少しは大きく
お待たせしました
「ん…ふはぁっ…」
ペリ…ペキペキ…ッ
「…」
朝が来た。眠りから覚め、眠たい体を動かし、ぴったりと貼り付いた瞼を剥がしながら辺りを見回そうとする。が、まだまだ目覚め切っていない頭と体は起きたばかりであるにも関わらずまた眠りに就こうと全身に微睡を巡らせ、深い夢の中へと誘った。
が、
ビキッ…!!
「…!」
完全に眠りに落ちる前に全身に耐え難い激痛が巡り、眠気を一瞬で吹き飛ばしてしまう。その激痛に目覚めたばかりの者こと淫夢巫はくぅっと顔を顰め、体をきゅうと丸めて耐える。何しろ少し前まで全身が砕け、死の直前にまで立たされる程の重体であり、今尚その痕は痛々しく残っているのだから。頭から生えていた角は根本からボッキリと折れ、全身は焼け跡に塗れ、背中にあった筈の両翼は千切れ去ってしまっている。
だが自分の体がそんな状態でありながらも淫夢巫は歯を喰い縛って何とか痛みに耐え、軋む体を半ば強引に起こす。
「……おっ…」
すると改めて景色を見渡した淫夢巫の目の前には、
「すぴー」
「…なん…で?」
見上げる程に巨大化した水浘愛の姿があったからだ。寝息を立て、地面にべた〜っと横たわるようにして眠る水浘愛の姿に一体何事かと驚くものの、疲弊に疲弊し過ぎている体は頭が深い思考や考察をするのを妨げる。
(…)
ふと目線を下に落とせば体に貼り付く液状のものが足元に広がっており、少し体を動かしただけでぼよんぼよんと弾力を持っていた。それが水浘愛の体の一部、手のひらの上であることは深く考えずともすぐに分かり、何でか分からないが傷付いた自分を水浘愛はこの巨大な体で支えてくれていたと理解する。
と、その時、
パキッ
「おきたのか、りんぷ」
「…そりゃあ…ね。それにあなたこそ…ねてたほうがいいんじゃない?」
「ふん、このていどっ……なんともない」
「……いたいならいたいっていえばいいのに…」
淫夢巫の側で欄照華が目覚め、少しくぐもった声色でそう話し掛けた。もちろん先の戦いで全身傷付き、体の至る箇所が欠損してしまっているが、それでもギリギリと歯を喰い縛って耐えており、淫夢巫も辛そうにしてるくらいなら寝ていた方がずっといいんじゃあないのかと告げる。
「ふんっ…! こなたはそこまでよわくない……ッ」
しかし欄照華は傷付いた体に鞭打って強がりながらそう返した。そして覚束ない足取りで水浘愛の手のひらの上から降り、何処かに去って行こうとする。けれども一体何処へ行くのか、何か行く宛はあるのだろうか、
「どこへいくの?」
今の傷付いている欄照華が自分達に頼ることなく、自分だけで生きていけるのか、まったくその想像が出来ない淫夢巫はそう問い掛けた。
「なんじにはかんけいな…」
が、次の瞬間、
「…っ」
ぐらり
欄照華の体はぐらりと倒れ、
ドサッ
「ぬむ…っ」
「むちゃしない」
「むむむ…ぅ」
すかさず駆け寄った淫夢巫の体の上にもたれ掛かる。当然淫夢巫も万全から程遠い状態であるため、自らの力で踏ん張ることが出来ない欄照華のことを支えるのはほぼ不可能であるが、
ぽ…っ
「…おれいはいらない。そのかわり、かしね」
「……かならずかえすッ」
淫夢巫はさも平然とそれを実行してみせた。自らの体の力だけでなく、手から放たれる力によって。その力は直接手で触れずとも欄照華のことを包み込むようにして支えている。
それは『念力』
触れることなく物を動かすことが出来る力だ。
「いつまでもは、むりだから。とりあえずねかすね」
「すきにしろ」
しかしその力はまだまだ未熟であり、淫夢巫の体力も決してあるわけではない。それ故にすぐさまガス欠を起こしてしまい、これ以上支えることが出来ないと分かると淫夢巫は静かに欄照華を寝かす。先程まで何の問題も心配する必要もないと力強く言っていた欄照華も、今の自分が想像以上に動けないと自覚し、横になることを受け入れる。
