逃
お待たせしました
ドザァアアアア……
降り頻る雨、グツグツと煮える大地、ボロボロになった2つの戦場。そこには戦いを終えた来訪者が雨に打たれながら辺りを見回し、自分の倒すべき敵が完全に消滅したことを実感していた。
いや、よもやそれらは戦いですらない、戦いにさえなっていない。
来訪者と厄災の子達の間には天と地程の差があり、どう足掻いても覆せないものであったのだから。どんなに力を込めても、持っている力を全て使っても傷は疎か、子達は来訪者に対しロクにダメージさえ与えられなかった。そして来訪者も小さな子が相手であったとしても一切容赦することはなく、この場で必ず殺さなくてはならない、絶対に消滅させなくてはならないと純粋な殺意を持って相対し、見逃すことなく始末する気であったのだ。
結果、来訪者へ立ち向かった子達は崩壊、完全に来訪者の目の前からその姿を消した。
「これで厄災の子は完全消滅か。次は⬛︎⬛︎⬛︎…。⬛︎⬛︎⬛︎が目覚める時に向けて備えなくてはな。出来れば今この場で⬛︎⬛︎⬛︎も始末したい…が、数が足りない」
欄照華と水浘愛を消した来訪者は、少し離れた場所で全ての瞳を閉じながら体に塗れた傷を治し、眠り続ける⬛︎⬛︎⬛︎の御姿がある。以前の戦いで自身の愛する子達を守るべく心身の限界を超え過ぎた魔快黎様は意識のほとんどを失い、その全身を石の如く硬くして深い眠りに就いてしまったのだ。
愛する我が子達を残して。
我が子達を守るための戦いで疲弊し、動けなくなってしまった結果、我が子達を側で守れず危険に晒してしまうとはまさに本末転倒だろう。
「さて、また来るか。次は貴様だ、⬛︎⬛︎⬛︎」
来訪者は動かない⬛︎⬛︎⬛︎を睨み付けながらそう吐き捨てると静かに歩き出し、何処へと去って行った。
にょきっ
「……」
そんな来訪者のことを、
ぐむむ……
「……」
小さな小さな草が、荒れた大地に生えた1つの植物が見つめている。
そしてその草の根元を、奥の奥にある根本を辿った先には、
「……」
(まだ…だ)
ジュゥゥゥ……!
「ぐ……うぐぐぅ……」
(まだ……うごくわけにはいかない…。いまうごいたら……バレてしまう……)
高温に熱せられた地中でギュウと体を丸めるズタボロの欄照華であった。欄照華は来訪者の破壊光線を喰らう刹那、瞬時に地中に潜り、直撃を免れたのだ。しかし破壊光線を全て回避出来たわけでも、地中深くに避難することで全ての難を逃れることが出来たわけでもない。回避したのはあくまでも喰らう直前、いや、喰らいながら回避したと言う方が正しいか。全身が破壊光線によって消え去り、焼失しながらも欄照華は必死に地中に潜り、逃げ延びた。
だが逃げた先も地獄。破壊光線によって大地は焼かれ、煙が立つ程に熱せられたため、当然地中に逃げた欄照華もその熱からは逃げられず、全身を焼かれる激痛に襲われる。グツグツと煮立った土壌の中に閉じ込められ、蒸し焼きの如く全身を痛ぶられた。
されど動くわけにはいかない、地中から出るわけにはいかない。もし今下手に動いたら、少しでも怪しい動きをしてしまえば敵に勘付かれてしまうかもしれないからだ。
仮にバレはしなくても、怪しいと思った来訪者は何をするだろうか。その答えはきっと、「辺り一面に破壊光線を撃つ」だろうと欄照華は考えていた。来訪者なら、わざわざ熱せられた土壌を掘り起こして自分達を見つけ出してから殺すような面倒なことはしない筈。きっと破壊光線を放って再び辺り一面を破壊し尽くすに違いない。そうなればもう体は持たない。こんなボロボロの体でこれ以上ダメージを受けたら今度こそ死ぬ。
そう悟っていたからこそ、欄照華は辛くても動かないと言う判断を取ったのだ。
けれども動かない理由はそれだけではない。
モゴ…
「……」
(めみあ…)
本当の理由は、欄照華が自分の口に含んでいる土塊
うに……
(きっと…こなたがまもるッ)
の中にいる小さな液体であった。それは水浘愛の体の一部。先程来訪者によって吹き飛ばされ、飛び散った際、集合と再生が間に合わなかった一部がいた。大部分は破壊光線によって消し飛んでしまったようだが、その一部だけは難を逃れることが出来たため、欄照華は地中に逃げる瞬間、咄嗟に水浘愛を口の中に含んだのだ。
手ではなく口の中にしたのは咄嗟の判断であったため深い理由はないが、しかし結果的に水浘愛の一部は地中の高熱に直接当てられることはなく、小さくなった今でも消えてなくなるようなことはない。
(まだ……まだ……めが…やつのことを…とらえてる…。いなくなるまで……たえるんだ…)
欄照華は口を抑え、高熱の地中で全身を丸めながら、外が安全になる時を待ち続けた。
ーー
