理想のために
お待たせしました
「……」
「…」
地面を突き破って現れた無数の鋭利な木々は来訪者と欄照華の体を貫いている。両者ともその木々に貫かれたままピクリとも動かなくなったまま、貫かれた箇所からボタボタと体液が滴り、地面に垂れて行く。
ヌタ…
「……チッ、下らん真似…■…をッ!」
が、しばらくの沈黙を破り、来訪者はグチュグチュと肉の裂ける音を立てながら自分の体から木々を引き抜いた。木の幹や生える鋭利な枝は返しの形状をしており、また入り組むように突き刺さっているので簡単には抜けないが、来訪者は自らの体がズタズタに引き裂かれてでもその木々から離れる。
「なるほど、さっき地面に埋めていたのはあの蔓だけじゃあなかった……■…か」
そして来訪者は穴だらけになった自分の体を再生しながら、
「……■んのクソガキがッ!!」
未だに貫かれたまま動かない欄照華にそう言い捨てた。気が付けば来訪者の手から離れていた欄照華の片腕も体同様貫かれ、それ以上にズタズタに引き千切られている。
「…まぁいい。勝手に死んでくれた■なら好都合」
亡骸が突き刺さっている木々の根元に来訪者はプッと唾を吐き捨てると、今度こそ完全に焼却させてやろうと力を込めた。
「動くなよ? ま■、動けないだろうし、もう動かないだろうがな」
そして既に動かない欄照華の死体を木々ごと焼き尽くそうと手のひらを向ける。
ミシ……
メ……キ……
「……ッ」
その時、
ズブバッ!!
「……なっ■…にっ」
欄照華のことを完全に消滅させようとした来訪者の手から無数の草が生え始め、瞬く間に指や腕に絡み付く。更に無数の草は皮膚を突き破り、喰い破るようにして来訪者の手の中に根を下ろす。
グジュ…ブヂヂュッ!!
「まさか…■!」
草は体内に流れる体液を吸って更に蔓と根を伸ばしては、来訪者の体をジワジワと侵食していく。
「……」
「貴様…さっき千切った腕■…何かをッ!」
一体どうしてこんなものが自分の体から生え、内側から破壊しているのか。この草の種は一体何処から来たのか。
恐らく先程千切り飛ばし、持っていた腕。あの腕に草の種が含まれていたのだ。それを握っていたことで来訪者の手のひらには種が付着しており、根を伸ばして少しずつ少しずつ手の皮を削っていったのである。
「さっきの…■同じやつか…! 小賢しい真似をッ」
先程欄照華が来訪者の腕を振り解く時と同じ、欄照華の生やす草花の力は来訪者の体さえも砕く。だが今度は違い、来訪者の体を砕くのではなく肉体を内側から侵食している。
外から破壊出来ない程に力に差があるのならば、内側から破壊すればいい。
即座に再生出来てしまう力があるのならば、それさえ間に合わないくらいズタズタに破壊すればいい。
欄照華は改めて来訪者の力を目の当たりにしながらも対峙した瞬間から、打開策をずっと考えていたのだ。
その欄照華は現在、自らが生やした木々によって貫かれ、ピクリとも動かない状態だが。
ヴギヴギギギ…!!
「ぐっ■!」
ドバッ!!!
来訪者は根が自分の腕の中を伝い、体まで登って来る前に自らの手で付け根から腕を切り落とす。切断したところで即座に再生出来るのだから躊躇など一切ない。
しかし全く痛くないわけではなく、自ら体の一部を千切ればその分の痛みを来訪者は当然負っている。
ビチャッ!
「チィ…■、ふざけやがって!」
吹き出し、大地に滴る体液。ボタボタと落ちる千切れた肉片。
ずりゅりと音を立てて新たな腕を生やしながら来訪者は全く動かない欄照華と、その体を貫いている木々に近づき、
ヴッ…!!!
「とっとと死■ェエエ!!」
ズァオッッ!!!
怒り任せに熱線を放った。熱線は一直線に欄照華の体へと伸びて行き、
ボッゴォオンッ!!!
ビィイイイイッ!!
炸裂と同時にメラメラと体を焼き始めた。パキパキとへし折れ、砕けながら欄照華の体は炎の中に消え、崩れて行く。
その光景に来訪者は、これでようやく終わった、ガキのくせして何としぶとい奴だと呆れながらも、他にあるガキ共も続けて殺しに行かねばと歩き出す。力こそないものの想像以上のしぶとさを持っているガキが残り3はいるとなると気が重くなるが、これも世界のためだ、厄災の芽は残らず摘み取っておかねば⬛︎⬛︎⬛︎の更なる犠牲者が出ること明確なのだと来訪者は自分に言い聞かせて。
グムッ…
ムグググ…!