「にしても…」
「ん?」
仰向けになり、痛みの残る体から力を抜く欄照華。その側に自らもぺたんと腰を下ろし、座り込む淫夢巫。側では変わらず水浘愛がぐーすかと寝ているし、その手の上で先程の自分達と同じように漢妖歌も横たわったままだ。一応呼吸の音は聞こえるし、体もそれに合わせて動いているため、死んでいるわけではない。
そんな状況下、欄照華は淫夢巫のことをじっと見つめ、
「せなかに…その…アレ…あっただろ、どうした」
元々あった両翼はどうしたのだと問い掛ける。先の戦いで千切れてしまった淫夢巫の翼は付け根の部分だけ残して消えてしまっている状態なのだ。
「……ちぎれた。どうせまたはえてくるでしょ…たぶん」
「そうか」
されど淫夢巫は、また翼は生えて来るだろうと何の根拠もない答えを返す。何しろ自分の前には欄照華と言う、体の再生など簡単に出来る者がいるのだから。ボロボロに傷付き、体の一部が欠損してしまっている今でも、断面部分は徐々に再生を始めている。しかもその者はかつて自分のことをずっと敵視していており、事ある度にバカスカとぶん殴って来たような奴。
とても弱気になり、きっともう生えて来ない、ずっとこのままかもしれないと言うなど、淫夢巫には出来なかった。
だからそのように返した。翼は必ず生えて来ると、強気になって淫夢巫は返答したのだ。
その強がりな返答に欄照華もそれ以上触れない方がいいかと一言だけで済ませる。
「…ところで、これからあなたはどーするの?」
すると次は淫夢巫が、これからどうするのかと欄照華に問い掛けた。お母さんがいなくなり、それぞれで生きようと別れたばかりだが、自分達に敵意を向ける存在によってズタボロにされる始末。この場にいる全員が完膚なきまでに打ちのめされ、惨敗などと言う言葉では生温い程に痛手を負った。
そんなことが起きて尚、また以前と同じように各々で生きようとするのかと淫夢巫は暗に聞き出そうとする。
「……すこしだけ…いっしょにいる。いまのこなただけじゃあ……やつらにはかてないから…な」
欄照華はその問いかけに対し、悔しげに唇を噛みつつも、一緒にいると答えた。
戦いを通じて、今の自分ではあまりにも力不足であると思い知った。逃げるのでも精一杯、体の一部が欠損し、死ぬ気でやってようやく逃げることが出来たのだ。
それ程までに自分は弱い、自分だけの力では何も出来ない。
そして自分にはないものを、自分にはない力を他の子は持ってると知った。
だから欄照華は悔しくも、他の子達と共にいることを選んだ。自分には自分だけで生きる力がないから、他の子達の力に頼るしかないから。
「そ」
その答えに淫夢巫は静かに頷く。他者を頼ると言う、以前の欄照華からは想像も付かない言葉に対し、嘲笑も蔑みもせず、静かに一言で済ませた。かつての淫夢巫ならばそうしていたかもしれないが、元よりそんな元気がないことに加え、そんなことをするのも馬鹿馬鹿しいと思うようになったのだろう。
「…」
「…なによ」
てっきり何か小言を、そうでなくとも小馬鹿にするような言葉が飛んで来るものと思っていた欄照華は少し驚いたような表情で淫夢巫のことを見つめた。そして
「べつに、なんでもない」
「あっそ」
と素っ気なく返し、視線もすぐに外してしまう。そんな姿に相変わらず嫌な感じだと淫夢巫は思うが、疲労し尽くしている今うだうだとそんなことを考え続けるのも野暮だと思考を止め、肩から力を抜き、すとーんと落とす。
(さぁてと……これからどうしようか…ね)
だがまだまだこれから。お母さん無き日々は始まったばかり。
一体どうやってこれからを厳しい世界の中を生きて行くのか、子達の苦しみはまだまだ終わらないだろう。
次回の投稿もお楽しみに
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