戦は出来ぬ……?
お待たせしました
もっしもっし…
「んびゅぷ〜…ぜんぜんはらにこたえないよ〜ゥ」
欄照華から指差された場所に生えている萎れた草花を口に運ぶ水浘愛。液状の物質で構成された半透明な体は欄照華とはかなり違っており、毒を含んだものを口にし、消化吸収しても平気なようだ。それどころか毒を喰らったとしても侵されることはなく、むしろ自分自身の力へ変換してさえいる。
されど萎れ、枯れた草花というのはそもそも量がなく、大きさも小さいものばかり。中にはとうに枯れ、朽ち果て、腐ってしまったものもあった。そのためいくら口にしようとも決して腹の中が満たされることはなく、逆にそれが水浘愛の空腹感を煽る。
「ん゛〜…」
しかも口にする草花には水々しさが一切なく、むしろそれらが水分を水浘愛の口内から奪っていく。故に腹は一向に満たされず、求めていた水分も逆にどんどん失っていくと言う状況なのだ。そんな状況に水浘愛は不貞腐れるように頬をぷくっと膨らませると、
「らてすかてゃあん!」
少し離れた場所にいる欄照華の名を呼んだ。
「なんだそうぞうしい」
すると欄照華はその呼び掛けに対し、振り向きながら一体何の用だと面倒臭そうに振り向く。
「のどかわいーた。なんとかしてぇ。これじゃあぜんぜんはらがいっぱいにならなーい」
水浘愛は欄照華に萎れた草花を見せながら、これでは全然腹が満たされない、幾ら食べても喉が潤うどころかどんどん乾くと訴えた。
「しらん。ふまんがあるのならほかにたべるものをさがせ」
「ぷぅ〜ッ、いじわる〜、けちんぼ〜」
しかし欄照華は変わらず素っ気ない態度で、文句があるのなら別の食物を探して食えと返す。元々は水浘愛がこの場所に転がり込み、迷惑をかけないと言う条件で暮らそうとしているわけなのだから、欄照華は面倒を見るも助けを施すこともする義務はないと考えているのだ。
実際に欄照華は自らの力で自分の食べられるものを見つけ、自分が暮らしている場所を作り出している。自分に出来て水浘愛に出来ないわけはあるまい、水浘愛にもそれだけの力はきっとあるはず、と欄照華は思っていたため、特に手を貸す気はなかった。
それに加え、
ギギ……
「…」
(…くぅ)
荒れた大地の猛毒を吸い、癒している最中であるため、欄照華にはそもそも助けられるだけの余力はない。自分のことだけで精一杯、強がるだけでもかなりしんどい状態。そんな自分の姿を水浘愛に晒すわけにはいかない、助けることなど出来はしないと辛くも堪えていた。
「なにをいわれても、こなたはなにもしてやらないぞ」
「かっち〜んっ、ならいいもん。どっかいっちゃうもんね〜」
「かってにしろ」
その言葉に水浘愛もぷくりと頬を膨らませ、持っていた草花を地面に置きながら怒ったような口調で何処かに行ってやると言う。されど欄照華は好きにしろと突き放すように返し、ぷいっと外方を向いてしまう。
「ぬに、ほんとにどっかいっちゃうぞ。ほんとだぞ」
「かってにしろって…」
「さびしくない? そのはんだんこーかいしないか? いまならまだかんがえなおせるぞぉい」
「いくんならさっさといけよもう…」
そんな欄照華の素っ気なさ過ぎる態度に水浘愛は怒り口調から一転、本当にいいのかと少々慌て口調で問い掛ける。自分がいなくなって寂しくならないか、考え直すのなら今しかないと急かすように。けれども此処へ勝手に来たのも、何処かへ行くと言い出したのも水浘愛であり、欄照華から言わせれば本当に勝手にしろと呆れるしかない状況だ。しかも自分の口でそう言っておきながら一向に行動に移そうとしない姿にも欄照華は呆れ果てている。
だが下手に絡めばそれだけで自身の精神を削ることになると分かっているため、欄照華はごねる水浘愛を適当に遇った。それからしばらく水浘愛の本当にいいのと言うゴネと、勝手にしろと言う突き放しの問答が続いたが…
「ならいいもん! こーかいしてもしーらない!」
ずりゅりゅりゅっ
最後には水浘愛の方が折れ、ぷんぷんと怒ったような口調で何処かへと去って行ってしまう。ただやはり名残惜しいのか、側を離れたくないと言う想いがあるのか、何度も何度も立ち止まっては振り返っていた。
「やれやれ…」
欄照華はそれを見送りながら、肩を大きく落としてはぁーっとため息をつく。ようやく行ってくれたか、やっと五月蝿いのがいなくなったかと肩に乗っかっていた荷を下ろし、腰を地に下ろして押し寄せる疲労に耐える。