と、次の瞬間、
「……■?」
突如として辺りの大地がグラグラと揺れ始め、
ゴバッ!!!
地面をかち割って勢いよく太く逞しい巨木が生え、
グギギギ!!!
「な…■!!?」
来訪者の体を捉え、締め上げた。
「こっ…■…これは…まさか…!」
そして、
ボゴォンッ!!!
「ぐぅ……! ■だ…まだ死んでなかっ…たのかァ!」
バラッ…パラ…
「当たり前だ…ッ。此方は死なないッ! 大切な者を守れずに…死んでたまるかッ…死ぬことなんか出来るものか…!」
先程生えた巨木の如く、体を貫かれ、体も焼失した筈の欄照華が大地からその姿を現した。木々に貫かれて空いた筈の穴もなければ、焦げ跡1つさえない。
「貴様ッ…! 何故生き■…!?」
「生きていられるんじゃあない。汝を倒さないまま死ねないだけだッ」
たしかに死んだ筈、そして亡骸はたった今この手で焼いた筈の欄照華が傷1つない姿で現れる。例え欄照華が厄災そのものにして⬛︎⬛︎⬛︎の子であったとしても、此処まで理不尽極まりないことが起きていいのかと、来訪者は思わず困惑してしまう。
が、欄照華はミシミシと拳を握って生やした木々を動かし、来訪者の体を締め上げる。力こそまだまだ足らず、ぐしゃりと捻り潰すまでには至らないが、しかし確実に来訪者の体を締め上げ、軋ませることは出来ていた。
「…」
(そうだ…此方は死ねない。絶対に此奴を倒して、水浘愛と漢妖歌を守り抜くんだ…! 出来ると思えば…出来るッ)
その最中、欄照華は此処から1歩たりとも下がってたまるか、守りたい者を絶対に守るんだと全身に力を張り巡らせる。
出来ると思ったから出来た。
先程自らの意思で自らの体を自ら生やした木々で来訪者ごと貫いた瞬間、欄照華は本当に死ぬ気であったのだ。けれども木々が体を貫いた瞬間、その枝先から地中の根元まで自分の感覚が全て行き渡った。元々欄照華は自分の意思で草花を生やし、自分の意思で動かすことが出来ていたため、その感覚を覚えることに驚きはしなかったが。
しかし欄照華は自分の体を離れて、貫いた木々の根に自分の意識を持って行くことが出来た。そうしなければならない状況だったからだ。何しろこの攻撃で来訪者が死ななかったと場合、今度こそ自分にトドメを刺そうと向かって来ること分かっていたからだ。実際に来訪者はその攻撃で死ぬことはなく、案の定抜け出して自分のことを殺そうとして来たため、欄照華はすぐさま自分の意識を体から、貫いている木々の根に持って行った。
そしてその木々の根元で新たな自分の体を再生成し、反撃の機会を伺っていたのだ。地表に出ていて、焼かれた体には欄照華の意識はすでになく、抜け殻に過ぎないものだったのである。
更に千切られた腕も無駄ではなく、来訪者を負傷させるだけでなく切断した断面から滴り落ちた体液や肉片を地中に張り巡らせていた根はもちろん、欄照華もそれらを喰らうことで回復と力を蓄えることが出来たのだ。
しかも来訪者の血肉を喰らった欄照華と木々は先程以上の力を得ることが出来、こうして来訪者の身動きを封じていられる程の強靭にして太い巨木を生やすことも出来るようになったのである。
「汝を生かしておけば、汝はいずれ水浘愛を傷付ける。それは絶対に許さない。今此処で此方がぶっ潰す」
ミシミシ…!!
死にかけながらも立ち上がって来た欄照華は今、得た力の全てを持って来訪者を倒しにかかっていた。大切な者の脅威は今此処で排除しなくてはならない、大切な者を傷付ける者を許してはおけないと。
「…■ッ…ちょっと強くなったくらいで…いい気になるなッ! 死ぬべきなのは貴様らの方なんだよ! ⬛︎⬛︎⬛︎のガキが…厄災のガキである貴様が…この世界で生きていていいと思うな!」
「…なら、そんな世界変えてやる。此方の大切な者が生きていられる世界を…此方が創るッ」
「ガキにそんなことが出来るとでも…■!?」
「出来る、やってやる。汝が邪魔をするなら…汝が邪魔になるなら……此方が全部ぶっ倒すッ!!」
次回の投稿もお楽しみに
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