助けるべく
お待たせしました
(……?)
目が開く。重たい瞼が上がる。
全身は疲れ切っていて、指1本動かすのさえ辛い。
しかしそんな自分の体は何か柔らかいものに浮かんでおり、優しく包み込みながら沈まないよう押し上げるように支えられていた。
(…ここ…は…)
自分は何をしていたか、此処は一体何処なのか、まとも働いていない頭で欄照華は思考する。けれども全身を覆い、楔の如く打ち込まれている疲労はまともな思考が働くのを許さず、
(……っ)
すぐさま考えていたことを止め、それ以上考えられなくさせてしまう。欄照華はそんな自分に対して嫌気さえ刺せず、次第に思考を放棄して自分を包み込んでいる柔らかいこの空間に身を委ね始めた。今はこの空間にいよう、疲れ切った自分の体を休め、癒そうと、深く考えることなどせずに。
と、その時、
(…ッ!)
呆然と、無心のまま天を見つめていた欄照華の瞳に、
(ママっ…!?)
ずっと探し求めていたお母さんの顔、ずっと会いたかったお母さんの存在が映った、そんな気がした。
瞬間、欄照華は反射的に手を伸ばそうとするものの体は動かないため、ただ目を凝らすしか出来ない。それでもただ一点、お母さんの雰囲気が感じられる天を見つめ続ける。見つめられているような気がしたから、自分達を見てくれているあの目で見られているような気がしたから。
されどその目は何時までも欄照華のことを見つめてくれてはいなかった。次第に瞼を閉じ、惜しむようにしながら何処へと去ろうとし始める。欄照華が手を伸ばして去り行くお母さんのことを呼び止めようとしても指を動かすどころか声すら出ず、ただその成り行きを見つめることしか出来ない。
(ママ……!)
それでも心の中で、声に出せずとも欄照華は必死に呼び掛け続ける。届け届けと願いながら、心の中で叫び続ける。
するとそのお母さんの目は静かに微笑みながら、
ずっと見守ってるよ、大丈夫。
と、言葉に出さずにそう告げる。決してそう言ってるわけじゃあない、ただお母さんの気配と視線を感じる目がそのように告げていると欄照華が思っているだけだ。
しかし、欄照華はそれでもお母さんの言葉だと信じ、もう少し声を聞きたい、もう少し見ていて欲しいと疲れ切った頭で思考を続け、疲労した体に鞭打って手を伸ばし、追いかけようとする。
(ママ…! ママ……ッ!)
――
ぱちっ…
「……マ……マ……ッ!! ……ッ?」
その瞬間、目が覚めた。水浘愛を守り抜くも戦いの果てに傷付いた欄照華は今の今まで意識を失っていたのだ。そしてそんな欄照華のことを、
「きがついた? だいじょぶ?」
「め…めみ…あっ…」
巨大な水浘愛が自分の体の上に乗せながら覗き込んでいた。その光景に欄照華は目を丸くして驚くも、当然ボロボロの体は完全に回復し切っておらず、動かすことはままならない。だが何も出来ない状態が逆に欄照華の思考を落ち着かせ、自分が置かれている状況を理解していく。
先程夢の中でいたあの空間の感触は水浘愛の胸の上であり、自分はその上でずっと意識を失っていたのだと。
けれども、
「よかったぁ…いきてるってしんじてたけどさ」
「……?」
何故水浘愛がこんなに巨大化しているのか。意識を失う前までは水滴と見紛う程に小さかった筈なのに、何時の間に再生を終えていたのか、剰えどうやってこんなに大きくなったのか。欄照華は首を傾げながら考えていた。
そんな欄照華のことを大きくなった自分の胸元に乗っけながら、
「でもまだまだきずまみれ。かいふくしてー! いきてー!」
ぼちゃんっ
「うぶぉっ」
「がんばってー!」
指先から水を抽出し、その顔面に垂らす。が、巨大な体の巨大な指から抽出される水滴は当然のことながら巨大であり、欄照華の顔どころか全身に降り注ぐ。するとその水は抉れた箇所や消し飛んだ断面部分からじゅるじゅると染み込み、潤していく。
「…これは…」
「ねてたときからずっとこうやってた。だってがんばってめみあをまもってくれたんだもん、らてすかてゃんは」
「…そうか。にしても…どうやって…」
その心地良さ、傷付いた箇所が水から力を得て少しずつ回復に向かおうとしている感触に欄照華は表情を緩めつつ、何故口の中に含めるくらい小さかった筈の水浘愛がこんなに巨大になっているのか問い掛ける。
「えっと…らてすかてゃんをたすけるためにみずをたっくさんのんだらこうなっちゃった…。みずがほしいーっ! っていっぱいおもったらじめんからたっくさんみずがでてきて…」
「…」
「でもそのまんまじゃあばっちかったから…めみあのなかでがんばってのめるようにしたのっ」
水浘愛はその問いかけに対し、当時の自分が念じていたこと、欄照華を救うために尽力していたことを説明した。全身焼け爛れ、腕や脚などところどころ欠損し、まともに生きていられる状態ではなかった欄照華のことを何とか救おうと必死に水を求めていた。体液を吹き出し、乾きながら死んでいく欄照華のことを。
その結果、何故かは分からない、自分でもどうやったかは分からないが、地底の奥底に眠っていた大量の水を勢いよく湧き上がらせた。それこそ、地面を突き破る程の勢いで。
だが何故自分にそんなことが出来たのか、この力は一体何なのかなど、そのようなことは全て後回しにして水浘愛は含まれている毒を自分の体で浄化し、傷付いた欄照華に与えていった。更にボロボロの体が崩れぬよう、傷口が裂けてこれ以上体が壊れぬよう、大切な欄照華が生きていけるよう、湧き上がる水を通じて大地に含まれている毒素さえも取り除きながら、持ち上げられるくらい自分の体を大きくしていったのである。
それこそ元の背丈の10倍はあろう大きさだ。
「……こっ…」
「ん? どしたの」
「いや…なんでも…ない…」
(めみあ…こなたが…やろうとしてたことを……こんなにもあっさりと…)
そんな、自分のことを助けるだけでなく自分が苦しみながらも行っていた大地の浄化をあっさりと行ってしまった水浘愛を見て欄照華は改めて驚いてしまうも、
「どぉ? すこしはげんきでた?」
当の水浘愛はそれらのことを自慢するわけでも上から目線で話すわけでもなく、真面目かつ本気で心配しながら問い掛けて来る。
「……ありがとう」
欄照華は自分を助けてくれた水浘愛に対し素直にそう告げると、
「すこし…ねむる。つかれた…」
また瞼を閉じ、静かに微睡みの中へと落ちて行く。水浘愛は自分の胸の上で眠り始める欄照華に一先ず無事であると安心すると、
「おやすみ、らてすかてゃん。めがさめるまでに、ここをくるしまないとこにしておくからね」
一言そう言ってから大きくなった自分の体の一部を変形させ、侵食するかの如く足を大地に脈々と張り巡らせ始める。先程湧き出した水を通じて大地から毒素を抜いていたのだが、完全に取り去ったわけではなかった。そして以前までは、欄照華が大地の毒を取り去ろうと自ら根を巡らせ、草花を芽吹かせて大地を癒そうとしていたのだ。
その努力と尽力を知っていたからこそ、水浘愛もこうして大地を癒そうとしているのである。
と、その時、
じゃりっ…
「んむっ」
そんな水浘愛の元へ鈍く重たい足音を立てながら近づく者が現れた。
次回の投稿もお楽しみに
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