厄災の子
お待たせしました
(バラバラに壊しても再生してしまう…此方と同じ…)
生やした草木の力が通じていない。頭を破壊される痛みに必死に耐えながら肘先から腕を破壊したのに、来訪者はあっさりとそれを再生してしまう。
その光景に欄照華はぐしぐしと目元にも垂れて来る体液を拭いながら目の前の敵の攻略法を考え続けた。腕を破壊しても再生出来てしまう欄照華と能力。いや、来訪者の方がずっと早く、あっさりと再生出来てしまう分欄照華よりも上位の能力と言えるだろう。
「さて、お次はどうする?」
来訪者は一瞬で再生してしまった腕の調子を振るって確かめながら余裕の態度で語り掛ける。今の欄照華の攻撃ではまるで意味を為さない、倒し切ることは不可能であると厳しい現実を突き付けるように。
(そう…此方と同じ…。どんなに傷付いても再生してしまう…それなら…)
されどその現実を前にしても欄照華の心は全くと折れておらず、自分の攻撃がまるで応えていないのならば、
(再生出来ない程に傷付けて、攻撃し続ければいいッ)
ギリッ…!!
効くまで叩き込むだけだと拳を握る。打撃が通じないのならば通じるまで殴る、傷口が再生してしまうのならば再生が出来ない程に負傷させる。
単純にして明快だ。
「ん? 何をやる気になっている? ■を倒せるわけがないだろう、何度も言わせるな」
「違う」
欄照華はキッと鋭い目で来訪者を睨み付けるや、
「汝を潰す」
ガァンッ!!
「っと…!?」
倒すのではなく潰すと豪語しながら思い切り来訪者に殴り掛かった。拳はすんでのところでガードが間に合った来訪者の腕に炸裂し、大きなダメージを与えるには至らない。が、ほんの数歩程後退させることが出来、
「おやおや…っ、どういうことかな。前よりも少■強いじゃあないか」
殴られ、ビリビリと痺れる自分の腕を来訪者は驚いた表情で見つめてしまう。
「ふぅん、あんまりみくびらない方がいいって感じ? ⬛︎⬛︎⬛︎のガキってことかやっぱ。なら少し本気で■そうか」
しかしそれも束の間、来訪者はすぐさま冷静な顔付きになり本気で厄災の子を殺そうと目つきを変えた。
そして追撃と飛び掛かって2撃目の拳を振るって来る欄照華を、
ズド■ォッ!!!
「お゛……!」
その拳が届く前に己の拳を腹に叩き込んだ。来訪者の拳は欄照華の腹に深々と突き刺さり、臓物を潰し、抉っている。
ガッ…!
「…?」
けれども欄照華は自分の腹を突き刺す来訪者の拳をガシリと片手で掴み、
「なろッ!!」
グアンッ!!
「ガッ…!?」
自分の膝と肘で勢いよく挟み込むように攻撃を喰らわせた。まさかの反撃に来訪者はすかさず欄照華のことを振り解こうと手を振るうが、
ミヂッ…!!
「と…ゴボッ……どらゔぇ……!」
「貴様…!」
来訪者の腕にはすでに欄照華の抉られている腹から生える無数の蔓が決して離すまいと喰い込む程に絡み付いている。そして欄照華は口から唾液混じりの体液を吐きながら、
ドガッ!!
再び自分の肘と膝で来訪者の腕を打ちのめした。当然、その衝撃は突き刺さっている手を通じて欄照華の臓物にも直撃し、掻き混ぜられる。自分の攻撃によって自分の体が何よりも傷付いているが、それでも欄照華は攻撃の手を緩めず、ガンガンッと何度も自分の肘や拳、膝を来訪者に叩き付けた。
「ウザッてぇな…■!」
しかし何時までもやられている来訪者ではなくピキッと顳顬を痙攣させると、
バグシャッ!!!
「グブッ……!」
「離れないんなら強引に引き剥がして■るよッ」
思い切り欄照華の顔面を殴り付ける。もちろん腹から伸びる蔓が巻き付いて頑なに離そうとしないため、どんなにのけ反ろうとも欄照華の体が剥がされることはない。むしろ蔓が更に喰い込んで来訪者の腕が千切れそうな勢いだ。
けれども来訪者はお構いなく拳を振るい、欄照華の頭を殴り、砕き続けた。その度に来訪者の腕も少しずつ切り落とされようとしている。
が、次の瞬間、
「こんなもの…」
ベギベギ…ベギギギ……ッ!!!
来訪者は欄照華に縛り付けられている自ら腕を千切り落とし、
グシャァッ!!!
これでようやく引き剥がせると言わんばかりに欄照華を殴り付け、地面に叩き付けた。そして起き上がる前に欄照華を彼方へと蹴り飛ばす。
「グッ…!」
欄照華はズザザッと地面を転がるも、ゴボッと体液を吐きながら体勢を整え、何とか立ち上がった。未だにその腹には欄照華が捉え、固定した来訪者の腕が突き刺さっており、ドバドバと体液が吹き出している。ただでさえ先程の打撃によって頭を砕かれ、顔を割られ、内臓も大きく負傷しているのに。
「まさか此処まで戦れるとはねぇ。さっきまではもう1匹共々■に手も足も出なかったってのにさ。まぁすぐに見つけて仕留めてやるよ、貴様を殺した後で、な」
「…水浘愛には手を出させない」
「今にも■にそうな貴様が、か?」
そんな今にも死にそうな欄照華に来訪者は余裕な態度で話し掛ける。フラフラと覚束ない脚、ガクガクと震える腕、力が今ひとつ込められておらず痙攣している指先。とても死闘を続けられる状態ではないと見た目だけでも十分に分かる。例えその瞳の奥に戦意がまだ脈々と生きていたとしても。
しかし当の欄照華は自分の体のことなど顧みず、自分が守るべき大切な者達を守るべく立ち上がり、戦おうとし続ける。
「無理だろ、もう止めておけ。貴様は絶対に■には勝てない。痩せ我慢なんて辛いだけだ」
「此方を……舐めるな……ァ」
絶対に諦めない、此処から絶対に下がらない。欄照華の覚悟は決して揺らぐことも折れることもなく、崩れそうな体を強引に起こした。
「ぬぅうううう…ッ!!」
バキッ…! バキバキバキッ!!
「…?」
次の瞬間、欄照華の体から、その内から歪にして鈍い音が響き渡る。しかも鈍い音は欄照華の全身を駆け、巡って行く。
すると
グジュルッ
腕が突き刺さっている欄照華の腹にシュルシュルと蔓が更に伸び、巻き付き、取り囲み、包み込み、
バギュ…グギュゴギュ……! メギョッ…メギッ!
「ブハァアアア……!」
瞬く間に喰らってそのまま丸呑みにしてしまった。頭にある口ではなく腹に空いた穴から来訪者の腕を呑み込み、自分の腹に収めたのである。しかも喰らい終えるのと同時に腹に空いた傷穴は静かに閉じ、何ともなかったかのように傷は消えてしまう。
「フゥー…フゥー…ハァアア……」
だが何よりも、来訪者の腕を喰らった欄照華の雰囲気が先程とは比べ物にならない程に変わり、ハァハァと息を荒らげながら腕を再生し終えた来訪者を睨み付けている。
「やはり⬛︎⬛︎⬛︎のガキ…。とんだバケモンだ」
そんな欄照華のことを来訪者はそう呼びながらどのようにこの化物を殺してやろうかと構えた。
次回の投稿もお楽しみに
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