Next Myself
本当にお待たせしました
迫る強敵、自分らに躊躇のない殺意を向けて来る来訪者。決して情け容赦などなかった激しい攻撃。
幼い体で受け続けるにはあまりにも激し過ぎる暴力の嵐を耐え抜き、何度崩れ落ちようとも立ち上がり、戦い続けた欄照華。そして勇気を振り絞って戦場に立ち、傷に塗れて戦闘不能に陥ろうとしていた欄照華に代わってトドメを刺した淫夢巫。
諦めたら絶対に掴み取れなかった勝利と今の自分自身。
「……くっふぁ…」
「…ふぅ……はぁ…」
欄照華と淫夢巫は、ボロボロで、激しき疲労に苛まされ、座ることさえままならない自分の体を、されどその中に滾っている確かな力を感じ取りながら、
フラ…フラ…
と前後左右に振れていた。本当ならばすぐにでもドサリと仰向けに倒れてしまう程の疲労と痛みを伴っているのだが、
「……ボロボロじゃない…寝たら…?」
「…此方の台詞…だ。汝こそ…寝ろ…っ」
すぐ隣にいる家族より先に倒れてたまるか、見下されてなるものかと意地だけでその体を支えていた。バチバチと火花散る目線を送り合うことさえない程に疲れ切った眼差しの両者。瞼は今にもストンと落ち、そのままの勢いで微睡みにも落ちてしまいそうであった。
グイッ
「あっ」
「んっ」
とそんな両者の肩を背後から掴み、後ろに力強く引き倒す。もう力が残されていない淫夢巫と欄照華は引っ張られるまま倒れ、
もにうっ
「いじはってないでねぇ〜ろ!」
「まったく、つようなってもかわらんか、そちらは」
柔らかく、程よい弾力と冷たさのある水浘愛の膝の上に仲良く寝転んだ。
「ぐ…っ……」
「ぅ…ん……」
するとその柔からさと心地よさについに疲労の激流を堰き止めていた壁は決壊し、欄照華と淫夢巫はとうとう気を失うように眠ってしまう。そんな両者の寝顔は戦後故か非常に穏やかであり、先程張っていた意地や耐え忍ぶことで張り巡らせていた力も解けていく。
「まったくまったく、らてすかてゃんはむちゃしまくるけど、りんぷてゃんまでこんなになるまでむちゃするなんて。まったくまったく!」
「されどおかげでたすかった。そちと、よは、な」
そんな欄照華と淫夢巫を自分の膝の上に寝かせる水浘愛は寝顔を覗き込みながら、何でこんなになるまで無茶したんだ、泣き虫だった淫夢巫でさえ似合わない無茶をするなんてと口にする。
何しろ相手は勝つことなんてほぼ不可能であった強敵、敗色濃い難敵であり、それは分かっていたことの筈だった。にも関わらず欄照華は戦った、しかも本気で勝つ、勝って自分らの安心と安全を得るために立ち向かっていったのだ。
自分にはないその心意気と力強さ、自分には出来ない戦場に向かう勇気、それらを尊敬しつつも水浘愛は俯き、表情を暗くしてしまう。
「どうした、にあわぬかおなんぞしおって」
「…だってさ、すごいじゃん。らてすかてゃんもりんぷてゃんもこんなにつよくなっちゃってさ。とくにりんぷてゃんなんてさ、しょっちゅうビービーなかされてたのにさ…。はねもつよそうなのつけてるし…」
「そうだな…」
「めみあだって…めみあだって…」
淫夢巫も欄照華も自分にはない力を持っている悔しさ、そして嫉妬。けれどもそれらは簡単には手に入らないもの。手に入れようと願っただけで楽々と手に入れられるようなものではない。
「にあわんな〜、ねたみなんぞ。ふだんわらってばっかしのそちはどうした?」
「ぶ〜、めみあだってつよくなりたいんだもんっ。ママみたいに、さっ」
「それはよもおなじことよ」
「よぉ〜しっ、めみあもつよくなるぞ〜っ! ママみたいにつよくなってやるぅ!」
そんな顔を浮かべていることを漢妖歌に突っ込まれ、やや嘲笑気味に煽られた水浘愛はすぐさまぷくっと頬を膨らませていつもの声色と調子を取り戻しながら言葉を返す。自分も強くなる、今よりもずっと強くなってみせる。それこそ自分達のお母さんのように強い存在になってやると意気込んで。
