戦後
お待たせしました
「んっ…んん〜……っ」
ピシッ…ピシッ…
現れた宝玉を1つ喰らった淫夢巫はその後もしばらく舌の上に残っている後味や喉の感触を心地良さそうに味わっていた。それと同時に淫夢巫の体には飲み込んだ宝玉の力が満ち溢れ出し、萎れていた翼や肌に艶や生命力が滾っていく。
「…一体…何を…」
その光景にゼェゼェと荒く息を吐き、今にも落ちてしまいそうな瞼をかっ開きながら欄照華は不思議そうに眺めていた。一体淫夢巫は今何を喰ったと言うのだ。何故当の淫夢巫も知らないものを喰ってあんなにも力を取り戻せたのか、と。
されど、それらを考察している暇などなく、
ズルッ…
「ぐっ…」
(猛毒が…限界か…っ)
毒によってすでに壊滅寸前であった欄照華はガクンと膝を突き、倒れ込んでしまう。体は傷に塗れ、内臓は潰れ、ドブドブと大量の体液が噴き出し続けてしまう。このまま体を動かし続けることはもう出来ない。何処か安静な場所で、敵などいない状況で、ゆっくりと猛毒を体から除去しなくてはならなかった。
てとっ
「随分と苦しそうね。まさか貴方のことをこうやって見下す時が来るなんて。立場が逆転ってやつかしら」
「…五月蝿い」
そんな欄照華に淫夢巫は軽やかな足取りで近づく。先程の力を使い果たした状態とは違う、力に満ちた状態で。
「自分の身を猛毒で削ってまで漢妖歌と水浘愛を守ってくれたんでしょう。そんな姿になってまで」
「…雑談している暇はない…。冷やかすだけなら…もう失せろ…」
「相変わらず強がりねぇ…。そんなことを言っていられる余裕もないくせして」
淫夢巫は嘲笑と尊敬が混じったような口調と表情で苦しむ欄照華にそう語り掛ける。かつて虐められ、倒されて来た恨み辛み積もる相手がボロボロの状態で地面に這いつくばっていて、自分はそれを上から見下す。
まさにかつてと正反対。自分が手を下したわけではないが、それでも傷塗れの欄照華を見下せるのは淫夢巫にとってかなり気分がいいようだ。
しかしそれと同時に此処まで欄照華がボロボロになっているのは、自分と同じお母さんの子である水浘愛と漢妖歌を守るために圧倒的強者と戦っていたからだというのも分かっていた。そして自分はその光景を遠方にして安全圏から眺めていただけ。戦うのは疎か、相対することさえ怖くて恐ろしくて出来なかった。
けれども欄照華は怖がることも恐れることもせず強敵の前に立ちはだかった。いや本当は怖くて恐ろしくて堪らなかったのかもしれない。でもその恐怖を押し殺し、表に顕著な形で出すことなく、背筋を伸ばして敵と戦ったのだ。
純粋にその心意気に対して尊敬の念を淫夢巫は抱いていた。
「何とかしてあげる、私が」
「…は? そんなことしなくていい、こんな傷…ッ!」
「いいから」
淫夢巫は苦悶の表情を浮かべる欄照華に近づき、体に回復したばかりの力を漲らせる。
そして、
ポワ…
「……っ、これは…」
「動かないで。毒を取り除いてるの。私の力で」
両手を欄照華に向けると込めた力を念として送りだした。すると、
「…こんなことが…出来たのか…」
「……貴方も同じでしょ…。出来ると強く念じたから出来た…。私だって貴方と同じママの子…貴方にだけ出来て、私にだけ出来ないわけがないじゃない」
猛毒に犯され、壊れかけていた欄照華の体に生命力が滾り始める。それこそ自分を殺そうとして来る毒を逆に殺し返してしまう程の、更に死んだ箇所を新たに再生し肉体の再構成を行える程の力が。
淫夢巫は己の力を欄照華に分け与え、回復させているのである。何時の間にこんな能力を得ていたのか、何時の間に出来るようになっていたのだと欄照華は驚きつつ問い掛けるも、淫夢巫の返答は至って真面目に欄照華同様出来ると強く念じ、信じたから出来たのだと返す。
欄照華も毒に侵され、荒廃した大地を癒すべく幾多の生命こと草花を生やすことで浄化しようとしていた。これも出来ると強く念じたから叶ったこと、淫夢巫とは何ら変わらない。
「……」
「ふぅ…」
むくり…
次第に体の回復が完了し、力を取り戻した欄照華は特に辛そうな表情を浮かべることもなく立ち上がる。その体にはまだ猛毒に侵され、壊された痕が残っているものの治ったと言っても問題なかった。しかし、
