惜しくはない命
お待たせしました
「ハァ…ハァ…ハァア……」
千切った来訪者の腕を喰らいながらも息を荒く吐き続ける欄照華。その表情は先程以上に険しく、今まであった幼さや甘さが消え失せている。
「……なるほど、たしかに⬛︎⬛︎⬛︎のガキだ。その目つき、雰囲気、全部知ってる」
「…フゥウ……グゥウウウウウ…!!」
「貴様はますます殺さなきゃいけないな」
そんな欄照華の姿と厄災そのものである⬛︎⬛︎⬛︎の姿を来訪者は重ねて見ながら、このガキは今この場で殺さなくてはならない存在だと改めて思っていた。幼い子であるからと言って甘く見てはならない。今は雑魚だからと言って放置しておくわけにはいかない。
必ず殺しておく。確実に息の根を止めておく。
実際欄照華のことを助けようとし、かつ今の来訪者と渡り合える存在である⬛︎⬛︎⬛︎は力を失って一切動けない状態だ。他にも欄照華のことを助けようとする子が幾つかいることは知っているが、実力は欄照華と同等かそれ以下。戦えば苦戦を強いられるような相手ではない。
つまり厄災もその種も全て摘めるのは今。これ以上ない好機を逃すわけにはいかないと来訪者はギロリと欄照華のことを睨み付ける。
「ッ!」
バキッ!!!
瞬間、
「チッ、反応速度も上がっ■るか…」
横に飛び、地面を転げる欄照華の左腕がなくなる。
バシャッ!
いや、なくなったのではなく吹き飛んだのだ。
来訪者の強力な一撃は欄照華の腕を付け根から容易く折った。吹っ飛んだ腕は数秒空を舞ってから地面に音を立てて転がり、断面部分からはビュルビュルと体液を噴出する。欄照華はすかさず体勢を整えるも
しかしそれだけの一撃を喰らわせたにも関わらず、来訪者の表情は浮かばず、何処となく不満げな様子であった。
「頭を狙ったんだがな…ん〜■、意外と反応出来るようになってるの…か」
本当ならば今の一撃は欄照華の頭を真っ二つに切り裂き、即死させるものだったようだ。けれどもすんでのところで欄照華はその攻撃を回避し、即死と致命傷を免れたのである。
「くぅ…!」
「まぁいいか。完全にかわせていない以上、逃■続けることは出来ない。次は何処が飛ぶかな、今度こそ頭か?」
だが来訪者はすぐに曇らせていた表情を消しながらそう言うと、
ヒュ■ッッ!!!
「…ッ!」
同じように技を繰り出し、欄照華の頭を切り裂こうとする。目に捉えきれないモノが高速で飛んで来て、それを喰らえば容易く欄照華の体は千切れてしまう。
欄照華は再び横に飛んで回避しようとするが、
ドバッ!!!
「グ…」
かわし切ることは出来ず、間に合わなかった右脚が膝上からなくなる。その激痛に欄照華は苦悶の表情を浮かべるも、歯を喰い縛って耐えながら、
バシッ
側に転がっていた自らの腕を掴んだ。そして、
「ダァアッ!!」
ヴッ!!
片脚で体を支えながら勢いよく振り被り、自らの腕を槍の如く来訪者目掛けて投げ付ける。
「むっ、そ■なことも出来るのかッ」
来訪者はその技に一瞬だけ驚くもすぐに元の表情に戻り、
グァシ■ッ!!
「だが無駄だ。ガキの技など■には通じない」
何とも容易く自分に向かって飛んで来る槍を掴んでしまう。放たれ、宙を飛んでいる最中は一直線に伸びていた槍も、その勢いを失った瞬間槍もとい欄照華の腕は肘部分からだらぁんと垂れ下がる。とても槍として来訪者の体を貫けることは出来なそうだ。
「そもそもこんなもので■の体を貫けるとでも思っていたのか」
バキバキ…!!!
