守り抜くんだ、絶対に
お待たせしました
ギ…ギギ…!
「…」
「…ッ」
「随分震えているな。所詮はガキ、雑魚の強がりか」
所変わり、自分達の目の前に現れし来訪者に、欄照華は体を小刻みに震わせながらも戦意を奮い立たせて構え、水浘愛はその背後に隠れながらワナワナと怯えていた。しかし来訪者は容赦無く殺意を昂らせながら目下の両者を睨み付け、幼子の戦意をただの強がりだと嘲笑う。
「ら、らてすかてゃん……」
「もんだいない…ッ。こ、ここはこなたに…まかせろっ」
もちろんその言葉は図星であり、欄照華の表情は恐ろしさで強張り、指先は全身はカタカタ震えてしまう。
されど自分のすぐ後ろにはもっと震えている家族がいる、もっと怯えて怖がっている子がいる。だから欄照華は震える体に必死に力を込め、心の底から湧き上がって来る恐怖を押し殺した。横に伸ばしたその両手はまさしく背後にいる者を必死に庇い、守ろうとする盾そのものだ。
グシャッ!!
「『任せろ』だと? そんなに震えた声を出している貴様に一体何が任せられるんだ?」
「…ッ!」
「まぁいい、せめてもの情けだ。痛くないよう即死させてやるさ。もちろん寂しくないよう背後にいる半透明なガキもすぐに後を追わせてやるから安心しろ」
「ヒッ…」
そんな欄照華に来訪者はわざと草花を踏み荒らし、躙りながら近づく。そこには幼子と言えど絶対に殺す、確実に殺してやる、殺意を持って八つ裂きにし、必ず滅してやると言う来訪者の巨大な意思があった。当然それを目の当たりにしてしまった水浘愛はビクンと肩を竦めながら縮こまってしまうが、
「まずは……まずは…こなたをたおしてからに…しろぉ!」
欄照華は伸ばしていた腕をゆっくりと曲げると、拳をぎゅうと握ってお前の相手は自分だと来訪者に訴えかける。水浘愛とも戦うと言うのならば自分を倒してからにしろ、と。
「へぇ」
ヒュッ
と、次の瞬間、来訪者はやれやれと呆れながら水浘愛の目にも止まらぬ速さと欄照華の体にも全く反応出来ない速度で腕を振るい、
ズブッ
「……?」
「……え?」
「まず1匹」
ブシィアアアアアッ!!
中指の先でいとも容易く欄照華の腹を貫いた。幼子の体と比べてずっと大きな来訪者の指は欄照華を真っ二つにしてしまう程の風穴を空け、多量の体液を吹き出させる。誰がどう見ても致命傷でしかない一撃、確実に死んだであろう甚大な被害に欄照華は、
「…」
ドシャッ
体から指が引き抜かれるのと同時に声も出さぬまま倒れてしまう。家族が倒れる光景を前にしばらく水浘愛は呆然と立ち尽くすが、
「……」
ビュッ……ブシッ
「……あぁっ…」
欄照華の体に空いた風穴から吹き出し続ける多量の体液と、
ズシィンッ
「次は貴様だ。だが怖がることはない。貴様も同じように即死させてやるからな」
「うぁああ…」
容赦無く迫り来る来訪者の姿に少しずつ状況を飲み込み、、
「じゃあ、死ね」
「うわぁああああ!!」
ついに恐怖の悲鳴を、阿鼻叫喚の声を上げてしまう。すでに腰は抜け、此処から逃げ出そうとすることさえ出来ない。後はもう同じような手で来訪者から死を与えられるのを待つだけ。
どう考えても自分は助からない。今すぐこの場で死ぬ。恐ろし過ぎる自分の未来を悟ってしまった水浘愛の目からはみるみる明るさが死に、悲鳴の声すらもまともに上げられない。
そんな水浘愛に来訪者は容赦無く腕を振り上げ、一撃で葬り去ろうと力を込めた。
その時、
ズゴゴゴゴゴッ!!
「んっ?」
「ひゃっ!」
突如として水浘愛の目の前、来訪者に立ち塞がるかの如く何本もの巨木が地面か生える。その衝撃と驚きで水浘愛は思わず吹き飛び、べちゃべちゃと転がっていってしまう。来訪者も思わぬ事態に驚愕はしないものの、司会を覆わんばかりの巨木達に動きを止めてしまった。
そして次の瞬間、
ギギギギギ……!!
「い……いったはず…ッ…だ! ゼェ…こ、こなたをたおして……からに…しろ…って」
「これは驚いた。まだ生きてるのか」
「しんで……ヒュゥ…たまる……ゴボッ…が!」
生え揃った巨木の幹の上に乗り、びゅうびゅうと体液を腹だけでなく口からも吹きながら、まだ生きている欄照華は来訪者の前に立ちはだかる。しかし向こう側が見えてしまうくらいの大穴を空けられている欄照華の体は動くのは疎か生きているのさえやっとと言う程。と言うよりも生きていることが不思議なくらいだ。今はこうして立てているものの、後少しすれば何もせずともまた倒れ、今度こそ本当に死んでしまうかもしれない。
「ら……らてすかてゃん……」
「め、めみあ……」
だがそれでも欄照華は立ち続ける。すぐ後ろにいる家族のために。
(こなただって……ママみたい…に! おねえちゃんたちみたいに……)
ギギギギギギ……ッ
(つよくなるんだ…! まもれるようになるんだ…!)
