは漢妖歌(かんよう)の方だった。

 確かに今のは虚を突いた攻撃だ。されど決まるか否かは別の話。来訪者は漢妖歌(かんよう)の攻撃が決まるよりもずっと早く自分の爪を振るい、相手の体を掻っ捌いたのである。やはり来訪者は一筋縄では行かない難敵、まだまだ水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)には厳しい相手なのだ。


「今度は逃がさん。二度と(よみがえ)れないよう、もう貴様■生きられないよう、跡形もなく消し去ってやる」


 ブシューッと切り裂かれた箇所から勢いよく体液は吹き出し続ける。漢妖歌(かんよう)はその反撃にどさりと地に倒れながら、自分を殺す気で襲い来る来訪者をただ見つめていた。


漢妖歌(かんよう)てゃん!」


 水浘愛(めみあ)はすぐさま漢妖歌(かんよう)のことを救い出すべく駆け寄ろうとするが、



 ビタッ…!



「…!」

(えっ)



 当の漢妖歌(かんよう)はその刹那、此方(こちら)へ来るなと止めるような仕草をする。しかも一瞬だけ振り向き、見せた漢妖歌(かんよう)の表情は諦めや自分の死を覚悟したものではなく、今からこの来訪者を倒す、一泡吹かせてやろうと言う戦意(あふ)れるものだった。


 そして次の瞬間、



 クァウッ!!!


「あっ? ■んだ…」



 倒れ、漢妖歌(かんよう)が背を付け、影を落としている地面から、その真っ暗闇の影の中から、勢いよく大百足の毒尾が飛び出した。その大きさたるや毒がじわりと吹き出す先端部分だけでも漢妖歌(かんよう)の身丈程もあり、来訪者の肉体に刺されば大きな風穴を空けるだろう。しかも鋭く尖った毒尾は顎のように二又に分かれており、貫くと言うよりも挟み込むと言う形で来訪者に襲い掛かる。



 ガギインッッ!!


「…惜しい」


「■…! 貴様も…か! ⬛︎⬛︎⬛︎のガキ…不条理を受け継いでいる!」



 されど毒尾が届くよりも早く来訪者は宙に飛び上がり、漢妖歌(かんよう)から素早く離れた。惜しくも毒尾は硬いもの同士が(こす)れる力強い音を立てながら空を切り、余った勢いで僅かに先端部分から毒を吹き出すだけに終わる。


 しかし来訪者を仕留めるまで後少しと言うところまで迫ったのは確実。少し前まで来訪者を相手に抵抗などまるで出来なかった漢妖歌(かんよう)水浘愛(めみあ)は恐るべき勢いで成長し、その牙を敵わなかった相手に届かせようとしている。


(■…もう二度と…あの惨劇をもたらしてはならない…。厄災は必ず…厄災の連鎖は絶たなくてはならないんだ…。それをこのガキ共がもたらすのならば…今此処で必ず殺さなくてはならない…!)


 来訪者はすでに目の前の者達、水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)のことをひ弱で貧弱な子供とは見ていなかった。


 必ず倒す、殺すべき厄災の子達、世界に厄災を振り撒く存在。殺さなくてはならない者達だと捉え、



 ■キッ…バキッ…!!!


「⬛︎⬛︎⬛︎のガキ共…。貴様らは必ず殺す」



「ひゃっ、何あれ…」

「ママのように姿形を変えられるんだろう。けどママと違うんは…」



 自らの体をより混沌な形へ、本来あるべき形ではない姿へと変貌していく。



 バキバ■バキバキッ!!!



「守ってくれたママとは(ちご)うて、彼奴(あやつ)余達(よたち)を殺すつもりよ。そして次は淫夢巫(りんぷ)欄照華(らてすか)であろう」

「ひょえっ。そりゃあ何としてでも阻止しなくっちゃあな。絶対に負けられないしょーぶってわけね。ママもこんな気持ちだったのかな〜」

「だろう、な」



 厄災を振り撒くであろう存在となる者達を殺すべく、来訪者の姿は禍々(まがまが)しく、恐ろしくなっていく。けれども漢妖歌(かんよう)水浘愛(めみあ)はまるで怖気付いておらず、むしろ自分達が敗北してはならない理由が出来たことでメリメリと今から始まる死闘に臨んでいた。



「予め1個聞いといていい?」

「何ぞ」


 にゅるんっ



 そして何時襲い掛かって来てもおかしくない体勢を取る来訪者に対し、水浘愛(めみあ)漢妖歌(かんよう)は力強く構える。



「勝算ある?」

「ない」

「ズコー」

次回の投稿もお楽しみに



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