「……此方は、『助けて』なんて言ってない。汝がわざわざ回復なんかしなくても寝てれば治った。此方に借りでも作ったつもりか? 勘違いするな、必要ないことを汝はしたんだ。此方はこれっぽっちも感謝なんかしていない」
立った欄照華の表情は曇っており、ギロと自分を治してくれた淫夢巫のことを睨み付ける。そもそも助けてなんて言ってない、助ける必要自体ない、こんな猛毒寝ていれば治ったと言い張って。
「相変わらず、ね」
その言葉に淫夢巫はやれやれと呆れながらも、
「ならこっちも勘違いして欲しくないんだけど。私は別に貴方を憐んだから治したわけでも、貴方に借りを作っておきたかったわけでもないから」
こっちの台詞だそれはと強気な態度で言い返す。別に自分は欄照華が毒に侵されて可哀想だと思っていたわけでも、借りを作りたくて治したわけでもないと。抱いていた想いは純粋な尊敬の念だ。何も出来なかった自分に代わって守ってくれたことへの尊敬。
しかしこの状況で正直に説明してもどうせとやかく言い返して来るだろう。まぁそれが欄照華なのだと淫夢巫は分かっていたが、だがこのままうだうだ問答が続くのも癪に障るだろうと淫夢巫は思っていた。尊敬の念こそ抱いているものの、何とかしてこの堅ッ苦しい頑固者を黙らせてやりたいと淫夢巫は考える。
「…そうね、別に私は貴方がどうなろうと知ったこっちゃないわ。私に迷惑さえ掛からなければ、ね」
「ふん、なら尚更放っておけばよかったじゃあないか」
「でも」
そして、
「貴方が壊れると私の大切なママが悲しむから。そう、私は私のママのために貴方を治したの。私のママを悲しませたくないから、ママが大切にしている貴方をわざわざ力を使って治した、のッ」
力強く自分が欄照華のことを治した理由を言い放つ。欄照華のために欄照華を治したんじゃあない。欄照華のことを大切に思っている自分達のお母さん、魔快黎様のためにやったのだと。お母さん。悲しませないために治したのだと返した。実際にこれは本心であったし、欄照華がこのまま傷付き、後遺症でも残ってしまえば帰って来たお母さんが悲しむのは目に見えている。
お母さんが自分を愛しているのと同じくらい、欄照華のことを愛していることを淫夢巫は分かっていた。
だから治したのだと淫夢巫は欄照華に言い放つ。
「……」
「分かったみたいね」
(よし黙った)
するとその言葉に欄照華は唇を噛みながら黙ってしまう。見事に論破され、たしかにその通りだと思い知らされてしまった欄照華はグュッと拳を握ることしか出来なくなる。
と、その時、
「らてすかてゃーん!」
「らてすか! いまのばくはつは…!?」
遠方から欄照華の名を呼びながら駆けて来る者達が現れた。声のする方向をくるりと振り向くとそこには欄照華が自分の命を賭して守ろうとした者達が、水浘愛と漢妖歌の姿が見える。
「ぶじ!? ぶじなの!?」
水浘愛は何時になく焦った表情で欄照華の無事を確認すると、
「「……」」
グッ
欄照華と淫夢巫は駆けて来る漢妖歌と水浘愛に向けて親指を立てる。
ジロッ
「真似するなッ」
「こっちの台詞」
が、ほぼ同時に同じ仕草をしたため欄照華と淫夢巫は睨み合いながらそう言い合った。
「とりあえず…ぶじ…のようだの」
「あのてきは…!? あいつはどこいっちゃったの!?」
そんな両者に漢妖歌と水浘愛はしどろもどろしながら問い掛ける。あの敵は何処に行ってしまったのか、果たして勝負の行方はどうなったのかと。
すると欄照華と淫夢巫は、
「「此奴(こいつ)がやった」」
と迷うことなく相手の方を親指で指し示しながらそう言い、
ジッ
「「…」」
再び真似するなと互いを睨み合う。
「そちらできょうりょくしてたおした…のか! すごいな!」
「さすがらてすかてゃんとりんぷてゃん!」
と、不機嫌そうな顔を浮かべる両者のことを漢妖歌と水浘愛はキラキラと目を輝かせながら褒めちぎるので、
「ふ、ふん…」
「まぁ……ね」
欄照華と淫夢巫の表情は一転、満更でもなさそうな顔になった。
次回の投稿もお楽しみに
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