そして別の場所でも同じようなことが起きており、来訪者の破壊熱戦を喰らった漢妖歌と淫夢巫は来訪者の前から消滅してしまう。ブスブスと音を立てながら空へ上る硝煙と、焼け爛れた大地は何者の侵入を拒み、寄せ付けない。そんな大地を眺めながら、完全に自分が殺すべき敵は死んだと、来訪者は確信していた。容赦ない熱線で厄災の子は全て破壊しつくし、わずかに残っていた体の残骸も全て焼き殺したのだから。
「さて」
自分の為すべきことは一先ずこれで一区切り。厄災そのものである⬛︎⬛︎⬛︎も始末しておきたいところだが、今は頭数も戦力も足りない状況。下手に挑めば返り討ちに遭い、最悪残った者達も全滅する可能性だってある。そのため来訪者は遠方に見える、眠りに就いた⬛︎⬛︎⬛︎をギロリと睨むも今は戦う時ではないと踵を返し、降り頻る雨の中をザブザブと歩き出した。
「……」
ザァアアアアア…
そんな来訪者のことを遥か天高くから、雨雲と同じ高さから何者かが見つめる。
「はよういけ…そろそろ…げんかい…」
ブルブルブル…
ギリギリ歯を食い縛って耐えながら目下の来訪者を睨み続けるその者の体からは、多量の体液が吹き出しては雨によって流されていた。よく見ればその者には腕が1本しか生えておらず、片方の腕は消失し、背後にあった筈のものはなく、真っ黒な空間だけが浮かんでいる。
その者こそ焼かれ、死んだと思われていた漢妖歌であった。漢妖歌は腕のほとんどを引き千切られ、残った2本の内の片方も焼かれると言う激痛に耐えながら必死に雨雲を掴んでいる。あの一瞬、体に触れる破壊熱線に自分の死を覚悟した刹那、漢妖歌は遥か上空、それこそ来訪者でも分からない程の高さまで瞬間移動していた、いや、させられていたのだ。
きっと淫夢巫が残った力を振り絞ってそうしたと漢妖歌はすぐに悟るも、しかし空が自在に飛べる力がないため、すぐに真っ逆さまに地面へと落ちて行ってしまう。しかも今度は自分を抱えながら空を飛んでくれる存在はいない。
瞬間、漢妖歌は何かに掴まらねばぶんぶんと残った片腕を振り回した。すると今しているように小さな雲を掴み、ぶら下がることが出来たのだ。決して自分には出来ると分かっていたわけじゃあない、自分にはこれが出来ると誰かから教わったわけじゃあない。
ただ『出来た』やってみたら『出来た』だけなのである。
けれどもそれから間もなく目下ではまた来訪者の破壊光線が放たれ、淫夢巫はその中に吞み込まれた。その光景を前にしても雲に掴まり続けるだけで精一杯の漢妖歌は何も出来ず、歯を食い縛って悔しさを噛み締めるしかない。
が、その時、
フッ
「ッ!!?」
そんな漢妖歌の目の前にたった今熱線に吞まれ、消滅した筈の淫夢巫が突然現れた。だが間に合わなかったためか生えていた翼は焼失し、全身にもところどころ焼け跡が目立つ。何より、淫夢巫には意識がなく、転移したばかりの体にはまるで力が入っていない。まさに空中に放り投げられたかの如く淫夢巫の体は一瞬の静止の後、羽ばたくことなく落下を始める。
「まっ!」
次の瞬間、漢妖歌は反射的に足を伸ばし、淫夢巫を挟み込むようにして受け止めた。だが更に増えた荷重を子の腕1本で支えるのは無理があり過ぎる。意識を失っていることで淫夢巫の体は自分を支えないため、漢妖歌には全荷重が掛かっているのだから。しかも天に向かって登って来る硝煙に燻されるだけでなく、その煙を食って雨雲と化した雲が降らす雨にも打たれる始末。
冷たい雨はボロボロの漢妖歌の体から熱を奪うだけでなく、自分達の命綱である指先を滑らせる。
「ぐっ…もうすこし…のしんぼう……のはず…」
漢妖歌の指はすでに限界を訴えており、ずるりずるりと雨雲から少しずつ剥がされていた。そして、
ずるっ
「あっ」
ついに雲から滑り落ち、淫夢巫と共に空から落下してしまう。
「うぁっ……あっ」
地面へ向かって真っ逆様に落ち始める漢妖歌。手を必死に振り回してもすでに掴める雲は周りになく、雨に打たれながら一直線に落下していった。
「くっ……くぅっ……」
下にはまだ去っていない来訪者がいるが、それ以上にこのまま地面に叩き付けられれば確実に死ぬ。淫夢巫もきっと一緒に死んでしまうだろう。
漢妖歌はそう悟りながらも諦めず、ひたすら手を伸ばし続けた。
死ぬわけにはいかない、まだ死にたくない。
必死にそう思いながら、空を手で切り続けた。
そして、
パシッ
「はっ…!」
グンッ……!
そんな漢妖歌の手を何者かが取り、落下する体を押さえる。
はぁはぁと息を切らしながら一体誰がとふと見上げれば、
「……これは…?」
それは大百足の胴体であった。
次回の投稿もお楽しみに
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