その言葉に漢妖歌もうむと頷きつつ、少しばかり辺りを見回した。
ズル…
「…」
(いる…)
すると漢妖歌のすぐ側で何かが自分の巨体を引き摺るかのように動かし、蠢く。しかしその存在を感じ取っても漢妖歌は特に敵意を抱くことはなく、ただ自分の感覚を研ぎ澄ませるだけであった。
目には見えていない、水浘愛は恐らく気が付いていない、今この巨体の存在を感じているのは自分のみ。
(このからだがもっとつかえるよになれば…よも…)
此処ではない別の場所、しかし此処ととても近しい場所。それこそ此処と隣の場所を、大百足こと漢妖歌の体は這いずっている。
もし此処とその場所との境目があるとすれば、漢妖歌の腕が生えている空間の切れ目であろう。この空間の切れ目の奥に自分の体が、大百足がいる。
漢妖歌はその大百足の力を、自分の体を完全に使えるようになれば、きっと今の欄照華や淫夢巫に負けない力を持てるはずだと考えていた。
「なにボケーッとしてんの?」
「べつに」
「ふ〜ん、らしくないのー。それともかんようてゃんも、めみあみたくかんがえごとしてるのかなかな?」
水浘愛はそんな笑みを含んだ表情を浮かべている漢妖歌にそう尋ねる。先程俯いていたのを突っ込まれたことへの反撃か、その表情も声色も煽り気味だ。だが漢妖歌はふんっと突っぱね、素っ気ない態度を見せながら別にと返す。変に構ったところでぬちぬちと詰め寄られ、面倒なことになるだけだと分かっているからだ。欄照華のように五月蝿いとぶちのめすことが出来ればいいのだが、あいにく漢妖歌にはまだそれ程の力がない。
なので、
「だまっとれぃ」
にゅぶっ
「ふぶむっ」
数ある腕の内の幾つかで水浘愛の頭をむぎゅりと握る。もちろん液状の体の構造であるため、水浘愛の頭はぐにゅぐにゅとかなり大きく歪んでしまう。
でゅるんっ
「ひっどぅ〜い」
「ふんっ」
しかし水浘愛はすぐさま握り潰した手の隙間から抜け出ると、膨れっ面になりながらそう言った。漢妖歌はそんな水浘愛を軽く遇うと、改めて自分の巨体に意識を向ける。
動かそうと思えば動かせ、止めようと思えば止められる大百足の体。だがどんなことが出来るのか、全長はどれくらいの大きさがあるのかは知らない。そもそも自分の体を見たのも、死にかけのところを雲の隙間から覗いた一瞬のみ。
自分の体なのに、自分はまるでそれを知らない。
(…ママもそうだったの…かな…)
思い出せば自分のお母さんも自身の御身体を使いこなすことに四苦八苦していた。知らなければ本領を発揮するのは疎か、満足に使うことさえ出来はしないと漢妖歌はお母さんの背中から学んでいるのだ。
「…」
(ママ…いつかかえってきたら…そのときまでに…)
遠くからでも見える石化したお母さんの巨体。どんなに呼び掛けても念じても動くことは決してない自分達のお母さん。
されど必ず生きている、必ず帰って来る、また笑顔を見せてくれると漢妖歌は信じて疑わなかった。それはきっと水浘愛はもちろん、側で眠っている淫夢巫も欄照華も同じだろう。
ズンッ…!
「……っ」
「…んぁ〜?」
そう信じながら漢妖歌と水浘愛は、
「そうか…やつもいた…か」
「ん〜、めみあはやるよ。かんようてゃんはどーする?」
スック
ギシッ……!!
「決まっているだろう、余も戦ってやる。これ以上地べたを舐めてたまるか」
「オッケー、水浘愛も戦る気十分だぜ」
彼方から迫り来る次なる来訪者、一度敗北した強敵を前に立ち上がり、闘志と力を全身に行き渡らせる。
「欄照華てゃんと淫夢巫てゃんは水浘愛達で守るよ」
「分かっている、此処から1歩たりとも彼奴にゃ行かせん」
次回の投稿もお楽しみに
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