再戦
お待たせしました
「…ふぅ」
パキパキ…
水浘愛の側から離れ、新天地に足を付け、根を張る欄照華。先程までは魔快黎様の戦いによって毒されたこの世界の一部を癒そうと根を下ろしていた。が、傷付き、疲弊し、万全ではない今の体でそれは難しいと判断した欄照華は特に毒に犯されていない地に根を張ることにしたのだ。
グギギ…
「…もうすこし…か…」
大地から養分や水分を吸い、自分の体を少しずつ回復させつつ、欄照華は手を開いては閉じて調子を確認する。まだ体には完全に力が込められず、ふるふると小刻みに震えてしまう。己の力をコントロール出来ない、満足に力を込められないためにそうなってしまうのだと欄照華は改めて気が付きつつ、回復に努める。
もう負けない、負けたくない、絶対に負けない。
もしまたあんな敵が現れたら。
いや先程完敗した敵だけじゃあない。
自分の大切なものを傷付けるようなものは全て敵、その敵がまた現れたら、今度こそ絶対にぶっ潰す。今度こそ守り抜いてみせる。
そう決めた欄照華はいち早くこの体を治さなくてはと更に根を伸ばし、地中にある養分や水分を吸い上げていく。
(つぎ…つぎこそ……! こんどこそ……)
と、その時であった。
とてとてとて…ッ
「ん?」
ぱっちょぱっちょぱっちょ…ッ
「んん?」
遠くから何かがこっちへ向かって走って来る音がして来た。その方向へ欄照華が顔を向け、意識を集中させるとそこからは聞き慣れた声と見慣れた体が現れる。
「なんだ…」
何故此処へ来るのか、そもそも何をしに来たのか、欄照華はやれやれと呆れながら見慣れた者達が自分の元へやって来るのを待つ。
するとそれから間も無く、
「あっ、らてすかてゃんっ」
「うっ…らてすか…」
「……なにしにきたんだ…」
ついさっき側にいたばかりの者達、水浘愛と漢妖歌が肩を並べて駆け寄って来た。結局こうなるのか、わざわざ離れたのにあっちから来るのかと欄照華ははぁとため息を吐きつつ、一体何用だと問い掛けようとする。
が、
「まさか…こんなことになろうとは…」
「ごめんらてすかてゃんっ!」
「は?」
駆けて来る漢妖歌と水浘愛は何故か申し訳なさそうな表情を浮かべており、立ち止まる様子はない。普段ならばふざけて笑いながら来る筈だろうに、一体何があったのだと欄照華は訝しみながらやって来る漢妖歌と水浘愛を見据える。
それから間も無く水浘愛と漢妖歌がやって来るが、
「ほんとごめん! らてすかてゃんもいっしょにきて!」
「は?」
「いいからいうとおりにせぃっ」
何故か両者とも欄照華の横を素通りし、何処へと走り去ろうとしてしまう。まるで何かから逃げているかのように、欄照華に会おうだなどと最初から考えていなかったかのように。
しかも水浘愛と漢妖歌は立っている欄照華の腕をむんずと掴み、一緒に行こうと強引に引っ張っている。
そんな両者の態度と全く説明をする気のない様子に欄照華ははてなと首を傾げながら自分の腕を掴む手を振り解こうとした。
と、その時、
ズ■
「……なるほど」
水浘愛と漢妖歌が走って来た方向から、
「おや、貴様も■きていたか。たしかに■したと思ったんだがなぁ。ちゃんと戻ってみるもんだ」
「そういうことか」
以前欄照華と水浘愛が見えた者が姿を現す。水浘愛が重傷を負ったのも、死にかけたのも全てはこの者の仕業である。
あの時は戦うのは疎か、必死に生き延びるだけで精一杯だった、とても敵わないと逃げに徹するしかなかった相手。少し記憶を探るだけで疼く程の深い傷を負わせた、自分達の敵だ。
まさかまだいたのか、逃げ延びたと思ったがまた見つかってしまったのか。
ふと気が付けば水浘愛の体が元の大きさに戻っているのは、逃げている内に体の一部を傷付けられたのだろうか。
欄照華は即座にそう考えると、ガギッと強く拳を握る。そして自分の腕を掴む両者の手を改めて振り解くと、
「ここはこなたがくいとめる。いけっ」
「えっ!?」
「なっ……」
あの来訪者とは自分が相手をすると闘志を滾らせて言う。
「なにをバカなことを!」
「そうだよ! こんどこそころされちゃうよ、らてすかてゃん!」
そんな欄照華の姿に漢妖歌も水浘愛も驚愕し、今度こそ殺されてしまうと何とか説得し、共に逃げようとした。だが欄照華はその場に根付いたかの如く動かず、両者の頼みを拒み続ける。更に手も足も出なかった相手と対峙し、戦う気満々で睨み付けていた。
「こなたはしなない。しんでたまるか」
「ほぅ、言うなぁ。先程何をされたのかもう忘れたか? ■にボロボロにされただろう。ま、今度こそ殺してやるよ、⬛︎⬛︎⬛︎のガキは残らず、な」
欄照華は見下して来る来訪者をギロリと睨み返すと、握っていた拳を徐に開き、ぴんと伸ばした指を揃え、
「そうはさせない」
ビシィッ……!
自分の後ろにいる水浘愛と漢妖歌の盾となるかの如く腕を水平に掲げる。
「貴様のようなガキに■? 出来るわけがねぇだろう」
「できるできないじゃあない。やるんだ。もう、こなたはまけない」
「はっ、何を言い出すかと思えば戯言か。馬鹿なガキの言いそうなことだ。だけどそっちから来るってんなら好都合だ。殺■てやるよ、今度こそな」
つい先程ボロボロにしてやって、死ぬ寸前まで追い詰めてやったのに、その相手を前にしても一切怖気付かずにいる欄照華の姿を来訪者は笑いつつも、今度こそ殺してやると殺意を全身から覗かせた。
散々ぶちのめされたにも関わらず戦おうとしている、一度殺されかけた相手とまた殺し合いをしようとしている。そんな欄照華を、なんと馬鹿なガキかと来訪者は愚かしく思いながら。
「バカはそっちだ。いったはずだろう、こなたはしなない」
「…あ?」
「なんじなんぞに、ころされないッ!」
対して欄照華は来訪者に対してそう返し、
「はやくいけッ。いかないとぶんなぐるぞ」
自分の背後にいる漢妖歌と水浘愛に改めて逃げるよう告げた。この場は自分が喰い止める、来訪者は自分が相手をする、だから漢妖歌と水浘愛はさっさと逃げろ、さもなくばぶん殴るぞ、と。
「う…ら、らてすかてゃん…」
「しぬきか…!?」
「こなたはしなないといっている! いいからはやくいけ!」
しかし腕を掴もうとする気はすでになかったものの、両者はすぐには動けなかった。そんな両者を欄照華は強い言葉で突き放すように言うと、
「ほんとにしなないよね…?」
「ああ、ぜったいにしなない」
「いざとなったら、かならずたすけにくるからな!」
「そのひつようはない」
ようやく水浘愛と漢妖歌はずりずりと摺り足ながらもその場を離れ、全てを欄照華に託す。
「ふん、自分が何をしてるのか分かっていないようだな。それとも、自ら死を選ぶような考えになっちまうくらい狂ったか? ■が少し傷付けすぎたかな?」
「なんとでも言え。こなたはもう負けない」
次回の投稿もお楽しみに
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