すると疲れ、毒に傷ついた体はかつての記憶を思い出し、側で支えてくれていた存在を想起させた。そしてふと少し目線を上げれば、記憶の存在が目の前にいる。
「…ママ。かえってこないの?」
ついいつものように、少し前までしていたのと同じように、欄照華はそう尋ねてしまう。しかしその存在は自分の呼びかけには答えない。自分が求めても何の反応も示さない。そうだと分かっているのに、分かっていたつもりだったのに、こうして話し掛けたところで虚しくなるだけなのに、何でそんなことをしてしまったんだろうと悔やみながら。
けれども泣かない、涙なんか流すまいと欄照華は唇を噛み、拳をみしみしと硬く握り締めて懸命に堪えた。
「……ママ、みててね。こなたは…つよくなるから…」
自分は弱くなんかない。強くなるんだと、強くなってお母さんに褒めて貰うのだと欄照華は強く決意する。本当は甘えたい、お母さんの側にずっといたい。でもそれが叶わないのなら、今すぐ帰って来ることがないのなら、諦めてその時が来るのを強くなりながら待つしかない。
「……つらいな」
例えそれが自らの心を青い花の茨の棘で傷付けることになろうとも。
ズルズルズルルルゥ!
「おーい」
「……?」
と、その時であった。
何処かで聞き覚えのある、何ならつい先程聞いたことがある気がする声が何処からか聞こえて来る。
欄照華は一体何なのだと落としていた肩を持ち上げ、体に力を込めて立ち上がりながらその声がする方を振り向いた。するとその姿をしっかり捉えるよりも早く、
「おーい!」
ズリュリュリュッ!
「……うわっ」
声の主が何者であるか気がつき、気怠そうに肩を再び下ろす。体からもしゅるしゅると込めていた力が抜けて行った。
「らてすかてゃ〜ん!」
「きたよ…」
その正体は想像通り水浘愛であり、にゅるにゅる下半身をうねらせながら欄照華目掛けて大地を走って来る。つい先程別れたばっかり、気に入った食事が出来ないこの場に嫌気が差して何処かへ行ったんじゃあなかったのかと呆れ返りながらも、何処かこうなるだろうと予想していた欄照華は拒むことはしなかった。すると水浘愛はするすると生えた草花を踏み潰さないように避けながら欄照華へと駆け寄る。
「おい、へんにちかづくな」
「そんなこといわないでよぉ! ほんときんきゅーじたいなんだからァ!」
「は?」
そしてそんなことを言いながらむぎゅぅと欄照華の体に抱きついた。欄照華は鬱陶しいと思いながら水浘愛のことを引き剥がそうとするが、しかし緊急事態と言う言葉と何処か焦ったような口調で語り続ける水浘愛はなかなか離れようとしない。
「ほんとたすけて!」
「なに? いったいなにを…」
と、水浘愛の口から「助けて」と言う言葉が飛び出し、
ガシャンッ!
「逃げ足だけは早いと思ったが、逃げられると思ったのか? それとやはりな、■のことを振り切れたと思って他のガキの元へ行くと思った」
「な、なに……」
「めみあのこと…ころすって…それで…」
「なんだと…?」
欄照華のすぐ目の前に自分達よりもずっと大きい異形の存在が現れる。それを見るや水浘愛はぱっと欄照華の背後に隠れ、その存在を指差して自分のことを殺そうとして来たと言った。自分の肩に触れている水浘愛の手はフルフルと震え、本当に怯えていることが伝わる。
「まぁいい、2匹纏めて殺してやる。元々その気だったからな」
「…」
「…!」
現れたその者は欄照華と水浘愛のことを見下し、殺意の篭もった目で睨み付けながら纏めて殺してやると言い放つ。その殺意と全身に満ち満ちている力は欄照華達の力など優に超えており、到底両者に敵う相手ではなかった。それは両者共分かっていることであり、欄照華は少し引け気味の腰で構え、水浘愛はすっかり怯えて縮こまってしまっている。
しかし、
ギリギリ……!
「さがってて」
「え…」
欄照華はぎゅうと拳を握り、張り巡らせた根を引き上げて1歩前に出ると、
「お?」
ザッ…!
「こなたが……あいてだ!」
「ほう……」
ギシィ!
力強く構え、水浘愛の盾の如く構えた。
次回の投稿もお楽しみに
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