Together to the NEXT
お待たせしました
「…む」
再び厄災の子達の前にその姿を現す来訪者。
「「……」」
対して自分らの家族を背に立ちはだかり、戦意を滾らせる水浘愛と漢妖歌。瞳の奥に先程まであった幼さと弱さは隠れ、大人びた眼差しと力強い闘志が宿っている。
「ほう、随分と威勢がいいな。もう1匹のガキ共々■に敗北して心折れたと思っていたが。貴様がその様子だと、どうやらもう1匹の方も生きているようだな。チィっ、トドメは刺せたと思っていたが、少々爪が甘かったか」
「折れたのは余の腕のみよ。最も、それもほとんど再生済みだがな」
「水浘愛の回復あってこそだけどねー。んままっ、漢妖歌てゃんはこぉやって完全復活した。もぉ負けないってさ」
再生と回復を終え、付け根から千切れ去った腕も幾分か生え変わった漢妖歌はかつて自分を再起不能にした来訪者を前にしても怖気付かず、退くことなく相対した。水浘愛の回復の能力あってこそだが、こうして立ち上がれるだけのしぶとさと粘り強さは漢妖歌の実力と言えよう。
「その通りよ。もう余は其方にも、其方に負けた余にも負けぬわ。かつての痛み、淫夢巫の分も纏めて返してくれる」
「テメェが淫夢巫てゃんを…! よぉし、淫夢巫てゃんの弔い戦だ! 淫夢巫てゃんの痛み、水浘愛も代わってお返しィ!」
そしてその隣に立ち、共に来訪者と相対する水浘愛もまた、漢妖歌に負けず劣らずの気迫とやる気を持っている。口調こそ普段通りにおちゃらけ、軽やかであるが、液状の体はフツフツと煮え、目は家族の敵討ちに沸騰していた。
「おい、勝手に淫夢巫を殺すでないわ」
「てへっ」
「ピンピンしとるではないか彼奴ぁ」
「いや、それは嘘。疲れ果てて寝てるよ」
確実に以前とは違う両者の雰囲気。
それらを前に来訪者は、たしかに以前と比べてかなり強くなっている、力はかなり増していると感じ取っていた。
(…ぬぅ、恐れていたことが起きつつあるか。厄災、⬛︎⬛︎⬛︎の子、必ず息の根を止めておかねばならぬガキ…。そのガキ共が目覚めつつある…のか)
恐れていたこと、避けねばならないこと、決して現実にしてはいけないこと。
(真の⬛︎⬛︎⬛︎としての子、その力がガキ共の中で目覚めようとしている。何としてでも始末しなくては、今此処で)
今まさに起ころうとしている、自分の目の前で起きつつあること。
厄災そのものが産み落とした子達の中で目覚めようとしている力。
かつて自分達を世界ごと滅ぼした厄災の能力。自分達が止めねばならない恐ろしき能力。
「しかしその程度で■を倒せると啖呵を切るのはお門違いも甚だしいな。強くなったのは確かなようだが、中途半端に力を付けるのはむしろ逆効果。早死を招くだけだぞ。最も、どっちみち殺すがな」
だが今はまだ未覚醒。能力の片鱗は見えているが、されど氷山の一角と言ったところ。ならば完全に目覚め、芽生える前に摘んでやると来訪者は思いながら、相対する者達にそう言い放つ。
「へんっ! 前の漢妖歌てゃんを殺せなかったのによく言うよ! それに漢妖歌てゃんは水浘愛が殺させないもんね!」
「おい、順序が逆よ。余が其方を殺させん」
けれども水浘愛も漢妖歌もまるで退かず、グイグイと互いに手をやって相手の前に立とうと押し退け合った。互いが互いを守り抜こうとして逆にお互いの体を邪魔しているのだ。
「くだらん、2匹纏めて殺してやる。そしてすぐに残りのガキ共も後を追わせてやろう!」
ド■!!!
そんな漢妖歌と水浘愛を纏めて殺そうと来訪者は一気に距離を詰め、その首を刎ね、刈り取ろうと指の先から伸びる異形の爪を振るう。
トンッ
次の瞬間、来訪者と漢妖歌、水浘愛の距離は一瞬で詰まり、
グラッ
「……ッ?」
来訪者の体は不自然な体勢で宙を舞っていた。見れば、爪の軌道は両者の首どころか、相対したガキ共とは全く違う、まるで見当違いのところへ振るわれている。そんな自分の状況を来訪者は困惑しながら呆然と見つめてしまう。
何が起きたのか分からない、何故こうなっているのかも分からない。困惑のみが頭の中を駆け巡っていた。
ゴッ……!!!
しかし来訪者がその困惑を打ち砕く答えを見つける前に、
シャアアンッッ!!!