憧れの存在に自分もなる、自分のことを守ってくれた存在のようになると折れそうな心を鼓舞し、崩れそうな体を支えて。
「はっ、しぶといッ。放っておいてもくたばりそうだが、やはりちゃんと殺しておかないとな」
けれども、
ビシュッ!!!
「ッ」
来訪者は、生きているのならば殺すのみだとすぐさま指を持ち上げ、その先から熱戦を放つ。ボロボロの体に鞭打ち、欄照華は咄嗟に倒れるようにして回避するが、幼子の反応速度では到底間に合わず、
バンッ!!!
「…ガッ」
頭頂部分からほぼ真っ二つ、右半身のほとんどを焼かれ、消滅してしまう。欄照華は断面からフスフスと煙を吹き出しながら、虚な目で真っ逆さまに地面へ落ちて行った。
「やはり雑魚は雑魚だな」
グシャッ
「…」
「うそ…」
そんな欄照華を来訪者は雑魚だと言い放ち、しぶとかったが動かない様子を見、てこれでようやく死んだかと判断する。そして次なる標的である水浘愛に目を落とし、コイツもさっさと殺さなくてはと近づく。
対して水浘愛は尚も動けないままその場にヘタレ込み、動けなかった。すでに恐怖が心身のほとんどを汚染されているため、まともな判断や行動さえも出来なくなっているのである。
「さて、さっさと殺すか」
来訪者は動けない水浘愛を今度こそ即死させてやろうと拳を振り上げる。
シュルシュル……
「…」
ザワ…ザワ…
「チッ」
グイッ
が、
「え…」
「ほんとにしぶといな貴様」
「め…めみあ…ぁに……て、てを……だすな……」
「らてすかてゃん!!」
幾つもの小さな蔓が来訪者の足に絡み付き、動きを止めようとした。もちろん1本1本があまりにも細いため、どんなに絡み付こうとも足を止める程の力はないが、しかしその足掻きが、欄照華の生命と諦めない力が来訪者の癪に触れたため、水浘愛までの行く手を阻むことは出来たのだ。
残された自らの力を全て使って、出来ることは全て尽くす。
どんな手を使ってでも自分が生きている限り水浘愛には指1本触れさせる気はない。
幼子とは到底思えない程の強固なその決意が、力強さが、欄照華の目には現れていた。
「いい加減にしろよ貴様。黙ってりゃそのまま逝っただろうに」
「ゼェ…ゼェ……。かんけぃ……ないッ…。なん…じ……は…こなたが……ゴフッ」
しかしそれは来訪者の神経を逆撫でし、苛立たせるだけである。それこそ最初は即死によって楽に死なせてやろうと思っていたのに、こんなに往生際の悪い奴はもっと苦しまねば死なないだろうなと考えを改めさせる程。厄災の子とは言えこんなに死なないものなのかと来訪者は苛立ちながら、少し本気で殺してやろうと踵を返してもう動けないであろう欄照華に迫る。
バッ!
「ん?」
だが、
「もうやめて! らてすかてゃんをいじめないで!」
「…ようやく動いたと思ったら、下らん戯言を…」
呆然と立ち尽くしていた水浘愛が動き、来訪者の前に立ち塞がった。その表情には恐怖や畏怖こそあれど、それ以上にもう自分の大切な家族を傷付けないでと訴える勇気がある。水浘愛は自分にとって死をもたらす存在でしかない来訪者から欄照華のことを真守べく両腕をめいいっぱい広げ、自分の体を使って家族を守ろうした。
「おねがいだから…ころさないで! こうさん…する…から! めみあたちはなにもしないから…!」
「……ふん」
そして必死に懇願する。生命だけは助けてくれと、自分達には戦う意思などない、怒りを買うような真似は何もしないと。幼子ながら懸命に言葉を選んで頼み込んだ。
「戯言だ。それに、■がわざわざ聞き入れると思うか? 貴様らは⬛︎⬛︎⬛︎の子であり、いずれ世界中に災いをもたらす、そんな存在になる可能性がある。だから殺しておく必要があるんだよ。世界のためにな」
「……ッ。ダメ…か」
けれどもその懇願を来訪者は聞きなどしない、殺すことに変わりはないと言い放った。水浘愛は無慈悲なる言葉にダメかと悲観し、俯くも、
ゴボッ
「なら…」
ゴボッゴボボボッ……!
「なら…めみあが…きさまをぶっつぶす!」
全身を沸騰させるかの如く感情を怒りへと変え、燃やしながら来訪者のことを睨み付ける。
次回の投稿もお楽しみに
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