強く 大きく
お待たせしました
ぱちっ
「……んん〜…よくねた…ぁあ…っ」
徐に目を開け、ぐぐぐっと体を伸ばしながら目を覚ます水浘愛。まだ完全に起きておらず、上がりきっていない瞼をぐしぐしと擦りながら、体から少しずつ眠気を取っていく。すると、
「…んぁれっ。らてすかてゃんとりんぷてゃんは…?」
自分の手の上にいた筈の欄照華と淫夢巫がいないことに気が付き、あれ? と首を傾げながら辺りを見回す。だが近くには未だに目を閉じて眠っている漢妖歌しかおらず、つい先程までいた者達の姿はない。
「おぉい、おいっ。おきろやおきろ」
ぶにぶに
水浘愛は眠っている漢妖歌の頬を指先で突っつきながら起こそうとする。それからしばらく突っついているとようやく漢妖歌は目を覚まし、
ゴギゴキバギッ…!
「…ったく、なんじゃそうぞうしぃ…」
痛み、傷付き、軋む体を強引に起こして、やや不満げな表情でいったい何事かと問い掛けた。幸いにも意識はあるようで、激痛のショックによる混同も見られない。が、やはり腕を千切られ、万全とは程遠い体ではまだまともに動くことさえ出来ず、
「おぉ…っ、あちち…っ」
ぼにゅうんっ
バランスを崩し、水浘愛の手の上に倒れてしまう。
「んぉっととと。だいじょぶ…じゃあなさそうだねぇ」
「くっ……そぅ…」
すかさず水浘愛は体の一部を触手のように伸ばし、支えた。だが見れば漢妖歌の表情は歯を喰い縛り、苦痛に耐えながらも、何処か悔恨が見て取れるものであった。それは側にいる水浘愛にも分かり、じーっと見つめながら漢妖歌の心の中にあるものを感じ取ろうとする。体の一部をぐにゅうんと伸ばし、ねとねとと纏わり付くようにして。
漢妖歌に触れることでその心にあるもの全てを知ろうとしていた。
「…なにか?」
「なんちゅーかおしてるんだよぅ」
「……あんなことがあったら…あんなひどいめにあったら……まぁこんなかおになるわな」
腰を下ろし、バランスの取れない体を必死に支えている漢妖歌の側へ水浘愛は同じ大きさとなって寄り添う。多量の水を吸って体が巨大化した水浘愛だが、水浘愛の姿の大きさは自由に操作出来るようだ。実際につい先程まで巨体を構成していた部分のほとんどはすでに体の形はしておらず、まるで池のように広がっている。
そんな自分の体の形は水の如く自由自在である水浘愛は、漢妖歌の隣に座ると、改めてその表情を覗き込んで心の内を悟ろうとした。何しろ普通ならば全身を千切られ、激痛に顔を歪めている筈だろうに、漢妖歌が浮かべている表情はそこに悔しさが混じっているのだから。
「でもすぁ…いたいってよりかは、くやし〜ってかんじだよ。かんようてゃん。なんで?」
水浘愛は単刀直入にそう問いかける。
欄照華の場合はひたすら体に無茶を強いて、体の激痛に歯を喰い縛って耐えて、懸命に水浘愛のことを救おうとしていた。そのことを知っているからこそ水浘愛も痛々しい程の傷を負った欄照華を助けようとしたのだ。
そんな自分らと似たような雰囲気を水浘愛は漢妖歌に見出しつつ、その悔しさは何処から来ているのだと尋ねた。
「……ふん、くやしいにきまってるだろぅて。なにしろ、なぁんもできんかったんだからな」
すると漢妖歌は不貞腐れ、口を尖らせながらそう答える。
「ほぅ」
「てもあしもでんかった…。はがたたぬとはこのことだとおもいしらされた…。それに…なにより…りんぷもひどいめにあわせてもうた…。ふがいない……よにちからがないばっかりに……」
「なるほ…ど…」
敵を相手に何も出来なかった、それが出来るだけの力が自分になかった、しかもそのせいで自分だけでなく淫夢巫に酷い目を遭わせる羽目になってしまった。もっと自分に力があれば、もっとこの手に強い力があれば、きっとこんな風に悩み、落ち込み、苦悩することはなかったのだろうと。
その返答に水浘愛は少し気圧され、こんなことを考えるような奴だったのかと感心してしまう。漢妖歌は自分に力がないが故に、共にいた淫夢巫にも傷を負わせてしまったと言っているが、度合いで言えば漢妖歌の方がずっと重傷だ。もちろん淫夢巫の怪我も目を瞑れない程の重傷だが、それでも漢妖歌の傷の方が重いように見える。
少なくとも先水浘愛の目にはそう映った。まず第一に心配するなら自分の体の方じゃあないのか、普通ならば自分の方を気遣うもんじゃあないのか、と。
しかし漢妖歌は自分の心配よりもこの場にいない淫夢巫のことに頭を悩ませているようだった。体の傷も自分のよりも淫夢巫の方を心配しているように見える。
「すこししたら…よはりんぷをさがしにいく…が…そちはどうする? やはり、らてすかか?」
「んぇっ、そりゃあらてすかてゃんやりんぷてゃんのぶじはしりたいけどぉ…。だいじょーぶなの? かんようてゃんは。そんなからだで…ゆっくりしてよぅよぉ」
更に漢妖歌は体が回復したら淫夢巫の無事を確認する気満々であった。当然水浘愛も欄照華や淫夢巫の無事や安否は知っておきたいが、今は漢妖歌の方がずっと心配だと思い、無理せずゆっくりと休養しなよと持ち掛ける。
が、
「ふん、うてぐらいすぐにはえてくるだろて。それに…もしそうでなかったらあやつらからうばいとってくれるわ。いまよりもずっとつようなって、な」
漢妖歌にその気は更々なく、失った腕くらいすぐに取り戻してやると意気込んでいた。
「あ〜……じゃあめみあもそうしよ。やられっぱなしはいやだしね」
その言葉に水浘愛も同意し、自分も強くなってやると心に決める。そして、
「めみあがさ、らてすかてゃんをまもれるくらいつよくなれたらさ、どうかな?」
「べつにいいだろぅ。つようなくてはなぁんもできん」
「だよねっ。よぉしっ、ちょっとがんばろっ」
「だな、おたがいに。さぁて、げんきもでてきたゆえ、うごくかっ」
漢妖歌と水浘愛は強くなることを誓い合い、そうなるために今から精進して行こうと上を向いて動き出した。
――
それと同じ頃、すでに水浘愛と漢妖歌から離れ、新たな地に根を下ろしていた欄照華は、
(まずは…きずをかんぜんにいやす。そのつぎに…ぜったいにつよくなるッ)
地の奥底から養分や水を吸い上げ、自分の傷を癒していた。完治にはまだまだ掛かるようだが、しかし完全に傷が癒えた暁には、必ず今以上に強くなってやると決意していた。その強さこそ、
「こんどこそ…! こんどこそ…! めみあを…! みんなを…まもれるくらい……にッ!」
お母さんが守って来た者達を全て守れる程のもの。その強さをきっと手に入れてみせると欄照華は拳を硬く握り締める。
次回の投稿もお楽しみに
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