来訪者は捉えた欄照華の片腕も握り潰しながら冷たくそう言い放つ。
しかしそれと同時に、
ウッ…
欄照華は失った脚の方の付け根を持ち上げると、
「ッだぁあああ!!」
バルルルルルルル!!
勢いよくそれを地面に向けて振り下ろした。すると付け根部分から生々しい繊維や管の束が無数に生え、欄照華の脚が再生する。だがそれだけでなく欄照華の脚先はそのまま地面に突き刺さり、
ズゴゴゴコゴゴッッ!!
「ん?」
凄まじい速度で地中を駆け巡った。脚先から伸びる草木の根によって地面は力強く盛り上がり、一直線に来訪者目掛けて駆けて行く。
ゴバッ!!
シュルルルル!!
「んぉ■とと」
そして来訪者の立っている場所の地面を突き破って、幾つもの蔓や木の幹が伸び、来訪者の体に巻き付いた。両足を捉え、両腕を封じ、首を締め付ける欄照華の草木。その幹や蔓はミヂミヂと音を立てながら少しずつ来訪者の体に喰い込んでいく。
けれども、
「下らん。こんなチンケな植物でどうにか出来ると思■たのか?」
ブチブチ■!!
ため息混じりにブチブチと来訪者はその草木を容易く引き千切ってしまう。来訪者の体の大きさに対して草木の大きさが小さ過ぎたためか、足止めにさえならなかったのだ。
ブォッ…!!
しかし、
「おや■?」
来訪者の意識が絡み付く草木に向いた一瞬の隙を突き、欄照華は失った腕を再生しながら来訪者に飛び掛かり、殴り掛かっていた。元より生やした草木は来訪者の身動きを封じるためではなく、意識を一瞬逸らすためだったのだ。そうして生まれた隙を突き、欄照華は反撃の一撃を叩き込もうとしている。
バキッ!!!
次の瞬間、拳が炸裂する鈍い音が響き渡り、
ドシャアンッ!!
続いて地面に叩き付けられる音がした。
ズル…
「ゴボッ…!」
「不意打ちのつもり…だったのか? あんなに鈍い動きで■?」
だが地面に転がっていたのは蔓に気を取られていた来訪者ではなく、殴ろうと拳を振り被っていた欄照華の方であった。来訪者は欄照華の拳が届くよりも早く自分の体に巻き付いた草木を千切り、飛び掛かっていた欄照華を足元に叩き落としてしまったのだ。
グジャンッ!!
「ヴッ…」
「もういいだろ、貴様はよく頑張った。絶対に勝てないのによく逃げずに戦■たよ。今楽にしてやるから」
来訪者は欄照華が立ち上がるより早く背中を踏み付け、踏み躙りながらそう言い放つ。そして完全にトドメを刺すべく先の戦いで欄照華や水浘愛を焼き払った技を放とうと手を向けた。
足で押さえ付けられ、身動きを封じられている今、欄照華にはとてもその攻撃をかわすことは疎か、その場から逃げることさえも出来ない。
「じゃあな。くたばれ、⬛︎⬛︎⬛︎の子。こうなることが世界にとって最善だ。まぁ安心しな、すぐに他のガキも後を追わせてやるさ」
ズァッ……!
そして来訪者は動けない欄照華を完全に焼却、消滅させようと技を繰り出し始める。
グシッ……
ズルリ……
「此方の……此方だけで済むなら…!」
ギリギリギリ……!!!
しかし欄照華はそんな言葉など聞いておらず、拳を硬く硬く握りながら歯を喰い縛って覚悟を決めていた。
そして、
「くたばるのは…汝だ……ッ!! 此方諸共……!!」
吐き出すように欄照華がそう言った次の瞬間、
ズドドドドドドドドドドドド!!!
来訪者の足元から無数の鋭利な木々が勢いよく地面を突き破り、欄照華ごと来訪者を貫いた。
次回の投稿もお楽しみに
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