突如として目の前に現れた岩壁に勢いよく激突する。
「よぅし、まずは一撃ッ」
「さっすが漢妖歌てゃんっ」
そんな来訪者を見て漢妖歌はやったと自らの拳を握る。見ればその背後、世界の壁を破るようにして現れていた空間には幾つもの腕がずるずると動き周り、元の位置に戻ろうとしていた。
漢妖歌が先程したこと、それは至極単純なことだ。
先の瞬間、自らの首を刎ねようと飛び掛かって来た来訪者の足元目掛けて漢妖歌は自らの体、此処とは別の場所にいる大百足の体を這わせた。そして空間を破り、腕を何本かそこから伸ばして来訪者の足首辺りに絡み付いたのだ。
さすれば力なんぞ強く込めずとも来訪者を転かすくらい容易いこと。勢いと速度も相まり、気が付いた瞬間、来訪者はすでに大きく体勢を崩していた。
更に漢妖歌は別の場所、転けた来訪者が突っ込んで来る場所の地面を多数の腕を使って掘り起こし、持ち上げ、支え、岩壁を作り出したのだ。
すると賭けた来訪者は勢いを殺せぬまま、体勢を立て直すことも出来ないまま、岩壁に突っ込んでいくこととなり、それに激突したのである。
もちろん漢妖歌はほとんど自分の力を使ってなどいない。自分らよりもずっと大きな体を転かすのも、軌道上に岩壁を押くのも、特に大きな負担を強いられるようなことではないのだから。
「さて…次はどう来っか…」
だがまだまだ来訪者は倒れていない。この程度の攻撃で倒されるような存在じゃあない。すぐにでも立ち上がり、自分達のことを再び殺しに来るだろう。
漢妖歌はパッとその場から離れ、まだ立ち上がっていない来訪者から間合いを取りつつ次なる攻撃に思考を巡らせる。
「じゃあ次は水浘愛の番かなー」
と、その時、そんな漢妖歌の視界の端で、やる気満々でいる水浘愛はぐにゅぐにゅっと自分の体を自在に変形させていた。手先の部分の形をうにゅうんと変え、地面に転がっている大きめの石を拾い上げる。
ビャン……ッ ビュッ…ビュッ…ビュッ!
そしてその石を掴んだまま自分の手をビュンビュンと勢いを付けて回し始めた。強い粘性と伸縮性、柔軟性を兼ね備えた水浘愛の腕はまるで鞭の如くしなり、空を裂く音を鳴らしている。
「何するつもりっ」
「まあ見てなって。下手したら外すかもだから離れてるといいよ」
漢妖歌が問い掛けても水浘愛はにまっと笑いながら腕を振い続けた。気が付けばその速度は増しに増し、裂く音もヒュンヒュンと小さく鳴いていたものからヴゥンヴゥンッと唸り声を上げるようになっている。
すると次第に漢妖歌も水浘愛がしようとしていることへの検討がつき始め、たしかに下がっていた方が良さそうだと2、3歩後ろに下がった。
次の瞬間、
「当ったれぇええ!」
ビュヴァッ!!!
水浘愛の手から拾い上げた石が離れ、超速で来訪者へと飛んで行く。ただ力強く投げ付けるだけでなく、高速で回していたことで得た遠心力も相まり、放たれた石の速度は凄まじい。
更に投石の軌道は外れることも見当違いの方向へ飛んで行くこともなく、真っ直ぐ来訪者へと向かっていく。
その光景に、これは当たると水浘愛と漢妖歌は即座に確信する。
「……」
パギャッ!!!
「あれっ」
「おいっ」
「……くだらん■」
放たれた石は確かに来訪者に当たった。当たったのだが、しかし大したダメージにはならなかったのだ。
転げた来訪者はすぐに立ち上がると、自分に向かって飛んで来る石を蚊蜻蛉を払うかの如く殴り払ってしまった。その拳は水浘愛の石なんぞ容易く砕き、すぐさま砂にしてしまう。
「足掛けに石投げ。如何にもガキの考える技だ。そんなくだらん技が■に通じるとでも思ったのか」
来訪者はパラパラとこびり付いた岩壁の破片を払い落とすと漢妖歌と水浘愛を睨み付ける。その様子はまるで効いていない、何の意味も成していないという感じだ。
強いて言えば、少し怒らせたと言ったところか。
「ぜ、全然効いてない!」
「駄目ではないか」
その様子に水浘愛はむににっと頬を両手で潰すようにして驚き、漢妖歌はやれやれと呆れ返る。しかし、
「攻撃のつもりか? なら攻撃とはどう■うものか、見せてやるか」
来訪者は至って変わらぬ様子、多少怒気の籠った声色でそう言うと、
トッ…
一瞬で自分と水浘愛との距離を詰め、
「あっ」
「■ね」
ドヴァッ!!!
首から上を殴り、払い飛ばし、粉砕した。
次回の投稿もお楽しみに
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