再会を誓って
お待たせしました
ズル…ズル…
「…」
「うぉっ」
足を重たそうに引き摺りながら、大きくなった水浘愛の元へと何者かが歩いて来る。その者の姿を見るや水浘愛は驚いた表情をするも、
「だ、だいしょうぶ!?」
欄照華が落ちないよう、水を吸って膨らんだ自分の胸を手で持ち上げながらその者達の側へと駆け寄った。何しろやって来るその者の体は見るも無惨な状態であり、千切れた箇所からはボトボトと体液を滴らせている。だが自分の体がそんな状態であるにも関わらず、その者は同じように傷付き、項垂れている者を抱えていた。
ズル……
「よは…もんだいない……りんぷを……たのむ…」
「いやいやいや! かんようてゃんもたいへんじゃん! もんだいありだよ! おおあり!」
傷付き、覚束ない足取りながらも水浘愛の元へ歩いて必死に歩いて来ていたのは、何と漢妖歌であった。しかも漢妖歌は片腕で全身傷に塗れながら気を失っている淫夢巫を苦しげに抱えて。その姿を見るや、水浘愛は大慌てで手を伸ばし、今にも肉体が崩れてしまいそうな漢妖歌と淫夢巫を支えた。
「…」
どちゃんっ
すると漢妖歌も淫夢巫もその大きな手の中にもたれ掛かるように倒れ込む。そして緊張の糸が切れてしまったのか、それとも身体の限界を自覚してしまったのか、漢妖歌はがくーんっと目を閉じてしまう。その光景に一瞬水浘愛は、まさか死んでしまったのではないかと動揺するが、すぐに小さいながらもふぅすぅと背中をゆっくりと上下させて寝息を立てる漢妖歌の姿に安堵する。
だが、
「……」
(かんようてゃんも…りんぷてゃんも…か)
安堵はすぐさま消え失せてしまう。自分の手のひらの上で眠る漢妖歌と淫夢巫の痛々し過ぎる姿を改めて見て。
淫夢巫の背に生えていた両翼は千切れ去り、頭のツノもぼっきりと根元近くから折れ、残った箇所にもヒビが入ってしまっている。
漢妖歌も片腕がなく、断面部分は引き千切ったような痕がある。それに加えて背後の空間からよく覗かせていた無数の腕も今は空間ごと無くなっており、びちゃびちゃと体液が吹き出し続けていた。
「…だいじょーぶ。りんぷてゃんも、かんようてゃんも…めみあがたすけるからっ」
だが、必ず助ける。自分が何とかする、絶対に何とかしてみせる。
水浘愛は大きくなった体でそう決意すると、手のひらの上で眠る漢妖歌と淫夢巫を自分の体で優しく包み込み、傷口から少しずつ癒していく。肉と骨の隙間、極々わずかな隙間に入り込み、体液が溢れ出そうとするのを防ぐ。それだけでなく、傷口がこれ以上傷まないよう優しく塞ぎ、包み、支える。。
水の如く自由でどんな形にもなれる体を、自由自在に使って。
だが、水浘愛は決して自分の体にこのような力が備わっていると知っているわけじゃあなかった。もちろんお母さんから教わったわけでも、水浘愛にはこの能力があると教えて貰ったわけでもない。
ただ漠然と、やらなくてはならないと、こうしなきゃ誰も助けられないと思っただけ。すると出来た、やってみたら出来た、と言うだけであった。
「ママ……」
しかし何よりも、自分がこうすることが出来たのは、お母さんのお陰だと言うのが1番の理由である。何しろ少し前までその手に触れていたのだから。優しく、温かなお母さんの手に。
主に欄照華にぶん殴られた後、お母さんのところに甘えに行った。お母さんはそんな自分の頭を優しく撫でつつ、殴られたところにそっと触れる。するとその部分からは殴られた感触が飛んでいった。
体の構成上、水浘愛は殴られても特に痛くも痒くもなさそうにしていたが、同じように淫夢巫や漢妖歌、時には欄照華にもお母さんはやっており、痛みを取り除いているようだった。
だから水浘愛は同じように、お母さんがやってくれたのを真似してみたのだ。
「ママ…! きっと…きっとまた…あえるよね……」
にゅるんっ
「いまよりもっと…もっとおっきくなるから…またあえるときまでに…だから…」
憧れ、尊敬、情景、尊奉…水浘愛にとってお母さんとはそんな存在だ。大きな背中、大きな御身体、そして何より自分を受け止めてくれる大きな存在そのもの。そんなお母さんが大好きで、ずっと自分の側にいてくれることを当たり前だと思い、その時が永遠に続くことを信じて疑わなかった。
けれども、そうじゃあない。大好きなお母さんは、もういない。自分達のことを前のように抱いてくれはしない。
今では石像の如く凍り付き、固まり、動かなくなってしまったお母さん。どんなに呼びかけても、戻って来てと念じても、何も答えなくなってしまったお母さん。
しかし、必ず戻って来てくれると信じているお母さん。だからその時までに、戻って来る時までに、立派になってみせると水浘愛は離れた場所にいるお母さんに向けて言った。そして、
「おっきくなったねっていって…なでてほしいな。めみあだけでなく、らてすかてゃんたちも…ねっ」
大きくなった自分達を見て大きくなったなぁと言って欲しい、そんな自分達のことを褒めて欲しい、と静かに願う。今は皆ボロボロだけど、お母さんに守って貰わなきゃ生きていけるのかも怪しい自分達だけど、必ず立派に生きてみせると決意して。
じゃぼっ
「さぁってと、つづきつづきつっづき。らてすかてゃんのしてたこと、ダウンちゅーはめみあがひきつがないとねっ」
簡単には挫けない、出来ないと嘆くよりも、出来ることから精一杯やってやる。今それが出来るのが自分だけならば、自分だけでもやってみせる。
水浘愛は再度欄照華がやっていたのと同じように大地中に自分の体の一部を変形させて張り巡らせ、ドクンドクンと脈打つように循環させつつ、その中に含まれる毒素を吸収しては自分の体で無毒化していく。欄照華のしていた大地の再生と毒素の無力化を、満身創痍である欄照華に代わって自分がやろうと言うわけだ。
「ゔ〜ん…」
(みんなをまもりながらとうまくできにゃ〜い…)
が、当然最初から何もかも上手く出来るわけもなく、痛々しく傷付いた他の子達を支えつつ毒の吸収と無力化は困難であった。何方かだけに集中されば何とか出来るのであろうが、2つ同時となると流石に難し過ぎる。
「くっそ〜…あ〜〜も〜めんどっち。やーめたやめた、やーめたッ。らてすかてゃんたちをたすけるのにちからつかおーっと」
すると出来ないと分かった水浘愛はすぐさま毒素を吸い出すのを投げ出すように止め、他の子達を癒すことに尽力し始めた。出来ないことをやっていてもしょうがないし、楽しくない。ならば出来ることだけをやっていようと考えて。
「らてすかてゃんのようにはできないっ! だいたいなおったら、らてすかてゃんがやればいいんだよこんなのッ」
そして自分は欄照華のように出来なければ、やれそうにもないと悟ると、この大怪我が治ったら大地の回復は欄照華に任せようそうしようと決定する。
「らてすかてゃんにぜんぶおまかせっ。そーだそーだ、それでいーや。らてすかてゃんのパワーすごいし」
何しろ欄照華の持っている力は自分よりもずっと凄いのだからと。側で見ていたからこそ分かる凄さを、むしろ存分に見せつけられた凄さを、欄照華は持っているのだから、と。
次回の投稿もお楽しみに
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